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アフターコロナの働き方(4)~まだ道半ばの働き方改革とリーダーシップ開発|アジア地域大規模調査結果を読み解く
インタビューを通じて描き出されたハイブリッドワークでのリーダーシップ
これまでのコラムではアフターコロナではハイブリッドワークがもはや常識になってきている事、そして他のAPAC地域と比較して日本のリーダーのマインドセットやスキルセットがかなり特殊であることなどをデータでご覧いただきました。
今回は総まとめとして、「では、ハイブリッドワークの環境で発揮すべきリーダーシップとは?」という問いに答えていきたいと思います。
本調査では、この問いに答えるために各国のリーダー(執行役員クラス)にインタビューを行い、それに加えてCCLの他の調査の結果も併せて、リーダーのモデルを描き出しています。
ご覧いただいてお分かりになるように、5つの項目があり、それぞれの要素を解説しているオリジナルの英文中にはwhile(●●する一方で)という単語が登場します。
これは多様性の時代、変化の時代において発揮すべきリーダーシップの難易度が上っていることを示しています。例えば、多様性=個人の尊重に重きが置かれる中で、組織としてのまとまりを作っていく、個人の価値観が尊重される中で、組織としてのパーパスや文化で求心力を効かせる等になります。
リーダーに限らず、職場でマネジメント業務をされている方々や人事の方は、この相対立する要素をどのように解決していくのかに日々奔走されているのではないでしょうか?
長くなりますのですべての項目についてご紹介はできませんが、重要なポイントに絞って詳しく見ていきたいと思います。
パーパス/組織文化とコミットメント・アラインメントの実現(DAC)
最初に取り上げたいのは多様な個人と組織としてのまとまりのマネジメントです。昨今、組織の存在目的を表すパーパスの重要性がうたわれているのは皆さんご存知かと思います。特に若い世代は経済的な成長よりも、企業の存在意義、社会問題に取り組んでいるかどうかなど、その存在目的によって自分の就業先を決める傾向が強くなってきていると言われています。自社のパーパスや経営理念を改めて見直す・表明するという企業も実際に増加していますね。
またリーダー自身も多様化しており、リーダーシップ研究のなかにも「Authentic Leadership」=自分らしいリーダーシップが流派の一つとして登場しています。(代表的な論者はハーバードのビル・ジョージです)
組織の在り方、目的も多様化し、フォロワーもリーダー自身も多様化している中で、リーダーはパーパスだけ設定すればよいのかといえばそんなことはありません。
CCLの45年以上にわたる膨大な調査研究は、多様化する個人と組織の一体感、そしてその先にあるパフォーマンス(業績)をつなげるモデルを提唱しており、それがDACという枠組みになります。
DACはリーダー(やフォロワー等、個人)のスタイルに着目しているモデルではなく、リーダーが出すべきアウトプットに着目しています。多様性の時代においてどのようなリーダーシップ「スタイル」も受容されるべきであり、またどのようなスタイルが受容されるかは国や企業、その企業の事業ステージによって変わるでしょう(いわゆる状況適合理論)。
しかし、CCLの研究ではそのような多様な要素の中でも成果をあげるリーダーが出しているアウトプットは何かを示しており、それがDAC=Direction(向かうべき方向)、Alignment(その方向に進む為の各種経営資源の整合)、Commitment(実行へ向けたコミットメント)です。この3要素がそろった中心がリーダーシップということになります。
3要素のうち一つでも欠けている場合、下の図にあるような残念な状況に陥ります。
皆さんの組織ではいかがでしょうか?多様性の重要性は理解しつつも、組織として向かうべき方向感がなく、単に互いを理解し合うだけの対話会で終わってしまってはいないでしょうか?「我が社はイノベーションで勝つ!」という方向性は示しつつも、それに必要な経営資源、業務の進め方は旧来のままで全く成果が上がっていないということはないでしょうか?
個人の働き方の柔軟性と集団の協業の実現
多様性つながりで、あと一つ見てみましょう。次は多様化する個人が集まる中で、集団としてどのように協業するのか?という問いです。
国や性別だけではなく世代間の多様性も進行している中で、どのように協業していくかはどの企業にとっても重要課題であると思います。弊社でも上下間の協業、部署を超えての協業の実現をしたいというご相談を頂くのですが、そのようなお客様の話を聞いていくと、「我が社ならではの仕事の進め方」が全くない、ないしは部署や世代によってバラバラというケースがほとんどです。
逆に強い会社の場合、多様性は尊重しつつも仕事への取り組み姿勢、業務の進め方、問題解決のステップなどはかなり明文化されています。仕事への取り組み姿勢が強調されているのはAmazonの「Day-1マインドセット」が有名なのではないでしょうか?
Day-1マインドセットについては実際にAmazonでご活躍のマネージャー陣がインタビュー記事を掲載しています。毎日の挑戦を支えるAmazonのDay One文化とは – About Amazon | Japan
このDay-1マインドセットが組織内で共有されているからこそ、挑戦する文化につながり継続した成長につながっていると言えます。
筆者が相談を頂く企業ではパーパスや経営理念は存在する企業がほとんどです。しかし、日々の現場で観察されるマインドと行動は何ですか?とお伺いすると、ほとんどの場合はあいまいな答えが返ってくるか、聞く人によって違った答えが返ってきたりします。
現場レベルで多様な個人をまとめ上げていくという場合には、抽象度の高いパーパスでは不十分なのかもしれません。少し前であれば多くの日本企業に「行動規範」が存在していたのですが、いつのまにか「今の多様性の時代では特に若手にとって『行動規範』が古臭く見えて受け入れられない」といったお声もいただいたことがあります。
しかし、我が社ならではの行動とは何なのか?我が社のパーパスを具現化する行動や活動は何か?実はそれを明らかにして若手に提示することがエンゲージメント向上につながることもわかってきました。(詳しくはこちら【セミナー記事】エンゲージメント3.0|パフォーマンスにつながる「良い」エンゲージメントとは? – 株式会社インヴィニオ (invenio.jp))
表面的な意見にまどわされることなく、パーパスやヴィジョンを戦略や自社の独自性を表す行動へ落とし込んで浸透させる、この当たり前の流れを実行するだけでも様々なベネフィットを享受することが可能です。
外資系企業だけを紹介しているのもなんだか日本人としては残念なので、日本を代表して世界で戦っているトヨタも見てみましょう。トヨタではKATA=型を非常に重視しており、皆さんも「トヨタ式問題解決(A3シート)」などは見聞きしたことがあるのではないでしょうか?日本語だけではなく英語でも出版がされており、世界の共通言語になっています。
かつてのGEもシックスシグマという業務プロセス改善の共通言語がありましたし、消費財グローバルトップ企業のP&Gでも売り上げを2倍にしたA・G・ラフレーという伝説のCEOが組み立てた勝つための仕事の進め方は日本でも、P&Gの卒業生によって受け継がれて活用されています。
(ご興味がある方はラフレーの『P&G式 「勝つために戦う」戦略 | A・G・ラフリー, ロジャー・マーティン, 酒井泰介 |本 | 通販 | Amazon』とUSJをはじめ数多くの企業を再生に導いているP&G出身者である森岡毅さんの『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』を読んでいただくと、勝つための思考様式・型が活用されていることがご理解いただけます。)
かつては日本企業が持っていた行動規範や型が多様性の中で変に失われていくのを見るのは悲しい限りです。
多様性を尊重することはもちろん大事ですが、それと同時に「自社の独自性」「自分たちにしかできないこと」を明確に定義することも大事なのではないでしょうか?
私たちも、これまで自社の独自性を日々の活動に展開し、競争に勝つためのご支援をしてきましたが、本調査も踏まえて、ますますその重要性が高まっていると感じました。これからも、インヴィニオの組織能力開発という独自のアプローチを磨き続けて、変革や成長を志すリーダーや人事の方の一助になりたいと思います。