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組織文化とは、変えることを真面目に考えすぎてはいけない、それは楽しむべきことなんです
日本ブッシュ株式会社
代表取締役社長
齊田 エウヘーニオ バレンティン 龍樹さん
目次
アルゼンチンで育ち、お父様や学校からリーダーシップについて考えるきっかけを得てビジネスに取り組んできた齊田さん。トップマネジメントになってからは組織文化の重要性に気づき、いろいろな仕掛けをして組織文化改革に取り組み、成果を出してきました。組織文化を変える取り組みは様々な企業で行われてきていますが、齊田さんは社員の皆さんとともに楽しんで取り組んでこられたと言います。デニソン組織文化診断との出会い、過去に成果を出された取り組み、そして現在、これからはどんな仕掛けを考えているのか、具体的なお話を伺いました。
齊田 エウヘーニオ バレンティン 龍樹さん 略歴
ブエノスアイレス大学法学部卒業、日本の東京大学法学部修士課程国際公法関連研究で学び卒業後は日本ヒルティ株式会社に約20年勤務。その間、リヒテンシュタイン公国や香港に駐在し、マーケティング、営業等要職を歴任。2021年4月に日本ブッシュ株式会社社長に就任。
リーダーシップ・ジャーニーのきっかけ
-今日は齊田さんご自身のリーダーシップに関するお話と齊田さんが取り組まれてきた日本ブッシュの組織文化変革についてのお話についてお伺いしたいと思います。
まずは齊田さんご自身についてお伺いしたいと思いますが、これまでにリーダーを目指すきっかけなどがあったらお伺いできますでしょうか。
私はアルゼンチンで育ちました。アルゼンチンで育ったのは、父が日本から移住して小さな会社を経営していたからなのですが、父からの影響が大きかったです。父はいつも私に、「自分がどれだけの人に対して影響を及ぼすことができるかをチャレンジするのは面白いと思うよ」と話してくれました。父も、小さな会社でしたが、移住して一から始めてそれなりの規模のビジネスに育て、それなりの数の人たちに影響を及ぼしてきたからそのような話をしていたんだと思います。また、アルゼンチンでは陸軍幼年学校に通っていたので、そこではリーダーについての概念を学びました。それがきっかけで良いリーダーとはどのようなリーダーなのかということを考えるようになりました。そのようなきっかけでリーダーシップポジションを目指したいと考えて仕事に取り組んできましたね。
-幼いころから周囲にそのようなことを考えるきっかけとなる刺激が多くあったのですね。では実際にお仕事を始められてから、リーダーを目指すことになるきっかけはあったのでしょうか?
新卒で会社に入社したときには、トップを目指すという漠然とした憧れはあったものの、具体的にはあまり考えていなかったと思います。入社後5年くらいで初めてマネージャーに昇進したときに、社長と直接話をする機会がありまして、その時初めて現実の目標として考えるようになりました。その社長―今は大企業のCEOをされていますけれど―は、まだ若い私に直接、社長になるにはどんなキャリアを積み重ねていけばよいかを語って示してくれたんです。それをきっかけに、自分でもどういったキャリアを目指していくのかを常に考えていました。気が付けば本部長まで昇進していたので、あらためてそこで自分の強みや経歴を棚卸し、どういうところで自分が強みを生かせるのかというのを考えて今の会社に出会いました。
リーダーとしてのチャレンジ:エンパワーメント・トラスト・エンゲージメント
-リーダーを目指してこれまでにいろんなチャレンジをされてきたと思うのですが、ご自分の中で、成功したチャレンジ、あまりうまくいかなかったチャレンジ、どんなご経験が今の齊田さんに生かされているのでしょうか?
そうですね。成功、失敗どちらもあります。いろいろな経験を振り返って言えることは、自分だけでなんとかやろうと思った時には失敗して、周りの力を借りて取り組んだ時には結果としての成功だけではなく、みんなで喜べる成功を得たのではないか思っています。
振り返ると割とうまくいったかなと思える出来事のひとつは、私が初めて営業のリーダーシップ職である本部長に就いた時のことです。部下が80人くらいいたんですけれども、やったことは、直属の部下であった営業課長の皆さんに権限移譲をすること、その方たちに対して、自分はリソースであり、結果を出すために本部長である自分を使い倒して何をどうすればいいのかを考えてほしいということをくどいほど伝えていました。また、本部長という自分にしかできない仕事は何なのかということを常に考えて動いていました。対顧客では、担当者ではなくマネジメント層とよい関係を築くために動く、そして、大きな問題が発生してしまった時には、自分が出向いてしっかりお詫びをして誠意を見せること、場合によっては、見て見ぬ振りしたいようなものを敢えて逃げないで、メンバーと一緒に行って頭を下げるとか、常に、積極的に身を投じた感じでしたね。でも、メンバーはちゃんと見ているんです。自分のリーダーが必要な時にはサポートしてくれると、出るところに出てくれて、責任をちゃんと取ってくれると信じられたら、羽を伸ばして活動します。やってみたらそのことが手に取るようにわかりました。あとは、メンバーをしっかり賞賛すること。みんなの前で賞賛する。そういうことをやったら、みなさん本当に自信を持って活動してくれる。
マネジメントとしてどれだけ居心地がよくても、メンバーが苦しんでいたらいい成果は出ないし、メンバーが成功したらそれはマネジメントの成功にもつながります。メンバーひとりひとりのやる気がでて、主体性を持って取り組んでくれる職場というのは、活気がありますよね。
-今のお話の中には重要なことが3つありました。キーワードにすると、一つがエンパワーメント(権限移譲)、二つ目がトラスト(信用すること)、三つめがエンゲージメントです。例えば、エンパワーメントですが、齊田さんが権限移譲するときに、この人にはこれぐらいの権限を持たせてもいいだろう、と見極めるポイントはどんなところでしょうか?
例えば、昨年4月に日本ブッシュに着任して、5月に日本戦略のプロジェクトを立ち上げました。ただ私自身が当社に転職したばかりでしたので、社内のメンバーのことは何もわからなかったんです。そこで、まずは戦略プロジェクトを立ち上げ、プロジェクトの役割をアサインし、戦略ワークを通じてそれぞれの力量がどれくらいかを確認しました。Conceptualに考えられる人なのかどうか、それをちゃんとデータでバックアップしてそれを資料に落とし込んでみんながわかるようにコミュニケーションが取れるのかとか、それともどちらかというと感覚で動くタイプなのか、どういうことが得意でどういうことが苦手なのかを見ながら、プロジェクトでは5つのモジュールを立ち上げたんですけど、それぞれのモジュールリーダーと2週間に1回、3時間しっかり話せる時間を取りました。
ほかにも見る視点としては、それぞれのメンバーは歩んできたキャリアが違うので、人によって知らないこともありますが、そういう時にどういう行動をする人なのかというのをよく見ておきました。そのあといくつかのプロジェクトが立ち上がったので、そこまでに判断したそれぞれのメンバーの力量に合わせてアサインをし、そこでさらにそのプロジェクトにおいてどうやって周囲の人たちを巻き込むのかなどを見ていました。そのようなプロセスを経て、この人だったらもうちょっと(ストレッチ)できるかな?とか、ここまでだったら権限を与えてもいいかなとか、ある程度判断できるようになりました。必ずしも毎回、期待した結果が出せるとまではいきませんが、透明性の高い風通しのいい文化を醸成していけているのではないかと思います。とはいえ、ビジネスですので結果は出さなければいけないし、競合企業は我々が力をつけるのを待ってくれない。ですから、そこは、賞賛する一方で厳しい決断はしないといけない。リーダーとしてそこがタイムリーにできるというのは非常に重要だと思います。
リーダーとしての決断力:エンパシーとZero Tolerance Policy
-戦略や人に関する意思決定を行うのは非常に難しいですし、大変だと思うのですが、意思決定を行う際、齊田さんご自身が気を付けていらしたり、重要視していることはあるのでしょうか?
私の考えですが、ビジネスですから、まず事実に基づかないといけない。英語のことわざで言うと、Facts do not care about your feelings.ですね。事実はあなたの感情とか気持ちには一切考慮しません、関係ない、ということです。決断をするときには事実に基づいて判断を行います。感情で判断をするのではなく、そのためになるべくたくさんのデータを集めます。人に対する決断の場合は、その人の評判、どういったリーダーシップの型をもっているかということや、いいところや短所なども。あと、人に関する判断をする場合には、対象者の一階層上の人たちと話し合います。対象者と同じレベルの人に判断させたり評価を聞くのは適切ではないと思っています。
あともう一つ、気を付けているのは、判断しないといけないことはやらないといけないんですけど、それが厳しい内容だったら、厳しいからこそ、そのやり方をすごく工夫しないといけない。エンパシー(共感性)をもって、出来る限りのサポートをするようにしています。白か黒かではなく、少なくともそのポジションは合っていないかもしれないけど、異動したら彼/彼女を生かせるのではないかなど、とにかく考えています。
逆にこれだけは一切の妥協をしない、いわゆるZero Tolerance Policyを守っているものもあります。それだけは絶対に譲れなくて、厳しい決断を厳しく下すのが、「誠実かどうか」という点です。「誠実」は以前勤務していた会社で掲げていた4つのコアバリューのうちの一つでした。勇気、コミットメント、チームワーク、誠実の4つ。チームワークやコミットメント、勇気であれば、この人は勇気がたくさんある、そんなにない、とか、コミットメントが高い、あるけどそこまで高くないってグレードを付けられるんですけど、誠実は、ゼロか100か、あるかないか、それだけなのでそこだけは一切譲らないです。これはリーダーとして絶対にぶれてはいけない世界だと思います。ここがちょっとでもぶれたら、それこそメンバーがちゃんと見ています。
組織文化も変えていくのがリーダーの仕事
-組織文化のすごく重要なポイントをお話いただいたんですけれども、前職のころに組織文化の重要性に触れることがあって、組織文化を変えていくことによって会社のパフォーマンスも上がっていく、そんなご経験をお持ちだったと伺っているんですが、その辺はいかがでしょうか。
私が前の会社に入社したのが99年、退職したのは2021年でしたが、私が入社した時の組織と、卒業させていただいたときの組織は全く別の会社のようでした。もちろんいい意味で、です。私が去った時の組織の文化は、自分のブランドやビジネスに非常に誇りを持って、自信を持てている状態でした。我々はちゃんと勝てるビジネスをやっている、お客さんに進んで選んでいただける存在なんだ、という自信に満ちた雰囲気が漂っていました。
その会社はグローバルではすごくいい組織文化があるのですが、日本法人があまりうまくいっていなかったんです。2013年に1年かけて戦略を作って、14年の1月から実行を始めたんですけど、その前の戦略は2009年にできたものだったので、その2009年の戦略を振り返って何がうまくいって何がうまくいかなかったのかという検証を行いました。そうしたら、基本的に、2009年に決めた施策は今でも通用する施策であり、戦略を作っている中でこのあたりが狙いどころだというのがほとんど一緒だったことがわかったのです。それでもうまくいかなかったのは、なぜか。当時の組織には戦略をやり遂げる、やりきることが不十分だった、何が何でも結果を出すっていうマインドセット、組織文化がなかったんです。戦略をビジネスの観点だけで決めるとまた同じ轍を踏むことになってしまうなと思ったので、結果を出す組織を作るにはどうしたらいいのかを学び、そのタイミングでインヴィニオさんに出会ってDenison Organizational Culture Survey(DOCS)を実施しまして、現状の組織文化がどうなっているかを把握したうえで、どのように変えていきたいか、変えるためには何をしていけばいいのかを社内で話し合い、どんどん実践していきました。
-そのようなことを実践されていたのですね。確かに2回目に実施したDOCSの結果は大きな変化があり、私どもも大変感銘を受けました。今回、日本ブッシュ様に着任されてからもDOCSを実施していただきましたが、その結果を受けて、現在はどのようなことを実践していらっしゃるのでしょうか。
先ほど少しお話しましたが、クロス・ファンクショナル・チーム(CFT)を作っていろいろなプロジェクトを立ち上げています。今回のDOCSで見えた結果から、縦割り的なアプローチが散見されたのでそういう取り組みが有効かなと。最初に立ち上げたのが日本ブッシュ40周年に関するCFTです。他にもさまざまなテーマがあったのですが、最初に重いトピックを取り上げたら、従業員が参加しづらくなってなかなか盛り上がらないかなと思って40周年記念のイベントを考えたりしてもらっています。歴史を讃える出来事ですから、会社のためにというよりは社員のための40周年なんです。そういうものは自分のようなおじさんがどこかに籠って一生懸命考えてもあんまりいいアイディアは出てこない(笑)。だからボランティアでやりたい人をまずは立候補で募りました。どこかの部署に偏ってもよくないので、部署本部から一人ずつ。これは本当にうまくいきました。どんな事が実施されているかというと、たとえば、ウェブで特設ページを作りました。社内用と社外用を作って、社内用は歴史をより事細かに辿って、今もいらっしゃる方に、実は知られていないようなお話を語っていただいたり。社内イベントもオンライン、オフライン工夫して実施していますし、今やりたいと思っているのは、ちょうどこれから実験するんですけど、まずは社内で、ファミリーデーを企画して、社員のお子さんを招待して、当社のコア技術である真空技術を使っていろんな実験をして見せてあげるようなイベントを考えています。内容も面白いですし、これには相乗効果があって、こういったイノベーティブな技術に自分のお父さんお母さんが携わっているんだということを子供に、家族に、知ってもらうという狙いもあります。まずは社内でやってみて、うまくいくようなら社外にも広げようと思っています。ブッシュブランドを広めるいい機会にもなりうる。そんなにお金もかかりませんし。
-今、日本の多くの企業で組織文化を変える、エンゲージメントを高める、そのために、すごく苦労されていて、なかなか前進できないでいる会社さんも多いのですが、今のようなお話を聞くと、もっとできることがたくさんありそうですね。
多分、組織文化を変えるということを真面目に考えすぎなんですよ。楽しむべきことだと思います。組織文化はトップマネジメントがどれだけ一生懸命考えても、メンバーひとりひとりが変わろうと思わなければ全く変わらない。だから、トップマネジメントは自分が一生懸命手を動かすのではなく、火の付け役を選ぶのに時間をかけることが重要です。あくまで火の付け役はメンバーなんです。それが得意な人、ムードメーカーの方、ひとりはいますよね。そのムードメーカーが、輝ける、そういった環境づくりをしてあげるのが大事なんじゃないかなと思います。
もう一つのポイントは、ビジネス的な重要性、優先順位はマネジメントが決定すべきことだと思うのですが、そのやり方とかタイミングですとか、それをどういう風にやるかは、そこは権限委譲していく。やる人たちがどのようにやるかっていうところを自分たちで一生懸命考えることがすごく大事だと思います。手取り足取り指示を出してもあまりいい結果は出ない。私の役割としては、大枠だけ決めてあげて、メンバーが迷わないようにしてあげることが大事だと思います。
-日本ブッシュ様に着任されてからすごくうまくいっているお話を聞けているんですけれども、これからもう少しこんなことをやりたいとか、こんなCFTも面白そうだなとか、お考えのことはありますか?
はじめたばかりで、まだできてないことが多いので、やりたいことは山ほどあります。とはいえ、今まで大きな規模での変化をあまり経験してきていない組織なので、常に組織の状態を、チームメンバーの状態をみていきながらやっていきたいです。スピード感を持つのはすごく大事なんですけど、やっぱり組織がついてきてくれないと意味がない。そこはやっぱり折れない程度に曲げていく、途中で息切れしてしまわない程度にストレッチをかけていくっていうようなイメージで進めています。やらないといけない(義務的)なノリで進めてしまうと、どこかでみんな疲弊してしまう。成果がでたら、これは自分たちで成し遂げたものなんだと称賛して気づかせて自信をつけてもらって、次のステップにチャレンジしてもらう、という感じで進めていきたいと思っています。
あとはすごく大事なのが、情報発信をすること。今は四半期に一度なので、まだまだ全然足りていないと思うんですけど、月一回くらいは簡単な動画とかで社長メッセージを出していったほうがいいのではないかと思っています。今日お話ししたもの以外でも、会社全体を見ればいろんな施策に取り組んでいるのですが、社員個人単位だと、自分が関わっていることしかわからない。でも全社ではいろんなことが走っているんです。ですから、たまたま一個の施策にしか携わっていない人は、何も変わっていないっていう認識を持ってしまいがちだと思いますので。それぞれが持っている点の情報を線につなげてあげるようなイメージですね。
リーダーを目指す人たちへ
-すでにいろいろと仕掛けていらっしゃることがわかりました。次回、DOCSの結果が大幅に変わりそうで楽しみです。最後に、リーダーをこれから志すかたに向けてメッセージをお願いします。
私の父は昨年他界したんですけど、このポジションについて私が小さいときに父とした会話を毎日思い返しています。父は、リーダーシップとか、人に影響を及ぼすというような話をするのが好きだったので。「今から話すことについて、どっちが正しかったと思うか考えを聞かせて」と言われたことがありました。「新しい社長が会社に就任しました。そこで、社長は新しい方向性を見出して、絶対にビジネスとしてはそっちの方が正しい。それをやろうとしている。だけれども、社員の反対にあってしまってできていない。社長として一生懸命説得しようとしていたのだけど、結局説得できなくて、社長は辞任しないといけなくなった。結果的に会社としても倒産してしまった。」この話でどっちが悪かったと思うか?社長が悪かったのか、社員が悪かったのか、どっち?と聞かれたんですね。どっちだと思いますか?
私は、悪いのは社員じゃない?って言ったんです。社長は正しいことを言っていたのだから。でも父の正解は違いました。こういう時、どんな場合でも、社長が悪いんだよと。社長の仕事とは、正しいことを定義づけてやるだけじゃなくて、どちらかというと社長の大事な仕事はみんなを動かすことなんだよと、みんなを説得できなかった社長が悪いんだよというのです。私は当時、14-5歳でどちらかというと自分なりの正義みたいなものがあって、あまり納得いかなかったのですが、わかってきた気がしています。新米リーダーのやりがちなミスで、常に自分自身が正解を出さないといけないと錯覚してしまうんですけど、そうじゃなくて正解はチームで出していけばいい。チームで出した正解っていうのはおのずとみんなが腹落ちしていますよね。
-なるほど。最後はいい話で締めくくっていただき、ありがとうございました。