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アフターコロナの働き方(2)~まだ道半ばの働き方改革とリーダーシップ開発|アジア地域大規模調査結果を読み解く
前回のコラムではリーダーシップ開発の世界的権威であるCCLが実施したアフターコロナでの働き方に関するアジア・パシフィック大規模調査の冒頭部分をご紹介しました。
その中で従業員はこれからもハイブリッドワーク(対面とリモートワークの両方)を働き方の選択肢として継続することを望んでいることや、日本とアジア各国の意識の違いなどをご理解いただけたかと思います。
日本がアジア各国と違っているから「悪い」ということは全くありませんが、すくなくとも「違っていること」は認識しておく必要があります。
特に「ハイブリッドワークを成功させるためにどのような組織文化要素が必要か?」という質問に対しては、日本企業の回答は「心理的安全性」と「学習」が上位であったのに対し、アジア各国の企業の回答は「協働(COLLABORATIVE)」、「説明責任(ACCOUNTABILITY)」、「結果志向・成果志向(OUTCOME ORIENTATION)」が上位に並んでいます。
このデータだけでは断言はできませんが、アジア各国の方が「自律したプロフェッショナルとしての個人が集まり協働することを、より重要視している」とも言えなくはありません。
特に、重要視されながらも未だに「心理的安全性が大事」というレベルから脱却できていない雰囲気を漂わせているのは、組織能力開発上は懸念事項であると言わざるを得ません。
我が社なりの処方箋はあるか?
繰り返しですが、「心理的安全性」が大事ではないと言っているのではありません。しかし、心理的安全性が大事だから職場で対話会を実施したり、他社もやっているから、と上司と部下の1on1を実施したりというだけでは戦略人事には程遠いと言えます。
ここで一冊、貴重な研究をご紹介したいのですが、それが法政大学の石山教授による『日本企業のタレントマネジメント』です。石山教授は日系・外資系両方の勤務経験をお持ちであり、本書は日系・外資系のタレントマネジメント施策を詳細に調査して、各企業におけるユニークな施策を洗い出しています。
詳細は本書に譲りますが、石山教授の調査研究で示されていることの一つに「エンゲージメントを高めるための処方箋」があります。何かといえば、「自社のあるべき人材像を示すこと」です。これは聞けば当たり前に聞こえるかもしれませんが、筆者の経験からは、まだまだ数多くの日本企業が自社のあるべき人材像を示し、育成施策に落とし込めていないように見えます。心理的安全性が大事だから、まずは「関係の質」を高めるために「対話会」を行う、エンゲージメントが大事なので、エンゲージメントを高める1on1を行う、というだけではなく、そろそろ先に進む為のヒントがいろいろ見出せるのがこちらの研究結果です。(ちなみに外資系であればすべてがジョブ型、なのではなく、日本市場においてメンバーシップ型とジョブ型を組み合わせて戦略的なマネジメントを実施しているというような調査結果も示されています)
組織文化を創るリーダーたちの現状は?
それでは本題に戻っていきましょう。組織文化を創るのは誰でしょうか?それは組織にいる人々に他なりません。
特に今回の大規模調査では組織にいる人のなかでもリーダーに焦点を当てています。リモートワーク、ハイブリッドワークが入ってくる中で、組織のリーダーたちはどのような状態なのでしょうか?
こちらの図は縦軸にはハイブリッドワークを実施・継続するためのマインドセットの状況(MINDSET Readiness*)、横軸にはスキルの状況(SKILL Readiness*)が書かれています。黒字で表示されている数値(%)がAPACの数値、赤字は日本の数値です。
*マインドセットには成長志向、信頼、説明責任、権限移譲、組織横断的な視野などが入っており、スキルにはコミュニケーション、信頼関係構築スキル、期待値設定、短期学習能力、デジタル関連スキルなどが入っています。
まずマインドもスキルも問題なし!というリーダーをチャンピオン(CHAMPION)としていますが、APAC平均は41.6%、日本は29%になっており、だいぶ差があります。そして次に差が大きく出ているのは右下のSKEPTICS(スキルはあるがマインドがちょっと・・・ハイブリッドワークって本当に良いものなの?と疑問を抱いている群)になり、APACが30.7%に対して、日本は43.8%です。単純に言うとAPACはCHAMPIONが多く、日本はSKEPTICSが多いという状況になります。
ここで少し状況を整理しましょう。
前回のコラムで提示した調査結果を見ると
・従業員の多く(半数以上)は今後もハイブリッドワークを働き方の選択肢として望んでいる
一方、今回の調査から明らかになったリーダーたちのマインドとスキルの状況を見ると、
・日本のリーダーたちはハイブリッドワークをするスキルには問題ないが、そもそもハイブリッドワークに対する疑念を抱いている
ということになります。
これはなかなかシビれる状況ですね。組織内に若い世代(大学時代からハイブリッドワークが当たり前)が入ってくる中で、リーダーシップを発揮すべきリーダーたちがハイブリッドワークに疑念を抱いているというギャップが生じているのです。対話会や1on1をやっても解消するはずがありません。
この事態を打開するために、マインド、スキルの両方をもう少し詳細に見ていきたいと思います。
まずマインドセットですが、詳細に分解すると下記のような結果になっています。
ハイブリッドワークを成功させるためにリーダーがマスト(MUST)で持つべきマインドは?(複数回答可)という質問の結果がこちらです。灰色の棒グラフがAPAC各国の平均、青の棒グラフが日本の結果を示しています。
最も重要であると考えられているのはBOUNDARY SPANNING(組織の壁を越えること)となっています。その他、いくつかの項目で日本独自の結果(APACとの差があるもの)があります。この結果をよく眺めてみてください。
次回は「なぜこのような結果になったのか?」を考えるところから始めてみたいと思います。皆さんはどのように考えますか?