リーダーの落とし穴:キャリアのディレイルメントを避けるために
LEADERSHIP INSIGHT / CCL | 2022/02/21
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どんなに優れた実績を持つリーダーであっても、ある日突然、キャリアを台無しにしてしまうということを見たことは無いでしょうか?企業を成長させたり、業績を急回復させたりして高い名声を誇っていたにも関わらず、突如として組織を追い出されるようなことになったリーダーを見る事もあります。
高い業績を挙げているリーダーの中には、しばらくの間、自分の欠点に目を向けずに、ビジネスの目標を達成し続けている人が意外と多く存在します。また、自分自身の特定の強みを最大限に活用していても、仕事の環境が変わると、その仕事に必要なリーダーシップ能力が不足していることに気づく人もいます。
かつて有望だったマネージャーのキャリアが頓挫する要因はいくつかありますが、結局のところ原因は同じです。彼らの「マイナス」面が「プラス」面を上回り始め、組織が以前のように彼らを有望な人材として見なくなるからです。そしてある時突然、彼らは自分のキャリアが軌道に乗っていないことに気づくのです。
これは一体どのような状況なのでしょうか?彼らが経験しているのはキャリアからのディレイルメント(脱線)と呼ばれる状況なのです。
キャリアから脱線することは、周りの人が予測できることが多いのですが、当事者の多くはディレイルメントの原因となった問題に気づいておらず(あるいは対処しようとせず)、衝撃を受けることがあります。
ディレイルメントとは何か?
CCLは1983年以来、キャリアからのディレイルメントについて徹底的に研究してきました。キャリアが順調に推移している、成功しているリーダーと、ディレイルメントしているリーダーを比較することで、キャリアを停滞させる可能性の高い5つの問題を明らかにしました。
しかし、ディレイルメントのよくある原因を回避する方法を説明する前に重要なことは、「ディレイルメントとは何か」を明確にし、「ディレイルメントに陥ってしまう」リーダーと「成功する」リーダーの意味を定義することです。
CCLの調査では、成功しているリーダーとは、少なくとも部長クラスに達し、組織のシニアリーダーから見て、昇進の可能性が残っている人と定義しています。
CCLでは、ディレイルメントに陥るリーダーとは、部長クラスになった後、解雇されたり、降格されたり、キャリアの停滞に陥ったりする人たちと定義しています。ディレイルメントの以前には、出世の可能性が高く、素晴らしい実績を持ち、確固たるリーダーシップを発揮していると上司から見られていました。
しかし、その後歯車が狂ってしまい、それまでの有望なキャリアからディレイルしてしまった人を指します。
キャリアからの脱線:ディレイルメントに陥る人の5つの共通点
ディレイルメントとは何か、そしてディレイルメントの最も一般的な原因を組織のリーダーが理解していれば、有望な人材のディレイルメントを防ぐことが予測可能になり、予防することも可能になります。
CCLの著書『Compass:リーダーシップ開発とコーチングのためのガイド』に記載されているように、5つの分野のうちどれか1つでも欠けていると、リーダーの昇進が危ぶまれるだけでなく、キャリアが途絶えてしまう可能性があります。
調査によると、ディレイルメントの原因のトップ5は以下の通りです。
- 変化に適応するのが困難である(ディレイルメントの原因として最も多い)。
- チームを作り、リードすることが困難である
- ビジネスの成果を出せない
- 広い意味での戦略性に欠けている
- 対人関係の問題を抱えている
ディレイルメントを防ぎ、有望なキャリアを軌道に乗せる方法
1.変化に対応する
今日、どんなビジネスにおいても継続的な変化は避けられないため、組織は、変化に確実に適応し、変化を受け入れることのできる、適応力のある柔軟なリーダーを高く評価しています。
変化に抵抗する人は、自分のやり方に固執し、市場全体の動向に気づいていない傾向があります。変化に抵抗するリーダーが第一線から外れたり、組織を去ってしまえば、組織の他のメンバーが変化に積極的に対応しやすくなります。
だからこそ、成功するリーダーは、組織の変化に柔軟に対応し、自らの成長と向上に責任を持つことができるのです。他の人と同じようにミスもしますが、ミスから学ぶ能力があるかどうかで、成功するリーダーとディレイルメントに陥るリーダーの違いが生まれます。
ディレイルメントに陥るリーダーの多くは、適応できない(あるいは適応したくない)ことがその原因となっています。過去の成功体験から、変化する必要はないと考えるため、変化することが失敗につながるのではないかと恐れ、変化することを躊躇してしまうのです。しかし、適応力を高めることは、キャリアを軌道に乗せるためには不可欠です。リーダーが変化に抵抗することは、自分だけでなく、直属の部下にも影響を与え、彼らの出世を妨げる可能性があります。
■キャリアを軌道に乗せ、ディレイルメントを防ぐためには
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- 将来の成功のために必要な変化に適応し、そこから学び、その変化を受け入れましょう。
- コントロールできるリスクをより多く取る、慣れない状況や役割に入る、失敗から立ち直る努力をする、困難から教訓を引き出すなどして、変化を受け入れ、適応する能力を高めましょう。
- 変化、不確実性、挫折に直面しても、楽観的で回復力のある姿勢を保ちましょう。
- 変化をうまく乗り越える方法を身につけて、より適応力を高めましょう。
2.より良いチームを作る
チームワークの管理は複雑なものです。効果的なチームリーダーは、共通の目標を追求するために、グループのメンバーを選び、育て、関与させ、モチベーションを持たせなければなりませんが、これは簡単なことではありません。チームリーダーは、自分自身の結果だけでなく、他の人の結果にも責任があります。
チーム作りが苦手なリーダーは、約束した結果を出すことができません。チームのメンバーは過小評価されていると感じ、機能不全に陥り、最終的にはチームから離脱してしまうかもしれません。さらに、このようなリーダーは、人を管理するのが下手だという評価を受け、より上位のチームを率いることができなくなってしまいます。
■キャリアを軌道に乗せ、ディレイルメントを防ぐためには
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- 協力的なチームを構築し、リードする能力を育みましょう。また、ワークグループをリードしたり、チームワークを必要とする大規模プロジェクトを管理する機会を提供するのも良いでしょう。
- 意識的に人材育成に取り組みましょう。組織のために優秀な人材を発掘し、維持しましょう。賢いマネージャーは、特に直属の部下の人材育成に力を入れているものです。
3.結果を出す
結果を出すリーダーは、組織の業績向上に欠かせません。重要な目標を断固として達成する能力は、他の人が自分のパフォーマンスをどう見るか、そして組織の業績をどう捉えるかに大きく影響します。しかし、リーダーが約束を守らなかったり、過度に野心的であったりするために、パフォーマンスの期待に応えることができないと、最善の努力も水の泡となってしまいます。
結果を出せないために信頼関係が崩れてしまうことがあります。約束したことを実現できずにディレイルメントするタイプのリーダーは、気づかないうちに現在の能力に不相応なことをしようとしているかもしれません。人当たりが良く、上司や同僚、直属の部下から慕われている人でも、ビジネス目標に向けて結果を出せなければ、キャリアの階段を踏み外してしまう恐れがあるのです。
■キャリアを軌道に乗せ、ディレイルメントを防ぐためには
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- 容易に結果にたどり着こうとするのではなく、結果を導き出せるようにしましょう。他のグループや他の人の間でより多くの行動を調整するとともに、将来のビジョンを伝える能力、チームメンバーのエンゲージメントを高める能力、組織に有益な変化をもたらす能力を高めましょう。
- 過剰な約束をして、十分な成果を上げていないと思われないように、うまく目標を管理できるようにしましょう。
4.戦略的志向を養う
戦略的志向を持つこととは、別の言い方をすると「流れを読む」ことです。つまり、日々、どのような期待と要求がリーダーにかけられているのかを理解し、その仕事やチームを取り巻く戦略的な背景を理解することを意味します。自分のキャリアを軌道に乗せることができる人は、自分の部署のニーズを超えて、全体像を理解することができるため、組織全体の現実とその構成要素がどのように機能しているかを認識し、受け入れることができます。
もしリーダーが、組織内の役割の曖昧さや政治、ジレンマ、トレードオフなどを理解したり消化したりするのに苦労しているのであれば、特にリソースを奪い合ったり、厳しいタイムラインで仕事を完了しなくてはならないときに、目標を達成するのが非常に困難になるでしょう。そのようなリーダーは、もし他に組織の仕組みや文化に精通している人がいたら、リソースの奪い合いで出し抜かれてしまうかもしれません。リーダーが組織内で上位になればなるほど、インフォーマルな組織(組織図を超えた複雑な相関図)に対応する能力は、フォーマルな方針、慣行、規則に従うことと同じくらい重要になります。
■キャリアを軌道に乗せ、ディレイルメントを防ぐためには
5.対人関係のスキルを磨く
知性、考察力、洞察力があれば、リーダーはかなり上まで行くことができるはずです。しかし、生産的な人間関係を構築し、維持できる感覚がなければ、有望なキャリアは軌道を外れてしまうかもしれません。
対人関係に問題があることは、CCLが「キャリアからのディレイルメント」と定義する最も一般的なリーダーの特徴です。人とうまくうやっていく能力があるかどうかで、成功するマネージャーとそうでないマネージャーの明暗が分かれるのです。
ディレイルメントするタイプの人は、他の人を巻き込むことができない(あるいは巻き込みたくない)ことから、チームプレイが下手だと思われることがよくあります。キャリアを軌道に乗せるためには、リーダーは自分の強みを活かしつつ、自分の弱みは同僚のスキルや経験に補ってもらう形でバランスをとる必要があります。それこそ、優れた経営者やリーダーが育むべき協調的な善意の職場なのです。信頼と相互理解に基づいた強力な対人関係が築けないと、その善意が脅かされることになります。
リーダーが対人関係に悩んでいると、小さな誤解が大きな衝突へと発展してしまうことがあります。対人関係の悪化は、不信感の温床となり、リーダーへの信頼が損なわれる原因となります。このような問題が続くと、組織はそのようなリーダーを第一線から外すか、最悪の場合は完全に解雇してしまうかもしれません。
キャリアを軌道に乗せるために対人関係のスキルを磨く必要があるかどうかは、どうすればわかるのでしょうか?CCLの調査では、強力な対人関係を築けないリーダーは、上司、同僚、直属の部下から次のように思われていることがわかりました。
- 鈍感である
- 過剰に競争心を持っている
- 孤立している
- 上からものを言う
- 過剰に批判的である
- 過剰に要求する
- 怒りっぽい
- 傲慢である
- 感情的である
- 人を操ろうとする
- よそよそしい
もし、皆さんの同僚がリーダーをこのように捉えているとしたら、彼らがすぐに行動を起こしてキャリアを軌道に乗せられるように、手を差し伸べてあげてください。
■キャリアを軌道に乗せ、ディレイルメントを防ぐためには
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- 現在の人間関係を強化し、新しい人間関係を構築する能力を養いましょう。部門を越えて協力したり、異なるグループと一緒に仕事をする機会を設け、他者を尊重する風土を育てましょう。
- 人の話を聞くだけではなく、積極的に理解しようとする姿勢や、話をじっくり聞いてから返事をするスキルを身につけましょう。
- 対人関係を円滑にするためのその他のヒントも確認してください。
最後に、キャリアを軌道に乗せるためには、リーダーは健全な自己認識を持つ必要があります。そのためには、皆さんのチームが自分の行動を正直に評価できるようにしましょう。そして、自分自身も見つめ直してください。ご紹介したポイントのいずれかに弱点があることに気づいたら、軌道修正できるように今すぐ行動を起こして、プロフェッショナルな自己開発に取り組みましょう。
そうすれば、チームのディレイルメントを防ぎ、自分のキャリアを軌道に乗せることができるはずです。