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研究開発者のためのビジネスマインド養成講座(その1)
はじめに
私は最近、企業の研究開発部門長の方々から「研究開発者にビジネスマインドを持たせたいのですが、一体どうすればよいでしょうか?」というご相談を受ける機会が増えています。この背景には、「研究者が取り組んでいるテーマの、ビジネスとしての出口が一向に見えてこない」、「どうも、自分の趣味に走ったテーマを研究し続けているのではないか?」など、経営視点で見たときの懸念があります。BRICSなど新興諸国の旺盛な需要に支えられて、日本企業の収益性が比較的堅調であるこの時期に、将来の種まきとして研究開発に力を入れようとしている企業にとっては、まさに研究開発者のビジネスマインド養成は必須条件になってきていると言えます。そこで「研究開発者のためのビジネスマインド養成講座」と銘打ちまして、今回から数回に分けてコラムを執筆させて頂きたいと思います。
研究開発には“技術R&D”と“ビジネスR&D”がある
通常研究開発というと、科学や技術に関する様々な課題について研究と開発を行うことを意味します。しかし企業における研究開発の最終ゴールは、言うまでも無く市場価値のある製品やサービスを生み出すことにあるはずです。その意味で、企業における研究開発は技術に関するR&Dだけでは明らかに不十分であり、“ビジネスR&D”とも呼ぶべき「事業性に関する探索活動」が不可欠になると私は考えています。すなわち、研究開発には“技術R&D”と“ビジネスR&D”の2種類があるということになります。
図1
技術R&Dというのはいわゆる通常のR&D活動であり、①何らかの画期的な思いつきや科学的発見などのシーズをもとに、②基礎実験や実用化実験を経て、③製品化につなげる一連の技術開発プロセスです。これに対してビジネスR&Dは、①市場ニーズをヒアリングやインタビューなどを通じて把握し、②顧客ニーズの構成要素や要因を深く分析して、③顧客が求める製品やサービスのコンセプトやイメージを構想・構築していくプロセスです。技術R&Dがシーズから出発するのに対して、ビジネスR&Dがニーズから出発するという点で、両者のプロセスは互いに逆向きであるといえます。
従来型R&Dの問題点
このように技術R&DとビジネスR&Dを定義した時、従来のR&Dプロセスは図2のような傾向にあると言えます。つまり、まず技術R&Dを極力先行させて、製品化できる目処が十分に立ってからビジネスR&Dを始めるというやり方です。極端なケースでは、研究開発部門はひたすら技術R&Dのみを行い、技術R&Dが終了した後に商品企画やマーケティング部門にビジネスR&Dを丸投げする企業もあります。このような従来型プロセスの最大の問題点は、技術R&Dにさんざんお金と時間を掛けたあげく、いざ市場調査(=ビジネスR&D)をやってみると実はほとんどニーズが無かった(或いは、他の代替技術が先に世に出てしまい市場を席巻されてしまっていた)などという事態が判明することが起きやすいことです。
図2
このような事態を避けるためには、技術R&Dとほぼ並行するような形でビジネスR&Dを推進することが考えられます(図3)。このような同時並行的なR&Dプロセスの進め方を、私は“コンカレントR&D”と呼んでいます。
図3
言うまでも無くコンカレントR&Dの最大のメリットは、多大な資金と時間を技術R&Dに投入してしまう前に、市場ニーズがありそうか、またそのニーズは十分大きそうかどうかが判明することです。これにより、もし市場ニーズがあまり無さそうなことが分かれば、その研究テーマを早めに打ち切ることが出来、結果としてもっとビジネス的に筋の良い研究テーマに早めにスイッチすることが可能になります。
このように書くと読者の皆さん(特に研究開発者の方々)の中には、「理屈としては分かるが、現実の研究開発ではコンカレントR&Dなんて無理」、「そもそも革新的な技術の開発をやっているのだから、製品が完成するまで市場ニーズの調査なんて不可能だ」と思われる方もいるはずです。確かに精度の高いビジネスR&Dは、初期段階では難しい面があることは事実です。しかしやり方次第で、実際にコンカレントR&Dを進めていくことは可能であるとの確信を私は深めており、企業の研究部門の方々とご一緒にコンカレントR&Dを実践させて頂く中で数多くの実質的な成果が出てきています。次回のコラムでは、なぜコンカレントR&Dが現実に実施可能なのかを中心にご説明させて頂きます。(インヴィニオ取締役 高井正美)