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M&A・吸収合併の成功要因は組織文化とリーダーにあり|事例紹介
目次
M&Aおよび吸収合併の60%〜80%は、財務実績、市場シェア、その他期待されたシナジー効果において合併前の期待を超えることができないという統計を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
しかし、アメリカのABC社のように成功を収めるケースもあります。もちろん、初めから順風満帆だったわけではありません。成功の背景には、コカコーラやNASAなど8,000社以上もの業績や組織パフォーマンスの向上を支援するデニソンコンサルティングが手がけた「デニソン組織文化診断」「デニソンリーダーシップ開発360」があったのです。
今回は、吸収合併で大きな成功を収めたABC社と、その成功を支えたデニソン社のストーリーを事例として紹介します。ビジネスにおいても先進するアメリカで生じた実例を知ることができるため、ぜひ最後までご覧ください。
M&A・吸収合併の成否を分ける「組織文化の統合」
消費財市場ランキングで米国第2位と第3位のシェアを持つ両社の合併は「巨大企業合併」といわれました。この会社合併により、売上高90億ドルを超える消費財メーカーが誕生し、長い伝統と異なる文化を持つ2つの会社を、1つの企業文化に統合する必要が生じます。
合併前の数年間は両社にとってストレスの多い時期であり、合併に伴うタスクが始まると、両社のストレスレベルは限界に達しようとしていました。そこでABC社は、この取り組みにおいてデニソン社に支援を求めたのです。
大規模な合併や買収を経験したほとんどの組織は、後になって考えてみると「組織文化の統合」にもっと注意を払うべきだったと語ります。
ABC社は、独自の組織文化を発展させるために、非常に積極的なアプローチをとりました。ABC社がデニソン組織文化診断の結果に見出したのは、経営陣がハイパフォーマンスな組織文化とはどのようなものかを示し、合併で期待される利益を実現する能力に焦点を当てるための、明確かつ簡潔な方法でした。
M&A・吸収合併における最初の100日間
合併における最初の数週間から数ヶ月は、混乱と不確実性に満ちています。
両社がこれまで相次いで否定的な報道を受けてきたことを考えると、会社の新しいビジョン、つまり「勝利する会社」のビジョンを策定し、それを伝えることが重要でした。
全従業員を対象とした会議で、ABC社の幹部は開口一番、「皆さん、私たちのビジョンは市場で勝つことです。個人として勝ち、チームとして勝ち、そして会社として勝つことです」と述べました。そして「何が勝者を創るのでしょうか?それは 組織文化です。つまり私たちの考え方、行動様式、そして組織の運営方法が重要です」と語りかけました。
合併から 100 日が経過した時点で、デニソン社のシニアコンサルタントであるブライアン・アドキンス博士は、従業員に関する下記項目を理解するために1週間を費やしました。
- 現在の戦略をどの程度理解しているか
- どの程度統合されていると感じたか
- どの程度関与していると感じているか
- 共通の組織文化を構築するために必要な変化をどの程度感じているのか
合併後における各従業員の声
後にABC社の幹部は以下のように語っています。
「さまざま部門に所属する、さまざまなレベルの従業員たちと合併前のABC社について話をしました。私たちはこれからも話し合いを続けます。
私たちはオペレーション担当者と非オペレーション担当者の双方と話をしました。何が機能し、何が機能していないかを聞くためです。
プラス面もマイナス面も理解する必要があります。なぜなら、各従業員が組織についてどう考え、どう感じているかが、私たちの”勝利する文化”を発展させる計画に不可欠な要素だからです」
幹部が従業員からヒアリングできた結果をいくつか紹介します。
肯定的な項目
- 会社としてのABC社および地域社会でABC社が行っていることの両方に誇りを感じている
- 多くの人がリーダーシップ・チームへの信頼を表明している
- 新しいチームは慎重な楽観主義である
- 新しいアイデアを受け入れる姿勢があるようだ
改善が必要な項目
- コミュニケーションを増やす必要がある
- 縦割り主義が横行している
- プロセスやプロトコルが多すぎる
ヒアリングを受けた従業員は自分たちの声が文化変革のプロセスに影響力を与えている実感を得ることにもつながりました。
M&A・吸収合併の成功に欠かせない「リーダーの育成」
合併から7ヵ月後、アドキンス氏と同僚のマーガレット・マーフィー氏は、カスタマイズされたリーダーシップ開発プログラムを開発し、合併前の会社のリーダーを集め、組織文化、チームワーク、そして成功の障壁について話し合いました。
このプログラムには300人近いリーダーが参加しました。参加者は、組織文化診断によって導き出されたデニソン・モデルの詳細なレビューを受け、小グループに分かれて、最初の診断結果(2ヵ月後)がどのようなものになるか、またその理由について、論理的に「推測」を展開しました。
アドキンス氏は後に「リーダーたちが、何が機能しており何を変える必要があるのかを議論するためにデニソン・モデルを使い始める絶好の機会でした」と述べています。
2日間のプログラムには、MBTI(マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標)、様々なチーム・エクササイズ、行動計画など、さまざまなツールが組み込まれました。
各プログラムの最後にシニア・リーダーが各グループと面談し、「学んだこと」「この経験から得たこと」「成果を生む組織文化の創出を支援するために、今後どのように協力していくか」を聞きました。その結果、各グループは主に下記2つについての洞察を共有しています。
- どのような組織文化を残したいか
サイロ化、情報の蓄積、リスク回避、など - 何をすることにコミットしたいか
部門横断的なコラボレーションの促進、模範となること、他の人のアイデアを受け入れること、成功を祝うこと、学習内容を組織に反映すること、など
M&A・吸収合併において重要なビジョンや戦略の浸透
合併から9ヵ月後、組織文化の統合がどの程度うまくいっているのか、またどのような分野に注意を払うべきかを判断するために、デニソン組織文化診断を実施しました。
この診断には3,000人以上の従業員が参加し、特にビジョン、戦略、コア・バリューの分野において、これまで行われてきた統合作業の多くを肯定的する回答が出されました。「私たちは執拗なまでにメッセージを発信し 将来のビジョンとロードマップ、そしてコア・バリューに関して、従業員との対話に全力を注いできました」とABC社の幹部は語ります。良いニュースもたくさんありましたが、本診断を通じて注意が必要な分野もいくつか浮き彫りになりました。
合併を成功させて組織全体としての成果を高めるためには、各従業員が自分の仕事に責任と主体性を持つことが不可欠です。さらに重要なことは、すでに始まっている変化や、今後数カ月でさらに加速するさまざまな変化を受け入れていくことも欠かせません。
M&A・吸収合併の成功に向けたエンゲージメントプラン
最初の調査データを収集・分析した後、「エンパワーメント」と「変革の創出」の分野で成果を上げるための計画が策定されました。
ABC社内の各部門は、「従業員エンゲージメントプラン」の策定を任され、目標とする2つの分野で前進を遂げるために部門内で従業員をどのようにエンゲージしていくかを具体化します。各部門は、2日間のオフサイト・ミーティングを開催し、アドキンス氏とマーフィー氏が進行役を務め、全社の診断結果と各部門の診断結果を分析し討議しました。
ほとんどのエンゲージメントプランには、診断によって提起された問題をさらに掘り下げる作業が含まれていました。主要な取り組みを開始する前に、リーダーができるだけ多くの意見や従業員の反応を得ることが不可欠です。
オフサイト・ミーティングから2週間以内に各部門はエンゲージメントプランを、ABC社と吸収会社を含むチームであるハイパフォーマンスカルチャーチームに提出しました。このチームは以下の重要な目的を担います。
- 説明責任を果たすこと
- 取り組みへの支援を提供すること
- さまざまなアクションを収集しモニターするための中心的な場所を作ること
「入社20年以上で、最高の研修でした」
ABC社の幹部は、800人以上の従業員を対象にカスタマイズしたチェンジマネジメント・クラスを開催することで、組織のより深い部分まで変革を推進したいと考えました。ABC社の幹部は「変化のスピードは勢いを増しており、数週間、数カ月後には、その勢いは増すばかりだとわかっています。全レベルのリーダーが、変化を支援し推進するために何ができるかを理解することが重要でした」と語ります。
アドキンス氏は、各リーダーが「エンパワーメント」と「変革の創出」という重要な領域で、自分が一緒に働いている人たちから、どのように見られているかを確認するために、デニソンリーダーシップ開発360(Denison Leadership Development Survey:DLDS)を使用することを提案しました。ABC社の幹部は、800名を超える従業員が、上司、同僚、直属の部下、および貴重なフィードバックを提供できると思われる複数人から個人的なフィードバックを得られるよう手配を開始しました。
後にアドキンス氏は「これはABC社にとって大きな仕事でした。しかし、フィードバックを 『エンパワーメント』と『変革の創出』という2つの重要な分野に集中することで、時間と労力をうまく割り当て、管理しやすい診断にすることができました。参加者は、フィードバックが非常に貴重なものであることを認識しました」と語ります。
以下は、デニソンリーダーシップ開発360のサンプルデータです。
本事例で実施されたLeading Change 調査は、デニソンリーダーシップ開発360の一部に対象を絞ったバージョンとして開発されました。この調査によって、各リーダーは、「エンパワーメントと変革の創出」という重点分野において他者からどのように見られているかを知ることができます。
終日開催されたチェンジ・ワークショップの重要な構成要素は、規範となるデータが記載された個人レポートを入手し、同じクラスの同僚とともにそのデータを振り返る機会を持つことでした。
ある参加者は「有意義なフィードバックを得られたこの研修は、入社以来20年以上にわたり参加してきた様々な研修の中で最高のものでした」と述べています。
M&A・吸収合併後の変化
合併後、ABC社はエンパワーメントと変化の創出の分野における組織としての進捗状況を測定しました。その結果、「変革の創出」の分野のスコアは48%台から60%台に上昇していたのです。
これは歓迎すべきことであり、苦労して得た改善でした。「新しい仕事のやり方や改善されたやり方が継続的に採用される」、「変化を生み出そうとする試みが抵抗にあう」といった分野で大幅な改善が見られました。各従業員が変革の必要性に応え、その課題に正面から取り組んでいることは明らかでした。
一方「エンパワーメント」の分野は少し異なります。この分野では、部門レベルではかなりの改善が見られた分野があったものの、全体的なスコアは横ばいでした。一般的に、従業員はこれまで以上に多くの情報を得ていると感じており、調査項目は上昇していました。
しかし、「意思決定のレベル」や「事業計画への参加意識」は、最初の診断から低下してたのです。起こりつつある変化の多くは、従業員「とともに」というよりも、従業員「に」起こっているという感覚がありました。進捗状況の測定からは、部門ごとのエンゲージメントプランのいくつかの成功と、その他のプランで不足している点について、有意義な洞察が得られたといえるでしょう。
M&A・吸収合併の成功事例として
最終的に、組織レベル、部門レベル、個人レベルでとられている行動は、ABC社の幹部が開発を任されたハイパフォーマンスな組織文化を構築することを目的としています。大きな課題を達成するためには、小さな積み重ねが欠かせません。「私たちは、組織文化の統合のために思慮深くも積極的なアプローチをとり、(合併前に比べて)何光年も進んでいます」
調査から1年後、ABC社の人事担当副社長が、ミシガン州で開催されたデニソン・フォーラムでABC社の合併について以下のように語りました。
合併直後、ABC社の株価は一株当たり70ドル(合併前の数ヶ月は58ドル)で取引されていましたが、数ヵ月後、ABC社の株価は一株当たり115ドルで取引されました。
さらに、ABC社は合併によるシナジー効果で経費削減の予測を上回り、財務および市場シェアに関するほぼすべての目標を達成しました。
ただ、ABC社の従業員はまだ大変な仕事が残っていることを理解しています。それはオペレーション・スタッフのエンゲージメントを高めるために、まだまだ改善が必要なのです。
そして、アドキンス氏は次のように述べています。「これは、M&Aにおける組織文化統合の教科書的な例です。ABC社のリーダーたちの取り組みは、合併をどのように主導すればよいかを示すケーススタディとなりました」
この規模のM&Aで、こう主張できるものは他にはありません。ABC社の幹部が誇るべき組織統合の事例がそれを物語っています。
1 – 2年目のマネジメントの結果
M&A・吸収合併を成功に導いたデニソン組織文化診断
ABC社における合併の成功を支えた「デニソン組織文化診断」は、25年にわたって50か国以上・8,000社以上もの業績および組織パフォーマンスの向上を支援してきたデニソンコンサルティングが開発した診断ツールです。
「回答は参加者ごとに15分〜30分程度で簡単に行える」上に「実践および実績に直結する調査結果を得られる」というメリットにより、組織文化診断の世界標準となっています。
併せて用いられた「デニソンリーダーシップ開発360」は、各リーダーが自分の評価を同僚の評価と比較し、認識されている長所と短所、能力のギャップなどを特定可能です。リーダーシップおよび管理スキルのベンチマークとなります。
また、弊社インヴィニオは、デニソンコンサルティングの日本パートナーとして国内企業向けに「デニソン組織文化診断」や「デニソンリーダーシップ開発360」を提供・実施しています。実績に裏づけられた組織文化診断やリーダーシップ診断を用いることで、把握や分析のレベルに留まらせるのではなく「実績向上」にコミットします。
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