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共感しあえるインクルーシブな組織文化を育むには

目次
職場で共感力を強化しながらも、共感力強化が持つ負の側面に陥ることを避けるために
ビジネスにおいても日常生活においても、共感がもたらすインパクトは絶大です。共感とは、他人の思考、感情、経験を認識し、それらを理解し、自らのことと重ね合わせることができる能力です。職場における共感は、仕事の成果にプラスの影響を与えます。リーダーが共感力を発揮する組織では、イノベーションが促され、新しいビジネス戦略が生まれ、変化に対応し、顧客と社員の両方により良いサービスを提供するインクルーシブな職場を構築することができるようになるのです。
職場で共感力を育む3つの方法
共感とインクルージョンは関係が深いものです。共感はまた、同僚たちを人間的なレベルで結びつけることで、職場におけるインクルージョンを促進します。実際の水のように、共感が共感のプールに溜まることで、心理的安全性と帰属意識に満ちた職場となります。しかし、従業員エンゲージメントや顧客満足、および組織の健全性の指標に害を及ぼし、悪化させる負の部分により、共感力が一気になくなると、共感のプールが干上がる可能性もあります。ここでは、職場で共感力を高め、共感力の負の部分に潜む隠れた危険を避けるために、組織が取るべき行動を紹介します。
1.共感的傾聴を心がける
共感的傾聴とは、理解しながら耳を傾けるだけではなく、それ以上のものを必要とすることです。理解しながら耳を傾けるとは、話し言葉のニュアンスに注意を払うことです。共感的傾聴を心がけるには、他者との関わりとの中で感じた意義や感覚を、共感資本を構築する行動に移すことが必要です。
行間を読む(聞き取る)とは、言葉にされていない内容を理解するという意味として一般的に言われます。一方で、他人が話した、あるいは話していない経験を深く理解するという意味もあります。努力して理解しようとすると、異常な力が発揮され、年齢、性別、人種の壁を越えたコミュニケーションが可能になります。言語を超えて、より深い思考、感情、経験に耳を傾けることは、共感を呼び起こし、包容力が築かれ、洞察と社会的感受性を用いて文化の違いを超えた傾聴力を学ぶための鍵となります。
一例を出しましょう。あるチームメンバーが、現在の役割や責任を降りたいと言い出しました。共感力のあるマネージャーは、そのチームメンバー独自の視点や経験の裏にある意味や感情に耳を傾けることに集中することでしょう。これにより、真に率直な対話ができる環境が整います。このような対話をした社員は、リーダーからの助言に対して、次のように感じることでしょう。
「わたしのマネージャーは素晴らしいです。本音で語り合うことができました。」
「上司と面談するのは怖かったけど、思いやりをもって話を聞いてくれたことに驚きました。」
「チームリーダーは私のことを理解してくれている。こんなに素晴らしいマネージャーは初めてです。」
「私が理解できるように話してください」と言うことなく、また共感的傾聴力もなければ、このマネージャーは、部下が家庭上の緊急事態に直面していることに気づかなかったかもしれません。相手に焦点を当て、相手を気遣う対話をすることで、このマネージャーは相手が置かれた状況が私生活や仕事にどのような影響及ぼすかを感じ取ることができるのです。共感的傾聴により、マネージャーはチームメンバー個人とチーム全体をサポートできる選択肢を複数見出すことができるようになります。
共感的傾聴のベストプラクティスは他にもあります。
- 自らの理解のために耳を傾け、「なぜ」に注目する
- 忍耐強く耳を傾け、相手を急かせない
- 好奇心を抱き、一般的な考え、主張、哲学に疑問を抱く
- 心を開き、真実に耳を傾ける
- 意見が違っていても耳を傾ける
- 相手の立場に立って耳を傾ける
- 関心があることを示し、わからないことがあれば質問をする
リーダーが積極的な傾聴スキルを身につければ、社員がより安心して厄介な問題に対処できる環境が生まれます。さらに、共感して耳を傾けることがさらにやりやすくなり、尊敬と包容力に満ちた職場環境を築くことができるのです。
2.自分らしさ(オーセンティシティー)を発揮する
自分らしさを持つとは、自分が誰で、何を考え、どのような信念を持っているのかについて、真摯かつ率直であることを指します。オーセンティシティーは、インクルーシブな企業文化の基礎となる信頼関係を築き上げます。オーセンティック・リーダーシップを目の当たりにした社員は、自らもオーセンティシティーを発揮して働こうというモチベーションが生まれます。協力関係、信頼関係、効果的なコミュニケーションを通じて、チームがオーセンティシティーを持って行動するようになります。このシナリオの背景にあるのは共感力です。プールのように、共感力は真の関係性を維持する水です。オーセンティシティーを高めると、共感プールが拡大します。ここでは、リーダーがオーセンティシティーを活性化する方法を紹介します。
- 職場でも家庭でも、自分らしさを表現する
- 直属の部下に、彼らの個性と才能を心から評価していることを伝える
- 社員が審判や返報されることを恐れず、自分のニーズを正確に伝えることができる開かれた空間を作る
- 新しいアイデアを歓迎し、誠意に満ちた生産的な対話を奨励する
- 自分の失敗を認め、弱さを示すことで、失敗も学習の一部であることを示す
- 自分の好き嫌い、趣味、関心事を率直かつ適切に共有する
- 自分の言葉、信念、考えを一致させる
リーダーが自分らしく行動することで、社員が安心して厄介な問題に取り組める環境が生まれます。その結果、社員が共感に根ざした職場環境が築かれやすくなります。
3.社会的感受性を鍛える
社会的感受性とは、相手が出す合図や話の文脈を識別して理解し、尊重する能力です。これには、異なる経験(例:宗教、性別、階級)による視点や社会規範を尊重することも含まれます。これらの経験は、社員の生活の一側面であり、アイデンティティーの核となるものです。社会的感受性を示す行動があれば、組織全体がインクルージョンの文化的文脈の中で繋がりを持ち、関係しあうことができます。社会的感受性を示す行動もまた共感力と関係があります。これらの行動は、新しいアイデアを引き出し、仕事を批判的に評価し、責任を分かち合うポジティブな環境を生み出す傾向があります。
リーダーは、以下のようにして共感力と社会的感受性を高めることができます。
- 様々な人々と一緒に時間を過ごし、彼らのライフスタイル、信念、世界観を知る
- 人々がどのように会話しているのか、どのようにチームが協力し合うかに関心を持つ
- ボディランゲージや声のトーンなど、相手が自分に反応する際に示す非言語的合図に注意を払う
- 社会的アイデンティティや社会規範を尊重する方法についての講習を受ける
- 新たな言語を学ぶ
- 特定の問題について、自分が同意できない人から意見を求めることを学ぶ
- 新しい人を会議に招くなど、インクルージョンに焦点を当てた行動をとる
リーダーが社会的感受性と共感力を持って行動すれば、社員が安心して厄介な問題に対処できる環境が生まれます。その結果、社員も共感に根ざした職場環境を築きやすくなります。
共感が生む負の部分
共感力を含め、新しいスキルを身につけるには、時間と労力を要します。リーダーは、共感力をより高めるためのトレーニングができる、安心できる空間を用意する必要がありますが、他のベストプラクティスと組み合わせないと、共感力が過度に活用される、あるいは効果的に活用されない可能性があることを理解することも必要です。共感力が効果的に活用されないことで生じる負の部分を避けるよう促してください。
行き過ぎた偏見としての共感
人は自らと同じような人物には共感しやすく、自らと異なる人物には偏見を持つという研究結果があります。その結果、マネジャーは公平性をもって指揮をとらず、自分と同じような直属の部下に対しては無意識に共感し、より良い任務を任せる、昇進させやすくする、より高額なボーナスを与えてしまうことがあります。
行き過ぎた偏見に対処するには、次のことを考慮してください。
- 自分とは違う人の視点に立つ
- 特別扱いに対して責任を負うような組織的な仕組みを導入する
- しっかりした意思決定をするための情報を求める
共感疲れ
他人の苦しみや悩みに共感することで、疲弊することやトラウマになることさえあります。例えば、ERの医師や看護師は、暴力や交通事故などの恐ろしい事故の被害者を毎日治療しています。最近の研究によると、過剰な共感、あるいは見当違いの共感は、最終的に疲労や無気力につながり、必要な人を助けることができなくなると言われています。
共感疲れに対処するには、次のことを考慮してください。
- 疲れていることを認識する
- 自分のケアを行う – 睡眠、レクリエーション、家族や友人との繋がりなど
- 他者から共感を得る
一過性の共感
共感により、私たちは共感対象に夢中なることがありますが、過度な共感ゆえ、その対象への関心が維持されないことがあります。思いやりを生む強力なエネルギーが、意義ある行動が取られる前に消え去ることがあるのです。この現象の一例は、ソーシャルメディアで見られます。ヨーロッパの海岸に打ち上げられた難民の子供の写真が最初に登場したとき、何百万人ものFacebookユーザーが刺激され、1日で何百万ドルもの寄付が集まりました。しかし、その後の数日間で、人々の関心は別のものに奪われ、難民危機への関心は忘れ去られました。
成長することを考えていないリーダーが共感を示しても、衝動的な行動に特徴づけられる自己統制力の欠如を招き、間欠的に信頼関係を破壊し、結果としてインクルーシブな組織構造を崩壊させることになります。
一過性の共感に対処するには、以下のことを試してみてください。
- 一度に複数の対象に共感の焦点を当てない
- なぜその共感対象が重要なのかをよく考える
- 自らの共感がインクルーシブな職場環境の構築にどれだけ貢献しているかを考える
共感力は、社員が大切にされ、歓迎されていると感じられるインクルーシブな文化を育むために極めて重要です。共感型リーダーシップを実践することが道徳的要請であることに加え、Center for Creative Leadershipの研究によると、職場における共感は仕事の成果に良い影響があることが示されています。共感力を高めることで、リーダーはインクルーシブな職場環境を作り出し、生産性やイノベーション、従業員エンゲージメント、顧客満足などの業績指標を向上させることができます。共感を持続可能なものにするためには、リーダーは小さくても意味のある方法で一貫性のある行動をし、それを社員に促す必要があります。