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心理的安全性の提唱者が監修した手法「エベレスト」によるリーダーシップ開発
目次
ハーバード・ビジネススクールでのベストケースから誕生したシミュレーション:エベレスト
心理的安全性の提唱者が監修した「エベレスト」というリーダーシップ開発に有効なシミュレーション手法をご存知でしょうか。昨今「心理的安全性」の重要性が広く認知されていますが、日本国内ではその一部分のみが強調されているのも事実です。
そこで今回は、心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンソン教授が監修したシミュレーション手法「エベレスト」を通じて、「心理的安全性の先へ」進む方法を紹介します。
リーダーシップ開発および管理職の育成に課題を感じている方にとっては、課題解決のきっかけになり得るため、ぜひ最後までご覧ください。
心理的安全性の提唱者が監修した「エベレスト」とは
心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンソン教授が監修した「エベレスト」とは、5人一組でエベレスト登頂を目指すシミュレーションを行うプログラムです。
1980年代に実際に起きてしまったエベレスト登山中の死亡事故研究をベースにしています。「熟練したリーダーがなぜ判断を間違えたのか」、「赤の他人同士が集まるチームを機能させるには何が必要なのか」など様々な観点から調査が行われ、リーダーシップとチーミングのケーススタディとなっています。また、デジタル時代に合わせてオンラインシミュレーション化されており、2023年時点でもベストセラーのコンテンツです。
シミュレーションの構造はいたってシンプルで、5人一組となり、限られた時間の中でエベレスト登山に挑戦する、ただこれだけです。
シミュレーションの分類としては、エベレストは下の図の中で言えば右上に位置づけられます。
つまり、他のチームの優劣を競うのではなく、全く同じ条件でシミュレーションを実行します。
前述の通りシミュレーションの構造は単純なため、結果に差が出るとすれば、参加している各個人および個人間に発生するチームワークしかないのです。
競争仕立て(Competitive)ではないため「相手チームの戦略が優れていたから負けた」や、すべてのチームが同じ条件で実施するため「時間切れだったから結果が悪かった」等の言い訳は一切できません。
シミュレーションの結果に差が出た原因を自分(のリーダーシップ)とチームワークの2点に集中して議論していきます。
シミュレーション「エベレスト」の進め方
チームに異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まっており、参加者ひとりひとりに役割が割り振られます。基本的に5人一組で実施しますが、6人の場合はある役割を2人で担うなどのアレンジも柔軟に可能です。
また途中では「チャレンジ」と呼ばれる課題が出されるため、チームで協議しながら解決していきます。課題を解決できたかどうかがチームとしてのパフォーマンスの差を表します。
チームには登頂のために7日間が与えられ、期限内にベースキャンプから山頂を目指すという設定です。もちろん実際に7日間を要する訳ではなく、通常は90分で実施できます。
チームはベースキャンプから出発し、天候やチームメンバーの健康状態などを毎日確認しながら、次のキャンプ地に上るか、とどまるか、はたまた体調を考慮してあるメンバーは下のキャンプ地まで戻るかなどの意思決定を行います。
また3日目と6日目の時点で、以下のようなアンケートが表示されます。
- 自分たちのチームが機能しているかどうか?(複数の観点から)
- 心理的安全性の状況
- リーダーシップが発揮されているかどうか?(複数の観点から)
3日目と6日目のアンケート内容は同じのため、6日間(90分間)での結果比較が可能となり、短期学習能力(Leaning Agility)を見ることも可能です。
その他にもユニークなポイントが複数ありますが、紙幅の関係で今回のコラムでは割愛しています。
「エベレスト」でリーダーシップをいかに開発するのか
「エベレスト」を用いてリーダーシップをいかに開発するのかを解説します。
前項目の内容から、以下のような疑問をもつ方もいるかもしれません。
「有名な教授が研究に基づいて開発したのは分かるが、遊びで終わってしまいそう。」
「本当にリーダーシップ開発に必要な学びが得られるのか。」
シミュレーション自体は素材であり、ここから先は弊社インヴィニオ独自のファシリテーションによりリーダーシップ開発を進めます。
私たちインヴィニオは世界的なリーダーシップ開発のトップであるCCL(Center for Creative Leadership)の日本におけるパートナーとしての活動も展開しています。シミュレーションを用いた上で、ファシリテーションを行う際にはCCLの膨大な調査研究で得られた知見を活かせる私たちだからこそ可能な方法でリーダーシップ開発に伴走しているのです。
例えば、一般的なシミュレーションの振り返り手法は「シミュレーションでうまくいったこと、改善すべきことをディスカッションしてみましょう」といった内容にとどまっているものが数多くあるのですが、これでは不十分です。
私たちはCCLが明らかにした「高いパフォーマンスを上げるリーダーの16のコンピテンシー」を共有した上で、リーダーシップ開発のスタート地点は自己認識(Self-Awareness)であることを説明します。
さらにその自己認識の中身もCCLの調査研究から明らかになっている4つに分類して詳細に説明することで振り返り・内省の質を高めていきます。
こうしたフレームワークを提供することで、シミュレーション中の自分自身のリーダーシップ行動を具体的に振り返る支援を行っているのです。
高いパフォーマンスを上げるリーダーの16のコンピテンシーおよび4つの分類についての詳細はこちらの記事をご覧ください。
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リーダーシップ開発成功の鍵は「自己認識」
リーダーシップ開発成功の鍵を握る「自己認識」について紹介します。
2つの自己認識と内省の落とし穴
リーダーが自己認識を強化することの重要性は様々な研究により明らかにされています。
一般的には「自分の動機(モチベーション)や価値観は何か?」「自分の強みは何か?」といった自分の内面を深掘りするものが多い傾向にあります。
ただし、重要なのは自己認識には2種類あるということです。それが「内面的自己認識」と「外面的自己認識」です。
- 内面的自己認識
自分の価値観、情熱、願望、環境への適合、反応(思考・感情・態度・強み/弱みなど)、他者への影響力について自分自身がいかに明確にとらえているかを表す。 - 外面的自己認識
内面的自己認識に挙げられた諸要素(価値観、情熱など)について他者が自分をどのように見ているかに関する理解。自分が他者にどう見られているかを理解しているリーダーは共感力と他者の視点に立つ能力に長けていることが明らかにされている。
内面的自己認識と外面的自己認識という分類に、その認識の度合い(強・弱)を入れた2軸で整理すると下記のようになります。
就職活動の際などに「自己分析」に熱心に取り組むタイプの人は、自分自身のことは理解できているものの、他者の意見を取り入れてアンラーニングするという傾向が弱いため、成長が止まっていることが少なくありません。
「他者の意見を取り入れる=ある種の自己否定をする」ということになるため勇気のいることですが、だからこそ「リーダーたるものは自分の正負の両面に向き合える資質を持った人」といえるのです。
この研究を進めたターシャ・ユーリック博士はさらに「内省によって、自己認識が必ずしも高まるわけではない。」と述べています。己を知るには「なぜ自分はこうなのか?」を顧みることが最良の方法とされていますが、驚くべきことに博士の研究では「内省をする人は自己認識がより低く、仕事の満足度と幸福感も低めであった。」となっています。
続けて、「内省することが全面的に悪いということではない。ほとんどの人が間違った方法で内省をしていることが問題なのだ。」と述べています。次の項目で具体的に解説します。
「なぜ」ではなく「何」を問うべし
内省を行う際の問いといえば「なぜこうなってしまったのか?」に代表されるように「なぜ」が中核に位置します。「なぜ私はあのときあのような態度をとってしまったのか?」、「なぜ私はこの提案に不安を感じているのか?」といった具合です。
しかしユーリック博士の研究によると、この「なぜ」という問いかけは自己認識のためには驚くほど非効果的であることが明らかになっているのです。
博士の研究によれば、人は自分の無意識の領域を探ろうとしてもその大部分を知ることはできず、意識上で認識できるものはごく僅かです。そのため「真実だと感じられる答え」を作り出すことがよくあるのですが、それは往々にして間違っているということです。
では、有効な問いかけはどのようなものでしょうか。
それは「何」を問いかけるということになります。「なぜ自分はこんなに不安を感じるのだろうか?」という問いの代わりに、「自分に不安をもたらすものは何か?」「そのようなものに共通しているものは何か?」というように「何」という問いを立てます。
この研究成果には非常に説得力があります。
シミュレーションの中でもチームメンバーが対立する場面が起きた際に、「なぜこのような状況になったのか?」「なぜ自分はより良い方向にチームを導けなかったのか?」という「なぜ系」の問いを立ててしまうと、自分のそれらしい価値観を主張するか、「私が悪かったです」程の浅い内省が行われ、その場を乗り切るくらいのことしか発生しません。
対して「このような状況の前には何があったのか?」、「この状況を乗り切るために何をすべきか?」という「何」の問いかけは議論に客観性と未来志向をもたらします。
こうした根拠に基づき、シミュレーションの振り返りでも「なぜ」ではなく「何」に焦点をあてて振り返りをしてもらいます。
課題解決がうまくいかなかったチームには何が起きたのかを細かく振り返ってもらい、どこにどのような要因(=何)が潜んでいるのかを洗い出してもらうことで、建設的な議論を行えるチームとなり、リーダーを短時間で成長させることができるのです。
360度フィードバックの効果が高まる
シミュレーション前に360度フィードバックを実施しておき、シミュレーションを通じて自分の行動を客観的に振り返った後にフィードバックレポートを返却するケースも多くあります。この目的は、他者の目線を取り入れて自己認識の質を高めることです。
360度フィードバックを実施すると、はじめは素直に受け入れられず、特にネガティブなフィードバックに対して否定的な感情を表し、理由付けにやっきになる方も少なからずいます。
ただ「シミュレーションを経た後」では、シミュレーション中に意識的にも無意識的にも自分がとった直近の行動履歴があるため、360度フィードバックの結果に対しても素直に受け入れる(受け入れざるを得ない)土壌ができているのです。
「エベレスト」を用いたリーダーシップ開発でも重要となるフィードバック
「エベレスト」を用いたリーダーシップ開発においても、フィードバックが重要となります。
ここまでに、自己認識力の重要性、自己認識には2種類あること、他者からどう見られているのかを自覚することの重要性について述べてきました。
「エベレスト」を使ったシミュレーションセッションでは、外面的自己認識力を高めるためにフィードバックを提供することが重要です。
数年前から、さまざまな会社で1on1が導入され、上司から部下へのフィードバック、同僚同士によるピア・コーチングやピア・フィードバックも広まってきています。
ただ、フィードバックの内容が「君のリーダーシップはなかなか良かった」や「〇〇さんはコミュニケーション能力が高い」といったものになりがちではないでしょうか。残念ながらこれらは誉め言葉ではあるものの、成長につながるフィードバックにはなっていません。
「効果的なフィードバックに必要な要素」は、CCLが蓄積した研究成果から明らかにしています。それがSBI(Situation・Behavior・Impact)です。
漠然とした印象ではなく、具体的な場面、具体的な行動、そして具体的な影響(感情的な反応も含め)を返してあげることで、はじめて効果的なフィードバックとなります。
シミュレーションの最初に2人ペアを作って、「シミュレーションの終了後に互いにフィードバックを行うので、よく観察し合ってください。」というように課題設定をしておきます。
まずは互いに思い通りのフィードバックを行った後に、SBIを説明して再度フィードバックをしてもらうと、5〜10分で格段にフィードバックの力が上るのです。ここでも「なぜ」というよりは「何(状況・行動)」に焦点を当てることの有効性がご理解いただけると思います。
「SBIモデル」についてより詳しく知りたい場合は、こちらをご覧ください。
部下や上司へのフィードバックに有効な「SBIモデル」とは?
心理的安全性の先へ
心理的安全性は、いたるところで用いられてバズワードのように感じることもあります。ただし、その重要性が褪せているわけではなく、継続して取り組んでいく課題であることは間違いありません。
前述したように、シミュレーションの途中(登山中の3日目と6日目)にはアンケートが表示され、その中の一つが心理的安全性に関わるものです。具体的には「他の人の考えに対して意見をしたり、疑問を投げかけたりすることに気まずい思いをすることがありましたか。」という対人リスクをとれるかについての問いです。
この設問に対して、これまで「結果が低く出た」ことはありません。5点満点で4点以上です。若手や中堅、ベテランなどの社歴や業界などを問わず心理的安全性は高く表れます。
しかし問題はその先で、「心理的安全性が高いはずなのに、チームのパフォーマンスに結びついていないのはなぜか?」なのです。
エベレストシミュレーションでは3つのチャレンジ(体調判断・天候予測・最後のキャンプ地から頂上までに必要となる酸素管の本数計算)があり、同じような高い心理的安全性の状況のチームが同じ課題にチャレンジしても全く異なる結果になります。
ここから「心理的安全性は重要な要素であるが必要条件でもある」といえるのではないでしょうか。そしてそれがまさに、エイミー・エドモンソン教授が研究で明らかにしていることの一つでもあります。
教授が心理的安全性の存在をつきとめた研究はGoogleにおけるチームパフォーマンスの差異を分析したものですが、心理的安全性以外にも下記にあるような要素が明らかにされています。
①は起点となる心理的安全性(Psychological Safety)ですが、そこから②~⑤と続きます。日本ではなぜか①ばかりが強調されており、心理的安全性さえ実現できれば全て良くなるという認識が蔓延しています。結果として、無意味な対話会、形だけの1on1などが導入され、時間という貴重な経営資源が浪費されてしまっているケースは決して少なくありません。
心理的安全性に続いて②Dependability(高いハードルを乗り越えるための協力関係)や③構造と明確さ(役割・計画・ゴールについて)などがあります。
シミュレーションで結果が出ないチームは、誰がどのような役割を担うのかはっきりしていない場合が大半です。こうしたチームは、「なんとなく居心地は良いが、リーダーシップを誰が発揮しているのか、発揮すべきなのかわからない」といった状態であることが多くあります。「リーダーシップは誰かが発揮してくれるだろうという暗黙の了解」が成り立った状態ともいえます。
私たちインヴィニオが行うセッションでは、このポイントについてもシミュレーションの結果のみならず普段の仕事もふくめて振り返ります。
具体的には、以下を明らかにする時間を設けることで、今後の成長課題を明確にします。
- 自分のジョブが明確になっているか
- ジョブを遂行するために必要なスキルは何か自覚しているか
- スキルを向上させるための施策は何か
- 誰から支援を受けることができるかを知っているか
もちろんこの研究結果を見て「それはGoogleの話でしょ。」と片づけることも可能です。
では「役割・計画・ゴールが不明瞭なのに、組織に所属している意味」とは何なのでしょうか。また「役割・計画・ゴールが不明瞭なまま協力し合うこと」は可能なのでしょうか。
チームひいては組織で働くことの意味が問われる昨今において、この「エベレスト」シミュレーションは貴重な問いかけを与えてくれるのです。
あなたはこのクイズを解けますか?
最後にオマケのクイズです。オマケといっても気軽なものではなく、本コラムの趣旨でもある「エビデンス・ベースト(Evidence-Based)でリーダーシップ開発を支援する」に基づくものです。
「前提」を読んでから、「クイズ」に挑戦してみてください。
■前提
リーダーにとって重要な能力に「フィードバックスキル」があります。「エベレスト」シミュレーションでもSBIを活用したフィードバックを実践します。
ただし、フィードバックをするために必須となるスキルのもう一つに「傾聴=アクティブリスニング」があります。このアクティブリスニングに関してもCCLの研究から「効果的なアクティブリスニング」が明らかにされており、それが「FFV」とされています。
■クイズ
クイズの内容はこの「FFV」とは何を表しているかです。あなたの部下が、以下のような話をしたとします。あなたはどのようにこの話を聞くでしょうか?FFVでしっかりと聞き分けることができるでしょうか?
「ここ数か月で私のチームは本当によくやってくれたと思っていますが、やっぱり不安や暗雲が立ち込めていたと思います。私自身もなんとか持ちこたえてきましたが、やはり希望よりも、このままでは立ち行かなくなるという不安の方が勝るようになりました。結局、13人いたチームを5人にまで削減せざるを得なくなったのです。この苦渋の決断の中で私自身も何度もやめるべきでは?と悩みました。なぜなら、若手や年長者の雇用を守ることも、自分自身の責任であり、会社、社会の責任であると考えているからです。」
さて、いかがでしょうか。「相槌を打つ」や「相手の目を見て頷く」のように、かたちだけの傾聴になってしまっていないでしょうか。
効果的な傾聴のためにはFFVが欠かせません。「FFVって何?気になる!」という方は個別に答えを教えますので、ぜひこちらから気軽にご連絡ください。
成果を生み出すリーダーを育成するには
心理的安全性の先へ行き、成果を成果を生み出すリーダーを育成するには、「エベレスト」シミュレーションが有効です。
「エベレスト」シミュレーションは、各企業の実状やご要望にあわせてカスタマイズできます。議論のポイントの追加、360度フィードバックとの組み合わせ、難易度を上げた2回戦目を行うことも可能です。
弊社「株式会社インヴィニオ」では、20年以上積み重ねてきた確かな実績と、CCLを含む世界中のアライアンスパートナーから得た最先端のノウハウを用いて、学びを知識や能力のレベルに留まらせるのではなく「実力」へと昇華させることにコミットしています。
リーダーの「育成」だけでなく事業上の成果として表れるように、個人や組織が保有する「成果を生み出す能力」を引き上げ、引き出し、顕在化できるのが強みです。
変化の時代においても安定した成果を挙げ続けるリーダーを育成したいとお考えの場合は、ぜひこちらからお気軽にお問い合わせください。シミュレーションの詳細やカスタムプログラムについてのお問い合わせも承ります。