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対話よりDMAICV:古くて新しいカタの勧め(前編)
新入社員を迎える時期が近づいてきました。4月からは新入社員研修が始まりますが、新入社員に限らず、既存社員の昇進・昇格もすでに内示が行われ、新たな役職への着任に向けた各種の研修の準備が進んでいるのではないでしょうか。
今回は筆者がここ最近よく耳にする若手リーダー、次世代管理職候補育成で起こりがちな出来事がテーマです。
若手リーダー育成の撃沈劇:「わかっていない」のは会社ではなく自分たち自身
どのような出来事かを簡単に書くと、
・若手リーダーや次世代管理職に対して、ロジカルシンキング/クリティカルシンキング等の思考力強化を含めたインプットセッションを実施。
・外部の起業家や、ケーススタディも実施して視野と視座を高めた。
・アクションラーニング形式で変革案や新規事業案を検討させ、最後は経営陣にぶつけてみた。
・そして撃沈…
というものになります。(心当たりのある方も多いのでは?)
この結果、若手リーダーからは「ウチの会社の役員陣は本当に時代遅れ」だとか「若手のエンゲージメントが大事といわれているのに、まったく逆行している」といった声が聞かれるようになり、人事としては追加対策として、
・若手と経営陣の「対話会」の実施(=誰も幸せになれない不毛なコミュニケーション)
・若手リーダーの上司に対してのコーチング研修の実施(=ただでさえ忙しい管理職からすると完全にとばっちり)
等が実施されたりしています。
若手リーダーや人事の方々の言いたいことも理解できなくはないのですが、このような残念な現象を聞くたびに私が感じるのは最終提言を聞いてくれる相手(主に経営幹部)に対する敬意の欠如です。
経営幹部や役員の方のレベルが本当に低い場合ももちろんあるかとは思いますが、そのクラスになると、有象無象の決済案件が持ち込まれ、若手リーダーよりもはるかに時間に追いまくられています。そこにいきなり変革案や事業案を持ってこられても、まともに取り合ってもらえる確率はかなり低いということは理解しておいた方がよいでしょう。これは幹部や役員がリーダー育成プログラムのスポンサーになっていたとしても同じです。(「自分でリーダー育成が大事だ」と言っていたのに、なんていう愚痴は無意味です。)
育成を目的としたアクションラーニングだけではなく、様々なプロジェクトなども含め、これまで筆者が見てきた失敗事例のうち、変革案・事業案を聞く側(経営幹部・役員)がダメ出しをする場合、その変革案・事業案そのものについてダメ出しをしているというよりは、案を出す「手続き」・「プロセス」に問題がある場合がほとんどで、具体的には社内の重要な利害関係者・キーパーソンを適切なタイミングで巻き込めていないのでダメ出しをされているケースを数多く見ています。
社内の重要人物を巻き込めていない案を持ってこられれば、聞く側としては「誰が社内調整をやるんだ?(自分にはそんなことをやる時間がない)」となりますし、そもそも関係者の巻き込みが甘い提案は「これは誰が実行のリーダーになるの?」と聞かれると提案する側ですら「え?(=自分は嫌だな…)」となるケースも多いのです。
適切なタイミング・内容で人を巻き込む方法を身に着ける:DMAICV
提案内容を固めた最終段階で持ってこられても、提案の聞き手にとって「唐突感」が出てしまうのは当然のことでしょう。この唐突感を解消し、必要な支援(Buy-In)を得るためにおすすめなのがDMAICVというアプローチです。
このDMAICVはLean Six Sigmaの体系から来ているもので、それぞれのフェーズの頭文字になります。
Define:何が問題・課題なのか?の合意形成
Measure:その問題・課題の現状を表すデータについての合意形成
Analyze:その問題・課題の根本原因についての合意形成
Improve:その問題・課題をどのように解決・改善していくのか、打ち手についての合意形成
Control:打ち手の実行を誰がどのような手順で行うのかの合意形成
Validation:打ち手を実行した結果がどうなったのかについての合意形成(確認)
扱う問題・課題の中身にもよりますが、おおよそ4-6か月の期間でDefineからControlまでを実施し、さらに約半年後に効果検証(Validation)を行います。
各フェーズで出すべきアウトプット(例:Defineであればプロジェクトチャーターと呼ばれるアウトプットになりますが、チャーターについての詳細は次回のコラムでご案内します)があり、そのアウトプットを出すためのツールが複数準備されています。
DMAICVのもう一つの特徴はプロジェクトメンバーだけではあるフェーズから次のフェーズに移る意思決定はできず、かならずプロジェクトスポンサーの承認が必要となるということです。この承認を得るための会議をトールゲート(Tollgate:高速道路の料金所のこと)と呼びます。例えば、Defineフェーズのトールゲートでは、課題を正しく捉えられているかどうか、視野・視座は適切なレベルになっているか、当該プロジェクトに関係するリスクは把握できているか、利害関係者は誰で、どのような順番でコミュニケーションを行う予定なのかなど、多角的な観点からプロジェクトスポンサー(経営幹部・役員)と合意形成を行います。
このように書くと、「こんなに何回も合意形成のステップを踏むのは、むしろ官僚的な組織なのでは?」とか「時間がかかって仕方がない」と思われるかもしれません。
しかし、アクションラーニングやプロジェクトの最終段階でちゃぶ台をひっくり返され、実行に移すこともできない状況と、数回のトールゲートを経て、必要な利害関係者を巻き込み、支援を得ながら実行の確証を得ていくプロセスとどちらがマシでしょうか?(明らかに後者と信じています)
組織内で必要なコミュニケーションを面倒だと思わずに丁寧に行い、人を巻き込んでいく仕事のやり方はこれからますます必要とされる基本スキルです。
アジャイルだ、エンゲージメントだ、ミレニアル世代だ、対話だ、といろいろなことを言う前に、組織の中での仕事の進め方を見直して基本に立ち返り、本当に実現したいことを確実に実現する方法論を獲得してみてはいかがでしょうか?
次回のコラムでは具体的かつ最重要なツールであるプロジェクトチャーターについて解説していきます。
対話よりDMAICV:古くて新しいカタの勧め(中編)
対話よりDMAICV:古くて新しいカタの勧め(後編)