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アフターコロナの働き方(1)~まだ道半ばの働き方改革とリーダーシップ開発|アジア地域大規模調査結果を読み解く
2020年初旬から始まったコロナ禍を通じて「対面でのコミュニケーションの貴重さ」をあらためて感じられた方も多いと思いますが、コロナが落ち着いたとたんに『原則、出社せよ』もしくは『リモートワークの全面継続』という、ある種の極端な意思決定がなされた組織には、今後どのような影響があるのでしょうか?
この『アフターコロナの働き方』について世界的なリーダーシップ開発の権威であるCCL(Center for Creative Leadership)がアジア・パシフィック地域において大規模な調査を実施しました。日本からも日本CHRO協会を通じて数多くの企業が調査に参加し、調査結果の解釈にはCCLの日本市場におけるパートナーである弊社インヴィニオが協力をしました。今回から3回程度に分けて、その調査結果のハイライトをお伝えしていきたいと思います。
調査概要
- コロナの前後を通じて、アジア太平洋地域における企業・NPO・政府組織の職場にどのような進化・変化が起きたのか。
- 上記の組織が採用しているさまざまな働き方(ワークモデル)にはどのようなものがあるか。
- リーダーはハイブリッドな働き方(ハイブリッドワールド)にいかにして備えることができているか。
- ハイブリッドワールドで成功するためにリーダーが示さなければならない「正しい」考え方と持つべき能力は何か。
対面とリモートワークを組み合わせた『ハイブリッドワーク』は多くの企業にて定着
まず、こちらのグラフですが、コロナ後にどのような働き方が求められるかという質問です。
図の中の黒字の数字はAPACの各国の数字であり、カッコ内の赤字は日本の数字になります。まず左下から『100% in the office=完全出社』ですが、APACでは14.6%、日本では8%です。APACの数字を引っ張っているのは中国で、突出して『原則、出社せよ!』が高い結果となっていました。
その他の項目でもAPACと日本でそれほど大きな乖離はないのですが、やはり注目すべきは『Hybrid-Office First(出社が基本のハイブリッドワーク、日本では47.8%)』、『Hybrid-Remote First(リモートワークが基本のハイブリッドワーク、日本では21%)』ですね。7割に迫る企業がコロナ後の働き方の基本としてハイブリッドワークを挙げています。もちろん業界や部門によってハイブリッドワークが実施できないというケースもありますが、かなり高い数字と思いますし、ハイブリッドワークが相当に浸透し市民権を得たと言っても間違いないと思います。
諸刃の剣としてのハイブリッドワーク
従業員からも働き方の選択肢として定着し、採用やタレント・リテンションへの影響も確認されているハイブリッドワークですが、ハイブリッドワーク=誰にとっても良い選択肢なのでしょうか?本調査ではハイブリッドワークがもたらす影響としてエンゲージメントと生産性についても調査を行っています。
左側の分布図はエンゲージメントを、右側の分布図は生産性を表しています。(白抜きの数字がAPACの結果で、赤字が日本の数値です)
興味深いのはハイブリッドワークは「ローパフォーマーのエンゲージメント・生産性を下げ、ハイパフォーマーのエンゲージメント・生産性を上げる効果がある」ということです。
確かにハイパフォーマーとは、出社かリモートかなどということはそこまで問題ではなく、どんな状況でも成果志向で結果を出す人たちなので、ハイブリッドワークという選択肢があるということがエンゲージメントや生産性向上につながるのは非常に理解できます。逆にローパフォーマー=自律性が低い従業員にとってはエンゲージメントも生産性も低くなるのは、これまたよく理解できます。
皆さんの会社ではどうでしょうか?コロナ後に一律に『出社が原則』などになってしまっていないでしょうか?この二つのグラフ(エンゲージメントと生産性)だけでも多様性の時代に働き方をどうするべきか?を考えるための材料を与えてくれています。
ハイブリッドワーク成功のカギを握るのは人と組織文化
まだまだ発展の余地があるハイブリッドワークですが、従業員の多くが今後も継続を望んでいることは間違いなく、しかし、ハイブリッドワークが万能薬ではないことも見えてきました。では、効果的なハイブリッドワークのカギを握るのは何かと聞かれると、上位2つに、組織文化(Organization Culture)と人(People)である、という回答が得られました。
なんとなくわかる気もしますが、より詳細を見てみようと思います。
まずは組織文化の方ですが、組織文化の要素を分解して「どの組織文化の要素が重要か」という質問に対して得られたのが下のグラフになります。
※複数回答可、値は%・青の棒グラフが日本の数値でグレーの棒グラフがAPAC
ハイブリッドワークを効果的に行うために重要と思う組織文化の要素を回答(複数回答可)してもらっていますが、実に特徴的な結果が出ました。
まず日本とAPACの共通点ですが、真ん中あたりにある「OPENNESS & TRANSPARENCY(オープンであることと透明性が高いこと)」があります。特にオンラインでのコミュニケーションが入ってくると、オープンなコミュニケーション、透明性の大事さというのは皆さんも直感的にもご理解いただけるのではないでしょうか?
それではAPACの結果と日本の結果で差が出ているところにいくつか焦点を当ててみます。
APACで高い数値が出ているのは「COPPABORATIVE(協働・コラボレーションのしやすさ)」、「ACCOUNTABILITY(説明責任)」、「OUTCOME ORIENTATION(成果志向)」の3つです。物理的に離れていても成果を出すためには協業・コラボレーションの文化は非常に重要です。また説明責任や成果志向が重要視されているのも非常に興味深いところです。どれも自律したプロフェッショナルとして成果を出すための基本要素が選ばれていると言って間違いないと思います。
一方の日本も非常に興味深い回答が得られています。
一位は「PSYCHOLOGICAL SAFETY(心理的安全性)」、続いて「LEARNING(学習)」です。
敢えて申し上げたいのですが、「まだ心理的安全性が選ばれるんだな」というのが筆者の感想です。もちろん心理的安全性は重要な要素なのですが、もうそろそろその議論からは卒業しませんか?とも言いたくなります。Googleの調査をきっかけにスポットライトを浴びた心理的安全性ですが、Googleの調査では心理的安全性をベースに、高い生産性を上げるチームの特徴として複数の要素が挙げられています。
心理的安全性を出発点にしつつも、次の要素が「Dependability」(意訳すると「ちゃんと結果をだせると頼りにできること」)、そしてもう一つ、Structure & Clarity(それぞれのメンバーが明確な役割と計画、ゴールを持っている事)になっています。実際、日本企業からの回答内容をよく見てみると「STRUCTURED WORK ENVIRONMENT」(12.9%)も選ばれているのです。今でも「心理的安全性」のある種のブームは続いていますが、そろそろ次のステージに行ってもよいのではないかと心底思います。
もう一つは「LEARNING」ですが、これはリスキリングブームに引っ張られている可能性が高いです。2022年から多くの企業にてオンライントレーニング(特にDX系)が導入されましたが、そもそも自社の未来の姿、そこへ到達するまでの戦略、戦略実行に必要となるスキルという体系はとられているのかどうか、きわめて疑問です。「従業員が好きな講座を受けることができる」というMOOCs(Massive Open Online Courses)は広く普及しましたが、コースの完了率は5%以下であることが長く続いています。研修に対する費用対効果はこれまでもこれからも問われる中で、このコース完了率はその効果に疑問を抱かざるを得ない数字としか言えません。
それでは次回以降、さらに調査結果について深掘りしていきます。