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心の知能指数(EQ)とリーダーシップ能力:社員の良い面を引き出すには

目次
自分自身についての正直な自己評価をしてみましょう。これまで皆さんと一緒に仕事をしてきた社員たちは、皆さんから“自分自身の良い面を引き出してもらえた”と答えるでしょうか、それとも、悪い面ばかりを指摘されたと答えるでしょうか。
私自身のキャリアを振り返り、なぜ会社を辞めたのか、あるいは異動を希望したのかを考えてみると、上司との関係がうまくいっていないことが原因でした。
自分の良い面を引き出してくれた人物の名前を挙げるのには困らない人が多い一方、悪い面ばかりに目を向けた人物の名前を挙げることは、さらに簡単かもしれません。その上司が与えた印象が大きいからです。
アメリカの詩人、マヤ・アンジェロウは、「人々は皆さんが何を言ったかを忘れ、皆さんがいったい何であったかについても忘れるが、皆さんが人々にどう感じさせたかを決して忘れることはない」という言葉を残しました。
心の知能指数を用いて部下を率いる
家庭でも職場でも、私たちの感情はさまざまな関係性の中に織り込まれています。感情によって、私たちは目の前の課題やチャンスに対してどのように対処するかが決まります。感情によって、対立を解決するために協力し合うかどうかが決まり、他人を許すことができるかどうかが決まります。日々を過ごす中で、感情は私たちが発揮する努力の量や行動、心理的健康、そして心的状態に関与しています。
心理学者のダニエル・ゴールマンが提唱する「心の知能指数(emotional intelligence, EQ)」とは、こうした感情を知覚し、コントロールし、表現する能力であると定義されています。この能力を用いることで、私たちは思慮深く、共感的な対人関係を築くことができるのです。
心の知能指数を構成する4要素
- 自己認識:自分の感情や長所・短所を知り、それがパフォーマンスや人間関係に与える影響を認識する能力
- 自己管理:ポジティブな感情や強い欲求も、ネガティブな感情や強い欲求もコントロールし、状況に応じて柔軟に適応する能力
- 社会意識:他者への共感力、政治的対応力、積極的な人脈形成力
- 関係性の管理:説得的コミュニケーション、モチベーションの向上、絆の構築、個人間の対立の緩和などを通じて、人を動かす力
私の仕事への満足度に大きな影響を与えた上司たちは、心の知能指数が高く、リーダーシップの能力も高いものがありました。彼らは、コミュニケーション能力に長けており、親身になり、しっかり評価してくれたこともあり、私の能力を最大限に引き出してくれました。
なぜリーダーシップにおける心の知能指数が高いと従業員エンゲージメントが向上するのか
リーダーシップの能力を高めるには、社員と感情的に繋がる能力を備えることが不可欠です。リーダーの感情移入の仕方により、社員の生産性だけでなく、エンゲージメントにも影響を与えるからです。感情は、以下に挙げるような仕事の状況において、影響を及ぼします。
- 変化と不確実性
- 同僚との関係
- 確執と関係構築
- 努力と燃え尽き症候群
- 成就と失敗
研究者のJulie GebauerとDon Lowmanの著書『Closing the Engagement Gap』によると、強い愛着心を有する労働者の数は、世界の労働人口のわずか5分の1しかいないと考えられています。これは企業が昨今のパンデミックのような課題の多い時期を乗り切る場合に問題となります。経営者は社員の助けなしで、組織が危機を力強く乗り越え、未来に向けて準備することができないと考えているからです。
従業員が献身的に働いていれば、生産性が向上し、組織のパフォーマンスにプラスの影響を与えます。
当社が実施した調査では、職場における共感性(心の知能指数と相関する要素)が、仕事のパフォーマンスだけでなく、自分自身や他者の感情とも有意の関係があることがわかりました。直属の部下に対してより強い共感を示すマネージャーは、マネージャーの上司から仕事のパフォーマンスが高いとみられます。逆に、愛着心のない社員は、組織にとってのお荷物になる可能性があります。心の知能指数が高いリーダーを目指し、社員に対して今より親身になり、職場のエンゲージメントを高めるためには、以下の4つの資質を獲得する努力が必要となります。
- 他者の視点で世界を見る努力をする
- 中立的な判断をする
- 相手の気持ちを理解することに務める
- 相手に気持ちを理解していることを伝える
ヒューマンスキルに欠けていた過去の上司について考えてみると、日々ストレスや不満があり、本来なら熱中できるはずの仕事にも身が入らなかった時期と重なることがわかりました。その頃、私の生産性は低いものでした。自分の業務で革新性や創造性を発揮するのではなく、8時間だけ働き、上司との交流を避け、できるだけ早く仕事を完了させて給料をもらうことだけを考えていました。
あらゆる感情には意味がある
自分自身の行動や他人の行動がポジティブな感情またはネガティブな感情を駆り立てるものであるかに関わらず、どちらも異なる形で影響を及ぼすものであるのだと理解することが重要です。新しい習慣を適用し、心の知能指数を強化する前に、現在の感情を評価し、どのような結果を望むのか考えてください。
ポジティブな感情が拡大/強化させること
- レジリエンス(回復力)
- 思考の改善
- ネガティブな感情の除去
- 新しいスキルの構築
- 心理的資本の創造
ネガティブな感情が狭める/弱体化させること
- 潜在的な脅威の察知
- 問題発生時の注意喚起
- 学習のメカニズム
ネガティブな感情は、「ホットボタン」が押されたときに生まれることがよくあります。ホットボタンとは、論争を始める、および相手を傷つける反応を生み出すのに十分な苛立ちの要因を与える人や状況を指します。そのボタンが「ホット」なほど、強く否定的な感情、個人を挑発したくなる感情、無意識かつ衝動的な反応、そして緊張の高まりを経験する可能性が高くなります。
リーダーはどのように心の知能指数を示すことができるか
組織内のあらゆるレベルのリーダーは、心の知能指数が高いと恩恵を受けることができます。以下の行動をすることで、心の知能指数を高め、リーダーシップの能力を高めることができます。
1.個人レベルで社員と繋がりを持つ
社員をサポートし、彼らの努力を認めようとする姿勢を示す場合、社員を個人として大切に思っていること、そして心の知能指数の高いリーダーであることを示すことになります。このような気遣いのある行為をすることで、リーダーと社員の間に信頼関係が築かれます。
長い間、共感力は業績評価指標として見過ごされてきたソフトスキルでした。しかし、CCLの調査によると、今日成功している心の知能指数の高いリーダーは、個人への焦点をよりしっかり当て、チーム、部署、国、文化、背景の異なる人々とうまく働くことが必要であることを理解しています。(リーダーが職場で共感を示すための4つの方法についてはこちらをご覧ください)。
2.やる気を引き出す
報酬やその他手当を付与することは重要ですが、社員の生産性とエンゲージメントを維持するためには、それだけでは足りません。これらを給付することは、より大きなモチベーションを生むための方程式の一部なのです。多くの場合、社員のやる気が何かを理解することとは、社員に質問をし、彼らの答えに耳を傾けることと同じくらい簡単なことです。社員のモチベーションを理解すれば、定着率を高め、仕事の満足度に影響を与え、不確実な状況を克服する手助けをすることができます。(社員のモチベーションを高める3つの方法についてこちらをご覧ください)
3.理解に努める
社員の社会的アイデンティティや、どのような経験を通じて視野が形成されたかなど、社員のこれまでを理解することは、批判的にならずに他者の視点で世界を見ようとする意欲の表れです。社員の多様な経験を活用し、新たなタレント・エコノミーで成功したいと願う、心の知能指数の高いリーダーは、社員のさまざまな生活体験を理解し、考慮することで、チームが潜在能力を最大限に発揮できるよう支援する必要があるのです。
たとえ高い心の知能指数と、高いリーダーシップ能力を備えていたとしても、すべての社員の心中を理解することは容易ではありません。他者の視点で世界を見ること、そして様々な視点を偏見なく受け入れることは難しいのです。
これらのスキルを向上させるためには、自己認識を高め、強力かつ積極的な傾聴のスキルを身につけ、自分自身の感情のトリガーとなるものや弱点を学び、認識しようとする意欲が必要です。リーダーの能力は、リーダーが自分自身をどれだけ理解しているか、他人が自分をどう見ているかを認識しているか、そしてその結果生じる相互作用をどのようにナビゲートするかによって、制約され、また増幅されます。