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新システム導入の失敗は組織文化診断で防ぐ|事例紹介

目次
高い効率やスピードが求められる現代において、各組織ともさまざまな変革を迫られています。新たなシステムの導入は、その主たるところでしょう。ただ一方で、以下のような失敗に至ってしまうケースも少なくないのが実情です。
「新システム導入をしたが、社内に浸透しなかった」
「新システムを受け入れる環境が整っていなかった」
「先に対処すべきだった課題が、新システム導入後に発覚した」
こうした失敗を防ぐために有効なのが、組織文化診断です。組織文化診断とは、従業員へのアンケート調査などを通じて、自社の基礎となる組織文化における課題を明確化することです。
そこで今回は、新システム導入を組織文化診断を用いて成功に導いた事例を紹介します。アメリカのある医療施設を巡る実例ですが、どの組織でも起こりがちな事例のため業界・業種を問わず参考になるでしょう。
さらに本事例は、コカコーラやNASAをはじめとする50か国・8,000社以上もの業績や組織パフォーマンスの向上を支援する米国企業「デニソンコンサルティング」が手がけた信頼性・再現性が高い内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
新CEOが直面した組織内の不信感・抵抗感・各システムの孤立化
カーライル・ウォルトン氏は、アドベンティスト・ヘルス・システムが運営する223床の大型複合医療施設の新CEOに就任しました。この病院は表面的にはうまく機能しているように見えたものの、現実には不信感、抵抗感、各システムの孤立化が存在する組織でした。
しかも、新たにCPOE(Computerized Provider Order Entry、医師向け電子化オーダー・エントリー)システムを導入するという病院全体のプロジェクトも開始しようとしていました。
新任のCEOとして、これから新しい組織を理解しようとしていたウォルトン氏は、院内のチームがシステム導入を成功させ、患者さんに卓越したサービスを提供するというミッションを成功させるための支援を必要としていました。
そこに手を差し伸べたのは、アドベンティスト・ヘルス・システムの最高医療情報責任者であるフィリップ・スミス博士と彼のチームでした。
ほとんどの組織が見逃している重要な視点
医師向け電子化オーダー・エントリー・システム(CPOE)導入には以下のような利点があります。
- 手書きの発注書で起こりうるミスの削減
- 薬物相互作用やアレルギーの予防策の改善
- 注文から患者に届くまでのタイムラグの短縮
- 患者体験の全体的な質の向上
しかし、CPOEシステムの導入は、単に新しいプログラムを病院のコンピュータシステムにインストールするという単純なものではありません。多くの病院や医療施設は、このシステムの導入を成功させるために必要な組織改革の重要性を把握できていなかったのです。
具体的には、システム導入に必要な労力と時間の確保、ワークフローの変化、抵抗感の解消、テクノロジーに対する否定的な感情、コミュニケーションパターンや慣行の変化、テクノロジーへの過度な依存に対する恐れ、組織構造、組織内の役割の調整など、さまざまな課題がありました。
「ほとんどの病院(組織)は、それを逆にやっている」とスミス博士は述べます。
「CPOE導入に伴う組織評価や、導入・稼働を成功させるために必要な文化的側面への対処を検討していないのです。そのような組織では、私たちのような導入の成功は望めないでしょう。」
スミス博士曰く、CPOEのようなシステム導入の一環として、組織のあり方(組織文化)にメスを入れなければ、正しい導入はできないのです。
デニソン組織文化診断で課題を特定・解消
結果としてスミス博士と3人の専門家からなるチームは、CPOEを導入するための多面的なアプローチを開発して各病院への導入に成功します。
その重要な一歩目として、彼らはまず病院の組織文化を「デニソン組織文化診断」を用いて調査し、変化に対する準備の度合いを評価することから始めたのです。
ウォルトン氏は後に以下のように振り返ります。
~ カーライル・ウォルトン、CEO
デニソン組織文化診断は、各病院のエグゼクティブチーム、管理職、医療スタッフの中から選ばれたサンプルの従業員に実施されました。
デニソン組織文化診断の中でスミス博士のチームは、例えば「あなたの役割の中で、夜も眠れないほどのプレッシャーとなるのはどの部分ですか」や「最も改善が必要だと思うサービスラインはどこですか」などの、的を絞った自由形式の質問をしました。
また、病院の現在の状況をもう少し深く掘り下げるために、グループへのインタビューも実施しました。
デニソン組織文化診断は、「コミュニケーション、信頼、ミッションとビジョン、顧客サービス、エンパワーメント、トレーニングと開発、ワークフロープロセス」など、CPOE導入のような大規模な変革を行う際に重要となる課題を特定するのに役立ちました。
スミス博士のチームは、リーダーやスタッフと半日のワークショップを行い、結果を彼らに報告し、現在の組織がどのような状況で、何を期待すべきかを分かりやすく共有しました。
あるケースでは「病院スタッフがうまく力を発揮できていないこと」が明らかになりました。
スミス博士のチームとリーダーシップチーム(各リーダーで構成されたチーム)がさらに深く掘り下げると、これは数年前の危機的状況下で行われた業務上の変更が原因であることが判明しました。その際の変更によって、いかなる意思決定にも上司の承認が必要となっていたのです。しかし、プロセスを見直したところ、もはや実務上利益をもたらしていないことに気づきました。そこで、スタッフの信頼と権限を再構築するための変更を行いました。
また他のケースでは、リーダーレベルのコミュニケーションがうまくいっていないことを認めていました。調査の結果、すべての会議が教室のように設置された部屋で行われていることが判明します。このケースについては「部屋の物理的な家具の配置を円形やU字型に組み替える」という簡単な変更で、グループ内の活発なコミュニケーションを促進することができました。
以上2つの例は、非生産的な固定観念が組織全体の行動に影響を与えることを示す簡単な例です。これらは、CPOE導入を成功させるための基礎固めとして、初期段階で取り組むべき重要な行動です。
その後90日の間に、組織内から副社長と部長クラスの10人の代表メンバーが選ばれ、コミュニケーション、ワークフロー、測定などの分野でトレーニングを受けることになりました。彼らは、組織文化調査によって特定された課題に取り組むことになりました。
例えば、「組織内の信頼関係」が問題であれば、スミス博士のチームは、それを念頭に置いてCPOEプロジェクトの戦略を立て、成功のために必要な知識とトレーニングを代表に提供しました。
それから2ヶ月間、新システムに関する質問を集めたタウンホールミーティングが開催されました。職員が新たなシステムに目を通すこともできるようになりました。
スミス博士のチームと代表メンバー達は、特定の医師グループや請求部門など、リスクの高いグループに特に焦点を当て、不安を解消するために必要な指導とサポートを行いました。その後、6週間のトレーニングが行われ、約8カ月で完了しました。
なぜ組織文化診断が重要なのか?
スミス博士とリーダーシップチームは、デニソン組織文化診断の結果について検討するなかで、組織内の各グループが病院をどう見ているのかについて、非常に大きな隔たりがあることを発見しました。
デニソン組織文化診断は、この状況を明らかにするために大きな役割を果たしました。「客観的かつ明確な情報を得たことで、社員らは間もなく正直に話してくれるようになりました。まるで魔法のようでした」とスミス氏は語ります。
新システム導入に伴う活動のタイムライン(サンプル)
1か月目
・デニソン組織文化診断
・フォーカスグループ
2か月目
・リーダーシップチームへの報告
3か月目
・行動計画/実行計画
4か月目
・主要な行動領域に関する代表メンバーのトレーニング
5か月目
・CPOEに関するタウンホールミーティング
・スタッフへのコミュニケーション
6-7か月目
・全スタッフを対象としたCPOEに関するトレーニング
8か月目
・CPOEシステム稼動
上記は、スミス博士らによるデニソン組織文化診断を中心としたタイムラインのサンプルです。このタイムラインに基づき、まず病院の変革への準備態勢を評価し、CPOEを効果的に導入するために必要な組織構造の変更を開始できました。
各リーダーは以下のように評価しています。
「デニソン組織文化診断の結果は、抵抗感や壁をなくすのに役立ちました」
「より活発な会話ができるようになり、チームとしての信頼性を確立することができました」
リーダーシップチームの診断結果を見ると、リーダーたちが自身を非常に高く評価しがちなことが明らかとなりました。
スミス博士のチームは、このことをうまく利用しました。「この経験によって、各リーダーはアンケートの答え方を理解していることがわかったのです。そこで、私たちは各リーダーに、反論できない自由形式の回答などの質的データを見せ、私たちの信頼性を確立しました」
「多くの意味で、このプロセスはリーダーシップチームにとって最も重要でした」とスミス博士は語ります。CPOEを導入するための確固たるビジネスケースを構築することで、院内の抵抗勢力に対抗することができるようになったのです。
他の導入事例をみても、現場が反対すると経営陣がそれに屈してしまうケースは起こりがちです。そこから軌道修正するのは非常に困難でしょう。だからこそ、このような重要なシステム導入に向けた客観的かつ定量的な根拠の準備は欠かせないのです。
今、組織がどのような状況にあるかを明確に理解できる
ウォルトン氏ほど、システム導入に必要なプロセスの重要性と組織に与える影響の大きさを知っている人はいないでしょう。ウォルトン氏は、スミス博士と共にこのプロセスを一度だけでなく、テネシー州グリーンビルのタコマ・リージョナル病院とテキサス州キリーンのメトロプレックス・ヘルス・システムという2つの医療機関でも実践する機会に恵まれました。どちらの場合も、デニソン組織文化診断は組織の変革への準備態勢を測る重要なツールとして活用されたのです。
ウォルトン氏は、デニソン組織文化診断であればさまざまな利害関係者に基づいてデータをセグメント化できることが、このプロセスにおける重要な利点であると考えました。さまざまなグループを把握し、リスクのあるグループに対して計画を調整することは、各拠点の病院にとって非常に重要でした。
またウォルトン氏は、このプロセスが単なるCPOE導入にとどまらないことをすぐに理解しました。「デニソン組織文化診断は、組織の本質を見抜くための優れたツールです。組織がどういう状況にあるのか、鏡で自分の姿を見ることを強制されるのです」
~ カーライル・ウォルトン、CEO
新システム導入を成功させるための重要ポイント
メトロプレックス(※)はデニソン組織文化診断を実施し、8ヶ月後にCPOEの導入を成功させます。以下では、成功のための重要ポイントを大きく2つにまとめて紹介します。
※メトロプレックス・ヘルス・システムはアドベンティスト・ヘルス・システムの傘下の医療機関です。約1200人の地域住民を雇用し、毎年125,000人以上の患者をケアしており、全米で最大の軍隊向け地域医療機関です。43の医療専門分野で260人以上の医師のスタッフをサポートしています。
まずは現状と課題を受け入れる
「新任のCEOとして迎えた今、スミス博士と彼のチームが提示したデニソン組織文化診断の結果は、非常に参考になると同時に、正直なところ痛い経験でもありました」とウォルトン氏は言います。
それまでの2年間は、メトロプレックスにとって波乱万丈の時代でした。長年の競合であったスコット&ホワイト社と合併したのです。合併が決まる前に、そのことがメトロプレックス社内に漏れてしまい、病院スタッフと経営陣との信頼関係が大きく損なわれてしまいました。デニソン組織文化診断の結果は、医療スタッフと経営陣の間の溝を浮き彫りにし、経営陣の懸念を現実のものとして突き付けたのです。
ウォルトン氏は、デニソン組織文化診断の結果からリーダーシップチームは自分たちが病院のミッションに強くコミットしていると信じているが、他の病院の文化と比較して自分たちの文化を過大に評価していることを理解しました。
ウォルトン氏は次のように語ります。
「結果が望まないものであった場合、指標の妥当性を疑ったり、言い訳をしたりするのは簡単なことです。しかし、私たちはそれを乗り越え、私たちの組織文化や自分自身をどう見ているかを、チームに明確に伝えなければならないと考えました」
「結果に衝撃を受けた後、CPOE導入プロセスを組織変革の機会として活用する必要があることは、誰の目にも明らかでした。課題は、結果を明確に伝えることと、実行可能な計画を立てることでした」
デニソン組織文化診断の結果は、スミス博士らによって病院関係者と共有され、結果を信頼してもらうこととともに、診断の匿名性や秘匿性についても安心感を与えることもできました。
病院のメンバーは「自分たちの話に耳を傾けてもらえた・自分たちの話が伝わった」と確信しました。また、デニソン組織文化診断の結果を共有するために、従業員向けのニュースレターの特別版を作成しました。このニュースレターは、病院の全従業員に対して、調査の肯定的な結果だけでなく、変革の機会についても説明しています。
明確になった課題は具体的に対処する
新たなシステムとしてCPOEを導入する前に、スミス博士、ウォルトン氏とリーダーシップチームは、導入を成功させるための土台を築くべく、文化的な課題への取り組みを始めました。
まず、管理部門が「塔の中にいる」「近づきにくい」「信頼できない」という従業員の認識に対処するところから始めました。ウォルトン氏が率いるリーダーたちは、施設内で自分たちの存在を意識的にアピールしたのです。
その結果、リーダーたちは日常的に関わるようになりました。部署の会議に参加したり、意図的に会話をしたり、医療や病院のスタッフに気軽に声をかけたりするようになったのです。
下記の円グラフは、メトロプレックス・ヘルスシステムのリーダーシップチームと医療スタッフの組織文化に関する認識の間に激しい乖離があったことを示しています。
スミス博士のチームは、この結果をインタビューやその他の質的データとともに用いて、病院の各リーダーたちと本音で語り合います。その上で、CPOE導入を成功させるために、エンパワーメント、コミュニケーション、説明責任、信頼という点に焦点を当てることにしました。
ウォルトン氏は、毎月1回、ランダムに選ばれた25人の社員と昼食会を開くようになりました。この昼食会は「ウォルトン氏がある重要な質問を社員に直接訊ねる機会」として企画されました。具体的には「この会社に入ってよかったと思うことは何ですか?」という質問を投げかけます。
そして、そこでの回答を基に導き出した行動計画については、完了期限も含めて参加者に伝えました。意識的に、組織のオープンさ、説明責任、対応の速さを併せ持った組織文化づくりに着手したのです。
~ カーライル・ウォルトン、CEO
また、デニソン組織文化診断の結果、エンパワーメントのスコアが低いことも明らかになりました。さらに議論を重ねると、承認や権限の多くが管理職レベルに集中していることが明らかとなったのです。「デニソン組織文化診断の結果は、まさにこのことを私たちに訴えていました」とウォルトン氏は語ります。
本結果を受けて、承認プロセスを見直し、管理職の承認が必要なものは何か、最も適切な判断ができるレベルに戻すべきものは何かを特定しました。また、「能力開発」「組織の変革」「変革の創造」のスコアが低かったことから、専門家育成の必要性も明らかとなりました。
リーダーシップチームと医療スタッフは、スタッフ全員を対象とした専門能力の開発計画をより意図的に行う必要があることを理解しました。デニソン組織文化診断による「適応性」特性が低いという結果を受けて、病院はペイシェント・エクスペリエンス(患者体験)担当部署に焦点を当て、サービス向上の計画全体を再設計しました。
このようにそれぞれの分野に取り組むことで、来るべきCPOE導入のための土台を築くことができたのです。
組織文化診断は自社そのものを発展させる
本事例の立役者であるウォルトン氏は次のように語ります。
「私にとっては、卓越性を組織にもたらすことが重要です。患者さんやそのご家族は、常に優れたレベルのサービスを期待しています。新CEOとして就任した私は、デニソン組織文化診断によって、私たちの組織文化を評価できただけでなく、自分たちを向上させ、患者さんに優れたサービスを提供する妨げとなっていた問題を修正するための大きな機会を得ることができました」
このコメントからも分かるように、新システム導入のための環境づくりのために行った組織文化診断は、結果として組織そのものの発展を促したのです。
新システム導入を検討している場合や、本事例から自社にも当てはまる点があると感じた場合は、本事例でも用いられた「デニソン組織文化診断」の実施を推奨します。
「デニソン組織文化診断」は25年にわたって50か国以上・8,000社以上もの業績および組織パフォーマンスの向上を支援してきたデニソンコンサルティングが開発した診断ツールです。「回答は参加者ごとに15分〜30分程度で簡単に行える」上に「実践および実績に直結する調査結果を得られる」というメリットにより、組織文化診断の世界標準となっています。
また弊社インヴィニオは、デニソンコンサルティングの日本パートナーとして国内企業向けに「デニソン組織文化診断」を提供・実施しています。実績に裏づけられた組織文化診断を用いることで、把握や分析のレベルに留まらせるのではなく「実績向上」にコミットします。
「新システムを導入する予定だが、不安を感じている」「真に優先して取り組むべき課題を明確にしたい」といった場合は、以下から気軽にお問い合わせください。