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「自分はこう在りたい」という思いがキャリアを積んでいく
日本航空株式会社
グローバルマーケティング企画部
若村 茜 様
目次
日本のものづくりに携わりたい、少ないメンバーで大きな金額を動かすスケール感のある仕事をしたい、自分の軸をさらに増やしたい──常に「在りたい自分に必要なものはなにか」を模索しながらキャリアを重ねてきた若村さんに、その実現方法や女性のキャリア形成について伺いました。
【若村茜さん 略歴】
2004年に株式会社村田製作所に入社し、海外営業グループで販売推進業務に従事。日本マクドナルド株式会社に転職後、食材のバイヤーとしてポテトやバンズなどの調達、その後デジタルマーケティングを担当。現在は日本航空株式会社でグローバルマーケティングに従事。上智大学外国語学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科(MBA)修了。
コンパクトな組織で働くのか、巨大な組織で働くのか
──2004年に株式会社村田製作所に新卒で入社されました。同社を選んだ理由は?
「日本のものづくりに携われるような会社に入りたい」と思ったからです。村田製作所は世界に誇る電子部品を供給しているので、ものづくりの根幹を支えているという意味で魅力を感じ、短大を卒業してすぐに入社しました。
理系出身でもないし、電子部品についてまったく理解しておらず、仕組みもわかっていないという(苦笑)……本当にゼロから始めて、海外の電機メーカーに電子部品を営業する販売促進業務を行っていました。
──その後、上智大学に編入したのですね。
5年勤めたのち、大学3年に編入しました。村田製作所は手を挙げたらやりたいことをどんどん挑戦させてくれるような会社だったので不満なども一切なかったんですが、やっぱり周りに短大卒が少なくて……「私に足りないところが大学3、4年生の勉強のなかにあるのかもしれない」と思って編入を選びました。
──大学を卒業したのち、日本マクドナルド株式会社を選んだ理由は?
インターンを経てマクドナルドに入社したんですが、ほかにも候補はいくつかありました。そのなかでマクドナルドを選んだのは、会社のダイナミックなイメージとは反対で、本社は意外とコンパクトな組織だったんです。そういった組織のなかで働くのか、何万人も大きな組織のなかで働くのか、どっちがいいかなと思ったときに……前者のほうがその時の私には合っているのかもしれないと思ったのが理由です。
──マクドナルドでは食材のバイヤーとしてポテトやバンズなどの調達に関わっていらっしゃったとのこと。入社当初からの希望だったのでしょうか?
希望していました。というのも、日本のマクドナルド全店舗で扱う食材をすべて調達する部署でしたが、当時レギュラーメニューの調達担当は数人しかメンバーがいなかったんです。そのメンバー一人一人が何十、何百億という桁違いの金額をそれぞれ動かしていて、そういったスケール感にすごく魅力を感じたというのが大きな理由でした。加えて、社内や国内とだけ仕事するよりも、海外との取引も多い部署がいいというのも理由のひとつにありました。
──仕事に関する考え方が変わったエピソードなどはありますか?
マクドナルドで調達の仕事をしながら、その後早稲田大学の大学院(商学研究科)に通うことになるんですが、そのきっかけとなるような出来事がありました。とある商品の調達を担当していた時期があって、海外と国内のふたつを調達先にしていたんです。そんななか、バイヤーとしてコストや品質のバランスを再検討したときに、国内の調達先との取引を停止しないといけないという判断になり……工場にその旨を伝えに行ったことがあって。
その地方では大きな会社でしたが、彼らの事業のなかでマクドナルドとの取引が結構な割合を占めていたので、停止となると会社として存続できるのか、従業員の雇用を維持できるのかといった課題が出てくるわけですよね。その事実を目の当たりにしたときに「この地域の社会を支えている会社と取引をやめて、その会社を危機にさらしてもいいものなのか」とかなり考えさせられる出来事で、「どのような強みを持っていたら、日本で中小企業が存続できるんだろう?」といったことを勉強してみたいと思いました。
食材の品質に関わるニュースの発生を機に「行動指針をつくるプロジェクト」を発足
──そういったなかであの食材の品質に関するニュースが流れるわけですね。
2014年から2015年にかけて品質が疑われるようなニュースが世の中で2回続いて流れ、社内の雰囲気が大きく変わっていきました。私自身は「今の雰囲気の中でこの会社に居続けなくてもいいんじゃないか」と思ったことも正直なところありましたが、会社も先輩方たちも仕事もすごく好きだったので「前みたいにみんなで笑って仕事したいな。私に何ができるだろう?」と考えました。
それで、とりあえずみんなで思っていることや考えていることを洗いざらい話して、ひとつの目標を作って、一枚岩となってこの困難に立ち向かえばいいんじゃないかと……すごく短絡的なんですが(笑)思いついて、資料を作ってプレゼンしました。上司や役員には「そんなことをやってる場合じゃないでしょ、目の前の仕事をしっかりやりなさい」と言われ……当然ですよね(笑)。
でも、最後に社長にメールをしたら「面白いね。ランチをしながら話そう」とすぐに返信が来たんです。それまで直接会ったこともなかったし、メールをしたこともなかったし、遠くから見るくらいの存在だったんですが。
──先ほどおっしゃられた「コンパクトな組織」だったから実現したのかもしれないですね。
そうだと思います。それで社長から「やってみなさい」と許可とサポートをいただき、まずは仲間を増やしていくことから始めました。私を含めて30歳前後のメンバーが4人集まって……業務時間ではなく“朝活”と称して始業前に議論するのを週2、3回、3か月くらい続けて。そこで決まったのが「オフィススタッフの行動指針を作ろう」ということでした。
とはいえ、4人で決めて「これが行動指針になります」と言っても意味がないですから。社長や役員も含めたオフィススタッフ全員で議論をして、トップダウンではないボトムアップでやりたかったんです。それで、全員参加必須のワークショップを何度かに分けて開催しました。「いま会社に感じていることは?」「私たちがやりたいことって何でしょう?」「何ができていないと思いますか?」といった色んなことを議論して、そのなかで出てきたキーワードをヒントに行動指針を作っていったんです。
──最初の4人だけでプロジェクトを進めたのでしょうか?
4人は事務局として動いて、運営してくれる20人のチームを作りました。その頃には会社全体のプロジェクトになっていたので……朝活を始めてから4、5か月経った頃でしたね。ワークショップを開催して3か月後には行動指針の骨子ができあがり、社長と役員にプレゼンを行ったのち正式に4つの行動指針が決定しました。
なかでも「Be! CUSTOMER(まずはお客様になって考えよう!)」と「Go! GEMBA(まずは現場に行こう!)」は……こうして振り返ると当たり前のことのように聞こえますが、つい忘れがちになってしまうことを再認識するための重要な指針となりました。「誰々が現場に行ったから」とかってよくあることだったんですが、ちゃんと自分で行動することが大事なんですよね。
──行動指針を打ち出したことで会社の雰囲気は変わりましたか?
行動指針を出したからすぐに変わったというわけではないと思っています。そもそも定着するまで時間もかかりましたし……でも、社長の協力もあって定期的に「行動指針に沿って仕事ができたかどうか」の振り返りも実施して、徐々に定着していった感はあります。結果的には、2018年くらいにグローバルがフィロソフィーを打ち出すまで続いたプロジェクトになりましたね。
「調達、組織改革と並ぶ3つ目の軸がほしい」と転職を決める
──行動指針のプロジェクトを推進されている最中にマーケティングの部署に異動されたとのことですが、希望したのですか?
マーケにいた人が誘ってくれたので異動しました。調達を6年やっていたなかで、キャリアを考えるうえで「自分の市場価値を高めていくためにも、もうちょっと軸がほしい」と思ったんです。ひとつは調達、ひとつはプロジェクトでやった組織改革、その2つに並ぶような軸をもうひとつ……と思っていたタイミングだったので、ホイホイ乗っかりました(笑)。
──その後、産休に入って。
2018年の12月に次男を出産したんですが、業務も忙しく産休ぎりぎりまで慌ただしく過ごしていたんです。そこで急に暇になってしまって「私の人生、これでいいのかな?」と突如考え始めました(笑)。当時33、4歳だったので「転職するにはいまが最後のチャンスになるかもしれない」とも思いましたね。
産後すぐに復帰して、育休はとらずに4月からJALに転職という慌ただしい感じになってしまいました(苦笑)。3月末までは母に来てもらって、夫も子どもの面倒をみてくれて、生後3か月の4月からは保育園に通っていました。本当にスピーディーでしたね(笑)。
──JALを選んだ理由は?
マクドナルドのマーケティングって規模も大きいし、日本人の誰もが知っているファストフードで楽しかったんですが、“食”なので、1回の食事でお客様と接する期間が比較的短いんです。
一方、JALのような旅行業界は1年以上前からプランを練っているお客様もいるし、多くは2、3か月前からプランされているわけで。お客様が旅を考えたときからJALにご搭乗いただいて帰るまでの期間も長く、接する機会も多いですよね。それがマクドナルドとはまた違ったワクワクを感じたのが理由です。
──JALのマーケティングに従事して感じたことは?
国内のお客様はJALのことをよく知ってくださっていますが、海外のお客様は「JALってなに? 日本の航空会社?」くらいの認知度なんです。なので、まずは海外のお客様にJALを知っていただいたうえで、JALを選んでいただくのを目的としていて、外からみて知っていたJALとは違った面白さがあると感じています。
──働く環境としてはいかがでしょうか?
同じチームに16人のメンバーがいるんですが、東京、沖縄、ロサンゼルス、サンディエゴ、シンガポール、上海、ロンドンと、働く場所がそれぞれ違っているのが楽しいですね。時間帯がなかなか合わないという点ではすごく苦労しますが(笑)、メリットのほうが大きいと思います。
私は日本のチームをマネジメントしていますが、日本人、アメリカ人、中国人からなるチームなので考え方が違っていたりもします。だからこそ、「みんなが自分と同じことを思っているとはかぎらない」というのを常に頭に置いてコミュニケーションをとるようにしています。
──マネジメントに関して、ほかにも意識していることはありますか?
私がいままでされてきて嬉しかったマネジメントの仕方というものがあって……もちろん、わからないときは指示を出されたほうが安心はするんですが、どちらかというと私の場合は自分のやりたいアイデアが色々とあって、それを実現できるようにそっと背中を支えてもらうほうが嬉しかったんですよね。
ですから、メンバーのやり方やいまのステージを見極めながらにはなりますが、基本的には「最終的になにか困ったら手を差し伸べるけれど、それまではサポートに徹する」みたいなスタイルでマネジメントしています。
「迷ったら新しいほうを選択する」というブレないモットーがある
──今後はどのようなキャリアを目指しているのでしょうか?
マクドナルドにいたときは「マクドナルドの社長になる!」とかって豪語していたんですが(苦笑)、いまは先ほど申し上げた3つの軸を手に入れたら経営に携わりたいと思っています。経営企画というよりは、いつかは役員として経営陣に入りたいという気持ちがあるので、そこを目指して頑張っています。ただ、今の会社やグループ会社に出向して役員になるのか、全然違う会社に転職して役員になるのか……どこでそれを実現するのか、というところはあまり意識をしていません。
──女性がキャリアを積むうえでのアドバイスはありますか?
まさに自分のキャリアを少しストップさせたのが去年の1年間だったんですね。長男が小学校に入学して、次男が保育園から幼稚園に転園するタイミングで、夫もすごく忙しくて、それまでやってくれていた保育園の送り迎えとかができなくなる状態でした。私は仕事が大好きで自分のキャリアも考えていますが、優先順位というのはやっぱりあって。去年の私の最優先は家族だったんです。
事前にそれを上司に伝えたことで……仕事量が著しく減るとかはなかったけれど、宣言したことで自分のなかに気持ちの余裕が生まれました。下の子の送り迎えもお弁当づくりも、上の子の小学校に関するあれこれもやって、やっと1年経った今年はもう少し自分のための時間が作れるかなというタイミングなので、これから自分のやりたいことに軸を置いてもいいかなとは思っています。
──ライフステージ毎に優先順位が変わっていくのは、女性が働くうえで避けては通れないところですね。
なにかを選択しなければならないときって「いまこれを逃したら、今後チャンスが訪れないんじゃないか」と思ってしまいますが、意外とそうじゃないんだなとこれまで経験して感じました。まったく同じチャンスはないかもしれませんが、違う形でチャンスってまた巡ってくるし、掴みに行けばいい。だからこそ、目の前に来たチャンスをいつでも掴み取れるように準備しておくことが本当に大事だなと最近とくに思っています。
──何かを選択するときに基準としていることは?
私のモットーでもあるんですが「迷ったら新しいほうを選択する」ですね。マクドナルドからJALに転職するときもすごく悩みましたが、「マクドナルドが大好きだけど、新しいところへ行こう」と決意しました。みなさんモットーってあると思いますが、そこがブレなければいいのかなと思っています。
──ブレないモットーがあると迷いが少なくなりますね。
「いまの私にはこれが必要なんじゃないか」という思い込みも激しいので(笑)、それが正しいかどうかわからないですけど、迷いは少ないです。
──ブレない軸をしっかり持っていらっしゃるのは昔からですか?
「自分はこう在りたい」というのがいつもあって、その時々でどんどん変わるんですけど、「こう在りたいから、いまはこれをしなくちゃいけない」と……良くも悪くも縛られているところがあるのかもしれません。でも、そうやって思い込みが激しいところも強みにしていけたらいいんじゃないかと思っています。
──まさにそれが若村さんの強みだと感じました。若村さんのキャリアの軌跡や考え方はキャリアに悩んでいらっしゃるビジネスウーマンにもとても参考になるお話だと思います。ありがとうございました。