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人手不足という社会問題をテクノロジーで解決するmatchboxを手がけるリーダーの「後悔しない生き方」とは
株式会社Matchbox Technologies
取締役
千葉 寛之 さん
目次
あらゆる業界において人手不足が叫ばれるなか、企業と働き手の新たなつながり方を定義して人手不足に悩む企業を救う人材採用アプリ「matchbox (マッチボックス)」。今回は、株式会社Matchbox Technologiesの取締役 営業管掌として「matchbox」の利活用を推進されている「千葉寛之さん」にお話を伺います。
千葉さんはこれまで、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)での人材紹介や営業マネージャー等のご経験、株式会社ローソンにおけるアルバイトの採用・教育・定着・再雇用の仕組構築のご経験など「人材」に関する業務に多く携わってこられました。さらに現在、数多の企業が抱える「人手不足」を解消すべく「matchbox」の利活用推進を担うリーダーとして活躍されています。
「人材」「人手不足」という重要かつ難解なテーマに対して、新たなステージに進みながら挑戦を続けてこられた背景には何があるのでしょうか。自分が50歳になったときに後悔する人生は嫌だ。過去の自分に対して「あのとき挑戦してくれてありがとう」、そう感謝できる人生を歩みたいと言い切る千葉さん。人手不足に悩むリーダーはもちろん、挑戦したいがあと一歩が踏み出せない方、自らの仕事に意義・やりがいを見出せない方などにとって、沢山の気づきとヒントを得られる内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
千葉寛之さん 略歴
上智大学理工学部卒。インテリジェンス(現パーソルキャリア)にて、人材紹介、転職サイト事業立ち上げを経て、ローソンにて、チェーン全体のアルバイト人材不足対策を担当し、ローソンスタッフ設立に携わる。 その後、Matchbox Technologiesにて営業部門を管掌。
「背伸び」が自らを成長させる
―千葉さんは、パーソルキャリア株式会社(旧社名:株式会社インテリジェンス)での経歴もお持ちですが入社当時のことを聞かせていただけますか?
僕が就職活動をしていた1999年は、シンクタンクやコンサルティングファームが出始めた頃でした。当時は、ちょっとピリリと辛い小型な企業が流行った時代だったんですよね。就活媒体を見ながら人事・コンサルという括りで応募していました。当時を思い返すと実は人事にはそこまで強い興味はありませんでしたね。僕はちょっとミーハーなので“コンサル”という響きがカッコいいと思ったんです(笑)。
インテリジェンスに面接に行くと、当時の役員や社員の皆さんが僕にとってはキラキラして見えて、自分が少し背伸びして入る会社だなと感じたんです。そのくらいが丁度いいなと思って入社を決意しました。実際に入社したら、同期もみんなエッジが立っていた人たちばかりでしたので、なんか面白そうだし、背伸びして頑張れそうだなと確信が持てました。どちらかというと一つのことに没頭する気質があるので、挑戦というか「少し背伸びをしているところの方が心地いい」というのがあります。何らかの競技や競争などでは負けたくない、という気持ちもあります。
若手リーダーとして経験した面白さと苦悩
―インテリジェンスに入社して一番印象に残っている経験は何でしょうか?
当時は入社してくる人数が年々増えていた時期なので、24歳や25歳でマネージャーになっている人が多くいました。自分もある一つのグループを任された際に、メンバー全員が予算を達成して、グループも達成して会社から表彰された経験は、楽しくて印象に残っています。多分そのころから、自分が競争に勝つことから「メンバーを勝たせる」ことに力を入れるように意識が変わったんですよね。「人が変わる」瞬間を見るのが面白かった。当時は、メンバー個人の合算値がグループ全体の予算になるので「誰かが秀でたら、予算が達成しない部分も含めてグループ全体として達成可能」というつくりでした。こうした「全員が予算を達成していくと皆が喜ぶ構図」って一番美しいなと思って、そこに挑戦していました。一人では出来なかったことが出来るようになるのを目の当たりにすると、周りにも良い影響が与えられていくと思っているので、そこはこだわっていますね。
―その際に苦労した点などはありましたか?
実は最初にマネジメントを任された際、マネージャーになった後に一度アシスタントに降格した経験があります。その時は組織としての予算が達成できず業績も出ず、わりとガタガタだったので挫折を感じました。そうは言っても、誰も立ち直り方を教えてはくれないので、当時はひたすら本を読みましたね。マネジメント関連の本を読みあさり、最終的には自分に合うものを抽出して…。他にも、先輩に話を聞いて、すごいところを真似しようともしましたが、その先輩だからこそできることもあります。ですから結局は「自分なりに好きなことをやろう」「正しいと思っていることを信じてやろう」と決心しました。
―その中でどの本から影響を受けたり、学びがあったりしたかを教えていただけますか?
自分の心を支えてくれたのは、三枝 匡さんの『V字回復の経営』と『戦略プロフェッショナル』と『経営パワーの危機』です。三部作とも全て読んでリーダーの在り方を学びました。
また最終的に自分の中に息づいているのは、山本五十六の「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、誉めてやらねば人は動かじ」という言葉です。ドラッカーなども含めてたくさん読みましたが、僕の中で残ったのはこうした精神論に近いものですね。
世の中に良いインパクトを与えたい
―次に株式会社ローソンへとステージを移された背景をお聞かせ願えますか?
インテリジェンスという会社はとても面白かったんです。誰もが思考が外向き、かつ前向きで、この会社を良くしよう、大きくしよう、他社を越えていこうなど、熱く語っていました。ただ、そんな人たちでも30歳を過ぎてくると、思考や視点がだんだん外向きのことだけではなく、内向きのことも気にしなくてはならなくなる、そんな風に感じたんです。もちろん自分もその自覚がありました。これじゃあいけない、「世の中に対してインパクトを与えてきたと自負できるようなことをしたい」と考えて転職を意識し始めました。
そこでローソンに出会いました。当時のローソンは本気で「セブンイレブンを越えていくぞ」と打ち出していました。そこで、もし自分も貢献して2位から1位になったとしたら…。似たような事例だと、アサヒビールがキリンビールを抜いたとかもあって、そういうストーリーはすごく面白いと思ったんです。
また、コンビニの社会的ステータスをより向上できたらとも考えていました。ローソンが変わるとコンビニのステータスが変わり、流通が変わっていく。そうすれば「社会的意義のある仕事、大きな仕事をした」と思えるかなと。
―ローソンではどのようなご経験をされたのでしょうか?
ひとつはオーナー政策です。当時のローソンはお父さんとお母さんで1店舗を経営という、いわゆるパパママストアが多かったんです。こうした店舗を法人化して成長させていくことで、1店舗でなく10店舗、20店舗を経営してもらうMO(マネジメントオーナー)制度を構築する仕事に携わりました。制度の設計から、どういう人ならオーナーとして複数店舗を任せられるかといった判断軸や、教育プロセスなどを構築していましたね。
―難しいポイントは何でしたか?
僕が一番難しいなと思ったのは、社内の調整ですね。やはり30年間くらい、基本的にはパパママストアがメインなので、それに合わせた契約形態・システム設計・社内の改正など全て決まっていたんです。そのため、オーナーを成長させて複数店舗の経営を任せる方針に伴うITのマスター管理や見せ方、FC契約のルール、組織体制など全部変えていく必要がありました。
理論上の設計はわりとできます。ただ、現実と合わせていくところでは、基本的に反対されるのでどの順番で会社の合意をとっていくかなどは難しさがありましたね。どの部署の配下にいたら最もそれが有効に進められるかなどを繰り返しながら、3年〜4年くらいかけて推進していきました。
―そうした経験を通じて千葉さんはどんな点で成長されたと感じていますか?
規模が大きな企業の意思決定を進める動き方などは学べたと思います。ローソンは2兆円とか3兆円ほどの売上でとにかく大きく、何かの意思決定とかはすごい慎重に進めるんです。
このMO制度って、いわゆるフランチャイズビジネスにおいては肝なので、長期間考えて進めていきます。もちろん途中で頓挫する可能性もありますが、そこを通し切るために重要な経営会議などに向けて周囲に仲間をつくっていく難しさは学びました。会社での動き方、決裁の取り方は、僕にとって大きな学びだったと思っています。
―千葉さんは、仕事の意義を自分でつくって学び、楽しむようにされていますね。
確かにそうですね。意義という大それたものではないですけど、基本的には何に対してもいいところを探して楽しむことは多いですね。社内の合意形成も、それを口実に決裁権を持っている役員クラスとかと直接話せるじゃないですか。こんな面白いことはないですね。
―そのほかに印象に残っているやりがいのあった経験はありましたか?
MO制度の件が落ち着いたところで、2013年や2014年頃からローソンでも「人手不足」が経営課題に上がってきました。当時アルバイトは約20万人いましたが不足状態。
人手が足らないとお店が運営できなくなるため、僕のような人材系に携わっていた人達が集まって人手不足を解消するプロジェクトが持ち上がります。そこで人材戦略的な子会社をつくりましょうとなったんです。
そこで、ローソンスタッフという会社を立ち上げて、ローソンに対しての人材派遣、募集サイトを構えての人材募集を始めました。
当時さまざまな取り組みをしたなかで、世間で最も話題になったのは、海外の人材を積極的に活用する取り組みです。例えば、ベトナムなどで留学前に通う日本語学校での教育の一環として「ローソンで買い物をする」「ローソンで働く」などを研修所をつくって授業に取り入れてもらいました。
そうすると、日本に留学した際の買い物という習慣や実際に働くことを覚えます。その上で日本に留学に来てもらえば、研修をほぼ終えている状態なのでそのままローソンで働けて、皆が「win-win」になるんです。
この施策も当時のチームで色々と協議したなかで生まれたものです。留学生の立場で考えると留学先として選ばれる国は、残念ながら日本でなく一番はアメリカ。そこで、まずは「選ばれる国」になるためにどうするのかを課題としました。
留学生の親御さんの立場で考えると、子どもが留学した時に「学校が決まっている、住むところも決まっている、さらに生活費が困らないように働く先も決まっている」となれば嬉しいのではと考えました。
こうした考え方で、留学生本人はもちろん学校にもメリットがある、親御さんにもメリットがあるといったように、皆が「win-win」になるように設計を進めます。この過程は面白かったですね。
MatchboxTechnologiesに転職|自らの挑戦に感謝できる人生を歩みたい
―その後、Matchbox Technologies に転職されるまでの経緯をお聞かせください。
ローソンスタッフは、フランチャイズオーナーである加盟店と本部の合弁会社なのですが、会社設立の事業計画を策定・実現したのが、Matchbox Technologiesの社長でもある佐藤なんです。佐藤はローソンの1店舗からビジネスをスタートさせて、人手不足に悩み、matchboxの構想を練っていました。
僕もローソンにおける人手不足の課題解決に取り組んでいた際、海外の人材を集める以外の方法でも、逆転の発想をすることで人手不足を解消する新たな仕組みを作っていきたいと考えていたんですね。かなり具体的かつ効果的な仕組みを考えていたのですがただこの時は協議の結果、ローソンではやらないという結論になったのです。
僕自身、「人手不足を救う方法はこれしかない」「自分たちで考えたこのアイデアを実現させて、世の中を変えていける」と思えるくらい考えたものだったんです。実現させたい思いが強く、転職を決意しました。
―千葉さんの挑戦を後押ししたものはありますか?
転職を決意したのが40歳頃、10年後には50歳、そして60歳まであっと言う間。意識したのは、よく言われている「人生で後悔したことベスト1位:あのとき挑戦しておけばよかった」。自分が50歳になったときに後悔する人生は嫌だ。過去の自分に対して「あのとき挑戦してくれてありがとう」、そう感謝できる人生を歩みたいと思ったんです。
matchboxで「世界を少しずつ変えていく」|今後の展望
―今後のキャリアや人生の展望などはありますか?
今、僕は「matchbox」というサービスをとにかく広めたいですね。自治体や流通や小売業、物流関連の企業に導入することを通じて世界を変えていきたいと考えています。
そもそも「人手不足とは何か」というと、働く人数と働く時間が減っているんです。非正規に限った数値ですが一人当たりが働く時間は、現在およそ78時間。10年前は100時間くらいでした。人も減っていて、その人が働く時間も減っていっている。これが人手不足なんです。一人当たりが働く時間が減るのは、育児や介護の問題などを背景に、自分の都合のいい時間で働きたい層・働かざるを得ない層が増えているから。固定で働いた場合、小さい子が熱を出した際に休むことを調整する心の負担がきついんです、介護も同様です。一方で企業側は固定で働かせたいというのは10年や20年、変わっていません。ここでミスマッチが起こっています。
僕らはこのミスマッチの解消するために、企業側が「従業員が柔軟に働ける環境を整えられる」「辞めた従業員ともつながっておける」「必要な時に戻ってきてもらえる」こうしたことを可能にするデータベースを提供します。そのデータベースには、現役の従業員や辞めた人、企業側が認めた地域のギグワーカーが登録されていて、登録者は「働きたいところで自由に働ける」、企業はデータベースに登録者が増えれば増えるだけ「現役の従業員やOB、OG」でシフトが埋まっていく。まさにwin-winです。こうした構想を町や行政、企業に話して採用市場を変えていこうとしています。結局「辞めたら求人を繰り返す」のは対症療法なんですよね。そうではなく予防医療に変えましょう、辞めてもスムーズに対応できるようにデータベースを100人や200人ためておきましょう。そうすれば「人手不足は怖くない」、そういう世界です。
ニュースでも取り上げられたのですが、例えば新潟県の湯沢町は人口が8,000人で労働人口は4,000人を満たしていません。でも一方では観光やスキーで栄えているので、人手不足なんですね。そこでmatchboxが公式の人手不足対策のアプリとして導入されているんです。それによって人の動き方が変わり、法人のホテルなどが助かって喜んでもらえる。「世界が少しずつ変わっていく」のは面白いと感じています。
また、matchboxは人手不足が深刻な医療業界でも導入されています。特にコロナの影響もあって深刻さは増しています。人材会社もありますが高額なケースもあるため、一度データベースをつくっていただき、内科や外科などのスキルセットも登録できるので必要に応じてご利用いただいてます。
―ホームページ等を拝見すると海外の方も経営陣にいらっしゃってダイバーシティに溢れた会社という印象をもっておりますが、いかがでしょうか。
確かにそうですね。僕らのモットーとして例えば、当社の会議を見てもらった時に「誰が偉いか分からないような会社にしたい」と思っています。老若男女や国籍を問わず、正しいと思ったことを言えて、それを認めていく。当社代表は帰国子女というのもあるので、感覚がアメリカに近い。ナンバー2の専務も帰国子女です。マーケティングのトップはアメリカ人で、エンジニアも日本人とベトナム人がトップなので、英語も普通に飛び交っていて面白いですよ。
リーダーを目指すあなたへ
―最後に、リーダーを目指す人に対してメッセージをお願いします。
大切にしてほしいのは「志」ですね。「夢と志は違う」という言葉がありますが、夢は個人・自分。志は色々な人の夢を叶えてあげること。志を実現することの方が何倍も苦しいけれど「“ブレない志”を持って成功するまでやり続けられるか」だと思います。
僕も志がブレたり心が折れそうになることもあります。ただ自分が50歳や60歳になった時に「過去の自分に感謝できるようにしたい」「後悔はしたくない」。そう考えて自らを奮い立たせています。
【おわりに】
世の中をより良くできるインパクトを生み出すため、次々に挑戦を続けている千葉さん。根底にある「志」の強さを感じました。千葉さんのご経験やメッセージから「一歩を踏み出して挑戦する勇気」を得て、過去の自分に感謝ができる「後悔しない生き方」を選ぶことができる人もいるのではないでしょうか。千葉さんの更なるご活躍や「matchbox」の普及を通じて、企業にも働き手にも笑顔が増えていく未来を楽しみにしています。貴重なお話をありがとうございました。