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“プレイングマネージャー”として、部下と同じ目線でコミュニケーションをとる
SMBC日興証券株式会社
コーポレート・ファイナンス副本部長 兼
コンシューマー・リテール&ヘルスケア・グループヘッド
竹内祐二 様
目次
就職活動で出会った強烈なリーダーシップをもつカリスマに魅了され、人材系の企業に就職。2年後に金融業界に転職して以降、バンカーとしてキャリアを重ねてきた竹内さん。「自分は根っからのリーダータイプではない」と分析するも、かつて魅了されたカリスマとは異なるアプローチでリーダーシップを模索する竹内さんにお話を伺いました。
<竹内祐二さん略歴>
平成11 年 4 月 東京大学農学部 卒
平成11 年 4 月 株式会社インテリジェンス入社
平成13 年 4 月 日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券株式会社)投資銀行本部
平成21 年10 月 日興コーディアル証券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)第七投資銀行部(コンシューマー業界担当)
平成22 年11 月 英国SMBC日興キャピタル・マーケット会社出向
平成23 年 8 月 Moelis & Company(ロンドンオフィス)出向
平成25 年 4 月 SMBC日興証券株式会社 第四投資銀行部(コンシューマー業界担当)
平成30 年 3 月 第四投資銀行部長(コンシューマー&ヘルスケア業界担当)
令和 3 年 3 月 グローバル・インベストメント・バンキング部門 コンシューマー・リテール&ヘルスケア・グループヘッド
令和 5 年 4 月 コーポレート・ファイナンス副本部長 兼コンシューマー・リテール&ヘルスケア・グループヘッド
現在に至る
「この人の下で自分の力を試したい」と思った、カリスマとの出会い
──2001年の4月に投資銀行業務を専門とする日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)に転職して以来、金融業界でお仕事されてきている竹内さんですが、新卒では人材系の企業に入社されたそうですね。
1999年に新卒で株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社しました。それからすぐ子会社の立ち上げに参画することになり、株式会社ペイロールで社長のサポートをいろいろとやりました。そうして丸2年が経ち、株主が変わったタイミングで転職を考えたんです。
投資銀行にいきたいという思いが大学の頃から頭の片隅にはあったので、投資銀行で働いている友達にも話を聞いて「面白そうだな」と思い、日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社に転職しました。それ以来、22年間ずっと投資銀行のキャリアを積んでいます。
──「投資銀行にいきたい」という思いがありながら、新卒でインテリジェンスを選んだのはなぜでしょう?
就職活動のときは、商社やコンサル会社、投資銀行など、業界を問わずいろんな会社を訪れていましたが、たまたま1日だけ空いていた日があって、インテリジェンスのチラシが目に留まったので行ってみたんです。そうしたら、当時の社長だった宇野康秀さんに魅了されてしまい……。
僕は留年とかもしないで大学を卒業したので、「2年ぐらい、キャリアのなかで冒険してみてもいいかな」と思ったんです。それで「2年で辞めるかもしれませんが、自分も成長したいですし、インテリジェンスさんに貢献できると思います」と伝えたら、「入ってきてよ」と。それで、東大生初の“インテリジェンサー”になりました。
──宇野さんのどういったところに魅了されたのでしょうか?
勢いですかね(笑)。20代から30代前半の、社会を変えられるエネルギーを持っている人が集まっていた会社で、宇野さんこそがそういったエネルギーの塊でした。かつ、非常にロジカルな方でもありましたし、リーダーシップやカリスマ性も当然あった。そんな宇野さんを見て、「こんな人に出会ったことがないから、この人の下で2年間、自分の力を試すようなことをやってみたい」と思ったんです。
──ペイロールでは新人ながらもシステム構築をリードしていたと聞きましたが?
リードしていたという意識はないんですが、ペイロールの社長からは「竹内くんやってみて」と、とにかくいろんなことを任されていて。かつ、経営全般についても社長の横で学びながら行っていたわけですが……きっと若かったからできたのだと思います(笑)。
ベンチャー企業って何もないのが当たり前ですから、自分たちでやるしかない。やらないと自分の給料を稼ぐことができないですから、がむしゃらにやっていました。その感覚で過ごした2年間は、いま思い返しても非常に貴重な時間でしたね。事業会社の構造や考え方、物事の進め方といったことを理解できたので、いまの仕事で事業会社を担当する際にも役立っていると思います。
マネジメントとスキルを発揮することの両方を求められる“プレイングマネージャー”
──日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社では、まったく異なる業界、かつベンチャー企業からの転職ということで、戸惑いなどはなかったのでしょうか?
第二新卒としてゼロからやるつもりで入ったので、戸惑いはありませんでした。投資銀行というのは基本的に、下からアナリスト、アソシエイト、ヴァイスプレジデント、ディレクター、マネージングディレクターという5段階のタイトル(役職)があって、それぞれの段階を、早い人だと3年ずつステップアップしていくイメージなんです。だから僕も「よし、アナリストからステップアップしていくぞ」と素直な気持ちで取り組むことができました。
実際、“ジュニアバンカー”と言われるアナリストからアソシエイトまでの6年間はファイナンシャルの知識や経験がすごく身につくので……PBR、PSR、EV/EBITDAといったことすらまったく知らない状態だった僕としては、そういったものを学ぶだけでもすごく楽しかったんです。知識欲・経験欲をもっていろんなプロダクトに触れながら、あっという間に6年が過ぎていった感じでした。
──その後、ヴァイスプレジデント、ディレクター、マネージングディレクターと経て、現在はコーポレート・ファイナンス副本部長 兼 コンシューマー・リテール&ヘルスケア・グループヘッドの役職にいらっしゃいます。この過程のなかで、仕事に対する考え方が変わったフェーズなどはありましたか?
6年前に部長職(現グループヘッド)になってから変わりました。それまでは1バンカーとして、よりたくさんの、より大きな案件をとってフィードバックをもらうといった、個人として「優れたバンカーになる」という考えで仕事をしていましたが、部長職になって現在は50人弱の部下がいるので、当然のことながらチームプレイを考えますよね。チームに所属する個々のモチベーションやキャリア、人生といったことをすごく考えるようになりました。
──元々、人材の育成には興味があったのでしょうか?
もちろんありましたが、あくまで“バンカーの育成”への興味でしたね。スキルセットを高めるためのテクニカルな育成はやっていたし、僕自身も上司から教えてもらっていたので、後輩をバンカーとして育てるのは当たり前のことでした。
部長職であるいまは、いろんなバンカーがいるなかで、それぞれがキャリアを積んで「この1年間やってきてよかったな」とか「もう1年がんばろう」と思えるような組織を目指すようになりました。
その一方で、そればかりやっていたら自分はただのマネージャーになってしまうので、バンカーとして自分にしか対応できないようなアカウントを持って案件をいただく、ということも意識しています。プレイングマネージャーとして両立するのはすごく難しいけれど、自分が部長職になった理由はそこにあると思っています。
──プレイングマネージャーで在れというのは、会社からのオーダーだった?
そうですね。部長職になったらマネジメント業務だけやる、というのが普通の組織かもしれませんが、SMBC日興証券のなかでも旧投資銀行本部はプレイングマネージャーを求められている数少ない部署だと思います。僕の場合は“GIB職”という専門職になるんですが、スキルセットやグローバル対応も見込まれて部長職になっていますので、マネジメントだけでなくプレイングマネージャーとしてスキルを発揮することを求められます。
──そのスタイルはご自身に合っていると思いますか?
思いますね。僕は根っからのリーダータイプではないし、人をまとめるのが得意な人間でもないんです。どちらかというと、みんなと違うポジションをとって目立つのが好きなひねくれ者なので(笑)、部長職としてど真ん中にいるのではなく、バンカーとしてもみんなと切磋琢磨するポジションにいるのが合っていると思っています。
アカウンタビリティを果たすことが大原則としつつ、個々人に仕事を任せる
──竹内さんがリーダーシップをとるときに心がけていることは?
自分で全部やらず、部下にチャンスを与える。基本的には自分が出て行かなくても済むようにしたいと思っています。優秀な人間しか集まっていないので、分野によっては自分よりも優秀な部下が何人もいるんです。だからこそ自分で全部やろうとせず、それぞれの得意不得意を把握して、案件ごとにうまく配置する。
かつ、1年間での部としての目標を明確にして、「これは大原則として守りましょう」というルールを伝えます。「それ以外は自由にやっていいし、それぞれに任せるから結果を出してね」と機会を与える。そのスタイルは部長職になってからずっと変わらないです。
──「これは大原則として守りましょう」というのは、働く姿勢についてでしょうか?
そうですね。「組織で動いているから、スタンドプレイは許さないよ」ということで、いくつかのルールを設けています。基本的には「説明ができるようにしてください」ということ。例えば、朝会社に来なかったときに、「その理由をきちんとした透明性をもって、みんなに説明できるんだったら構わないよ」と。僕らはそれを“アカウンタビリティ”と言っているんですが、アカウンタビリティがあるかどうかで判断するというのは伝えています。ルールといってもそれぐらいですかね。
あとは特に若い人に言っているんですが、「バンカーになる前に、立派な社会人になれ」と。挨拶や報連相、電話にすぐに出る、お客さまが帰るときにはエレベーターのボタンを押して最後までお見送りする、お客さまが残していった水を片づけるといった、社会人として当たり前のことですね。そういったことがちゃんとできる人間になってから、バンカーとしてのキャリアが始まるということは常々言っています。
──それぞれの得意不得意を見極めるために、どうコミュニケーションをとっていますか?
上から目線にならないように意識しながら、僕のほうから話しかけていくようにしています。それに、なるべくカジュアルに話せるようなオケージョンをたくさん用意する。例えば花火大会にみんなで行ったり、フットサル大会をやったり。飲み会は頻繁にやりますし……直近1年で始めたのは“皇居の一周”ですね(笑)。年齢に関係なく、皇居ランをするチームを作ったんです。20代の若い人たちと一緒に走ったりもしていて、そういった機会になるべく本音を聞くようにしています。ただやっぱり、50人全員を把握するのは難しいので、日々反省しながら試行錯誤しています。
──モチベーションが落ちている人にはどのような声をかけますか?
例えば、上から怒られてシュンとしている人がたまにいるんですが、完璧な人間なんていませんから、その人にはその人の良さがあるんですよね。だから、「きみにはこういう強みがあるから、頑張ろうね」となるべく伝えるようにしています。僕の場合ですが、その人ができないことを、無理にでもできるようにしたいとは思いません。強みを本人に伝えて、それを伸ばすことがモチベーションになるように促す感じでしょうか。
──竹内さんが目指している組織とは?
なかなか難しいんですが……「この部に所属したい」と言われるような組織にしたいと思っています。実際に「コンシューマー・リテール・ヘルスケアグループって上下関係なくストレートにものが言えて、風通しがいいよね」とか「楽しい組織だよね」と言われていますが、そういった部分を維持向上していきたいと思っています。
もうひとつは、前向きな理由以外で辞めていく人をなるべく減らしたい。キャリアアップのために辞めるとかだったらいいですけど、辞めなくていいのに辞めてしまう人がごくたまにいるんです。いまのSMBC日興証券は本当に充実していて強いですし、私たちのチームに関してはいつも業界でトップレベルにいるので、良い環境で働くことができる。SMBCグループには様々な部署があるので、グループ内で新たなキャリア形成やチャレンジもできる。だから、辞める前にもうちょっと考えてほしいですし、後ろ向きの理由で辞める人を極限までなくしたいと思っています。
リーダーに必要な素質はまだ模索中だが、“正直であること”は崩さない
──竹内さんご自身のやりがいはどこにあると感じていますか?
リーダーとしては、なんだかんだありながらも無事に1年の予算を達成して、みんなでハッピーに終われたときにやりがいを感じます。半期に必ず大きな打ち上げをするんですが、そのときに「ありがとうございました」とみんなから言ってもらえたり、みんなが楽しく過ごしている姿を見るのが一番好きかもしれないです。
プレイヤーとしては、年に何回か「これは竹内さんにお願いしたい」と指名をいただく局面があって、そういった自分じゃないとできないような案件をご用命いただくときにやりがいを感じます。
──竹内さんにしかできない案件というのは、これまでの関係性で築いてきたものですよね?
だと思います。同じ業界で20年以上やっているので、リピートが多いんです。そうすると、最初は仕事上でのお付き合いだったものが、だんだんプライベートと同等のお付き合いにもなっていく。よく「バンカーとしての面白いところはどこですか?」と質問されるんですが、お客さまと仲良くなって、人生の先輩でもあるお客さまからいろんなことを学べるのが一番楽しいです、といつも答えているんです。
──ずっと同じ業界で仕事を続けているからこそ得られる楽しみですね。
バンカーになって14年ほど経ってマネージングディレクターになったときに、アメリカの先輩から「welcome to investment banking」と言われたんです。「もう14年経ってるけど、ようやく出番なの?」と当時は思いましたが、いまではその意味がよくわかります。MDになると、大企業の役員の方と同じ土俵で、同じ目線で話せるようになって、仕事が格段に楽しくなるんです。
結局のところすべての案件がユニークなので、学びが終わらないのもこの業界の楽しい部分なんですよね。1バンカーから部長職になったのも、ある意味楽しい変化ですし。ずっと飽きないですね。
──竹内さんが思う、リーダーに必要な素質とは?
それはまだ模索中で、わかりません。先ほども言ったように、自分にリーダーの素質があるとは元々思っていなかったので……教えてほしいです(笑)。
ただ、これが答えかどうかはわかりませんが、僕自身は“正直であること”を崩さないで仕事をしています。言葉によってみんなをモチベートさせて「このリーダーについていけば安心だ」と思わせるほどの力はないので、正直さを崩さず、自分のやり方を丁寧に伝えることで信頼してもらって、最終的にはついてきてもらう。わかりにくいとは思いますが、それが僕のやり方です。
──竹内さんは、お客様に対しても、部下の方に対しても「正直であること」を貫いていらっしゃることが良くわかるお話でした。参考になるお話をしていただき、ありがとうございました。