Leadership Insight

バランスの取れたリーダーシップ:サーバントリーダーシップとは?

LEADERSHIP INSIGHT / CCL | 2022/02/04

皆さんはこれまでのキャリアで「サーバント・リーダーシップ」という言葉を聞いたことはありますか?サーバントとは『他者に奉仕すること』を意味しますが、『サーバント・リーダーシップ・モデル』は、リーダーが部下の先に立ったり、上に立つのではなく、むしろリーダーが部下を積極的に支援することを優先し、その結果、組織のパフォーマンスと利益を向上させることができるということで、長い間、評価されてきました。一方で、このモデルには批判的な意見もあります。それは、サーバント・リーダーシップが、他者のために自己を犠牲にすることを提唱する形で解釈され、そのように実践される可能性があるというものです。私たちはサーバント・リーダーシップのメリットを最大限に活かし、持続可能な方法でそれを実現するためにはどうすればよいのでしょうか?リーダーは、自分の率いるチームにより効果的に奉仕するために、まず自分自身を大切にすることが不可欠なのです。

サーバント・リーダーシップとは?

サーバント・リーダーシップ理論は、1970年にロバート・グリーンリーフ氏が発表した「リーダーとしてのサーバント(奉仕者)」で初めて広まり、それ以来、従業員のエンゲージメントを高め、生産性を向上させるためのベスト・プラクティスとしてよく引用されてきました。このモデルにはいくつかの要素がありますが、よく言われる表現が「リーダーシップのピラミッドを反転させる」というものです。グリーンリーフ氏は、「サーバント・リーダーは、権限を共有し、他者のニーズを最優先し、人々の成長とパフォーマンス向上を支援する」と述べています。

サーバント・リーダーシップ・モデルには、4つの主要な考え方があります。

  1. 権限を共有する
  2. 自分よりも他者のニーズを優先する
  3. 他者の成長とパフォーマンス向上を支援する
  4. より高い目標に向けて協力する

このフレームワークは、私たちが効果的なリーダーシップのモデルとしているDAC(Direction: 方向性、Alignment: 整合性、Commitment:コミットメント)を実現する上で、多くのメリットがあります。より大きな利益のために協働するということは、全員が共通の共有された方向性を達成するために働くことを意味し、その方向性は組織やコミュニティ全体を導くものと見なされます。リーダーは、社員の声に耳を傾け、社員の役割、責任、目標を理解することで、自分のチーム内だけでなく、組織全体の連携を高めることができます。また、権限を共有することで、リーダーは、目標へのコミットメントを高め、より相互依存的な文化を生み出すことができます。

サーバント・リーダーシップに潜む落とし穴

一方で、サーバント・リーダーシップで気を付けなければならないのは、奉仕のバランスが崩れ、リーダーが自分を後回しにして他人を優先した場合、リーダーもチームもうまくいかなくなる可能性があるという点です。このモデルが破綻するのは、多くの場合、リーダーが従業員を大切にし、組織やコミュニティに貢献したいという崇高な意図を持っているときです。しかし、それを達成するためには、自分自身を知り、大切にしなければならないことを忘れてしまうのです。

The Leadership Quarterlyに掲載されたサーバント・リーダーシップに関する研究の考察によると、このようなバランスの崩壊は以下のような形で現れます。

  • リーダーが部下に共感しすぎて、自分自身を見失ってしまう
  • リーダーが仕事の人間関係を気にしすぎることで、タスクの完成度や生産性が低下する
  • 部下がリーダーに過度に依存し、自分で判断して行動できなくなる

世界中のクライアントとの仕事の中で、私達は、リーダーが他者のニーズを最優先することに傾倒しすぎて、自分自身を犠牲にしてしまうことが多いことに気づきました。自分の成長や幸福感が損なわれると、サーバント・リーダーシップ・スタイルの効果が薄れてしまうのです。リーダー自身の基本的なニーズが満たされていないと、チームメンバーをサポートすることが難しくなります。

サーバント・リーダーシップを再び機能させるための3つのステップ

「自分」から始める

一見矛盾しているように見えますが、サーバント・リーダーシップを成功させる鍵は、実は「自分」から始めることなのです。

そのため、私たちはプログラム参加者に、積極的なサーバント・リーダーシップには、モデルの当初の目標を達成するために不可欠な3つの要素、すなわち、自分自身について振り返ること、自己認識、セルフケアの重要性を理解してもらうようにしています。自分自身からスタートすることで、完全に実現されたサーバント・リーダーとして、同僚、チーム、そして組織によりよく貢献することができます。

1.自分自身について振り返る:自分の価値観を吟味する

サーバント・リーダーは、チームがその価値観を確認・共有し、経験から教訓を得て、ニーズを明らかにし、目標を設定するのを助ける役割を果たすものです。リーダーである皆さんは自分自身にも同じことをしていますか?サーバント・リーダーは、チームの成長を支援する一方で、自分自身の成長を培うために、自分自身を振り返る時間を作ることも忘れてはなりません。それは、リーダーとしての皆さんを助けるだけでなく、チームの模範ともなるでしょう。

最初のステップは、自分の内面を見つめ、自分自身の価値観や経験を検証することです。360度アセスメントの結果は、自分自身をより深く理解するための有効なツールとなりますが、まずは日誌を手に取り、以下を自問自答することから始めるのもよいでしょう。

  • 今の自分を創っている欠かせない経験として、心に残っているものはありますか?
  • その経験によって、他者や仕事に対する自分の考え方はどのように形成されましたか?
  • その経験から、どのような価値観を学び、育みましたか?
  • 最も誇りに思っているスキルは何ですか?習得したい、または向上したいと思うスキルは何ですか?
  • そのスキルは自分の価値観をどのように反映していますか?

今の自分がどのようにしてリーダーになったのか、その真髄に迫るには、自分の行動の根底にある価値観を理解することが大切です。組織心理学者のアダム・グラント氏は、「自分がなぜそうなのかを問うのはやめましょう。それでは答えに辿り着きません。その代わり、どのような状況で自分の長所と短所が出てくるのか、そして改善するために何ができるのかを問うべきです」と述べています。経験やスキルに焦点を当てることで、スパイラルに陥ることなく、貴重な見解を得ることができます。

自分の価値観を検証することは、それが多様な経験を持つ人々によって形成されたものであるかどうかを自問する機会にもなります。人生の重要な局面で、自分が望んでいるようなインクルーシブな経験をしていないことに気づいたら、ネットワークを広げる方法を探してみましょう。手っ取り早いのは、LinkedInで自分の連絡先を見なおしてみることです。そこには共に働いている同僚や顧客のように多様なネットワークが存在していますか?もしそうでなければ、意識的に、より多様なネットワークと繋がったり、関わったりしてネットワークをより広げましょう。これは、DEI(ダイバーシティ、公平性、インクルージョン)に向けた行動を始めるための小さな一歩です。

2.自己認識(Self-Awareness):自分の影響力を知る

サーバント・リーダーシップを発揮するためには、高いレベルの自己認識が必要です。自分自身の価値観を十分に理解し、それがどのように自分の行動を形成しているかを振り返らなければ、他者のニーズを優先することはできません。

当社の調査によると、自己認識は、効果的なリーダーシップを発揮するために必要な4つのコア・リーダーシップ・スキルの1つです。変化が絶えず、解決策が複雑な今日の環境では、自己認識力を養うことがますます重要になってきています。

自己認識を深めるための最良の方法の一つは、フィードバックを募り、自分が他者にどのような影響を与えているかを知ることです。同僚やチームメイト、家族からフィードバックを得ることで、自分の行動や意図する事が一致しているかどうかを確認し、潜在的な盲点を見つけ出すことができます。

フィードバックを求め、それに応えるために重要なのは、好奇心を持ち続けることです。自分の行動が他者にどのような影響を与えるのかを知りたいという純粋な好奇心を持てば、閉鎖的で防御的な気持ちから、開放的で知識を求めようとする気持ちになるでしょう。さらに、好奇心を持つことで自己認識が深まり、自分の成長を手助けしてくれる人が現れるものです。

フィードバックによって自己認識を高めれば、リーダーが完全な依存関係や権力の不均衡ではなく、ギブ・アンド・テイクの環境を作り出すことができ、より効果的なサーバント・リーダーシップ・モデルの構築につながります。好奇心を持って行動すれば、自分のリーダーシップが相手にどのような影響を与えるかを、人間関係と仕事の両面から理解できるようになるでしょう。

3.セルフケア:レジリエンスを高めよう

レジリエンス(逆境を跳ね返す力、回復力)は、私たちが仕事を成し遂げる上で常に重要な要素です。パンデミック前である2019年以前は、「ワークライフバランス」の実現に焦点が当てられていました。しかし、パンデミックによるストレスが発生し、仕事と生活の境界線が曖昧になってきたことで、レジリエンスをめぐる会話は、願望の域を超えて、仕事上不可欠なものへと変化しました。

多くの人や組織にとって、セルフケアやレジリエンスが最重要課題であることは間違いありません。しかし、レジリエンスを実際に実践することは、多くの人にとっては難しいものです。さらに、サーバント・リーダーシップ・モデルでは、リーダーが自己のケアではなく他者へのケアに傾倒しすぎることがあり、そのバランスは取りにくいものですが極めて重要です。

CCLによるレジリエンスに関する研究では、燃え尽き症候群に陥るのを回避し、皆さんが明るく仕事をするための支援に焦点を当てています。ここでは、皆さんがレジリエンスを実践するためのヒントをいくつかご紹介します。

  • 「すきま時間」を最大限活用する – エネルギーをチャージするための休憩や休息は、まとまった時間である必要はありません。例えば、深呼吸をしたり、外を散歩したり、好きな曲で踊ったり、好きな人に電話をしたりなど、活動の合間の数分、いわゆる「すきま時間」を活用して、楽しく元気が出ることをしましょう。
  • 充電する – 皆さんは1日に何回、携帯電話のバッテリー残量を確認しますか?同じように、自分の体調を何回チェックしていますか?携帯電話を手に取るたびに、自分の体調もチェックして、必要なものを補給するようにしましょう。
  • クリエイティブになる – 自分が元気になるようなことをして、脳のまったく違う部分を動かしてみましょう。大人用の塗り絵や歌、キャンバスに絵を描くことなど、脳に新しい楽しみを与えることで、創造性を発揮し、ストレスを軽減しましょう。
  • 喜びの瞬間をセイバリングする – 「セイバリング」とは、ポジティブな気分、経験、感情を意図的に高め、持続させることと定義され、幸福感や生活満足度の向上、うつ病の減少につながることとされています。皆さんは何をセイバリングしますか?読書、映画、ハイキング、友人を訪ねることなどはどうでしょうか。ふと立ち止まって、喜びの瞬間を味わうことを忘れないでください。

レジリエンス・リーダーシップを高める方法については、記事「レジリエンスを高めるための8つのステップ」で詳しくご紹介しています。

リーダーシップの要素でも同じことが言えますが、セルフケアと他者へのケアのバランスの取り方は常に一定ではありません。サーバント・リーダーシップを実践することも同じです。常に他人のニーズを自分よりも優先するのではなく、自分を優先する時間を作らなければなりません。

自己と他者のバランスをとることで、サーバント・リーダーシップを持続させよう

このように本当のサーバント・リーダーシップ・モデルでは、自己と他者に向けられるエネルギーのバランスを取ることを重視しています。このモデルでは、リーダーが自己を省みるとともに、自己認識を高めることによって、他者への影響をよりよく理解できるとしています。そして、成功するためにはセルフケアが不可欠であることも強調されています。私たちが提唱するサーバント・リーダーシップの「自己」という側面は、リーダーが厳しい決断を求められ、変革が唯一不変に起こるような複雑化した現代社会においては、より重要な意味を持っています。

現在の職場でベストを尽くせるようにするためには、サーバント・リーダーシップを他者に貢献するためだけのものと考えるのではなく、チームや同僚にも同じように行動してもらうように移行しなければなりません。そうすることで、すべてのレベルのリーダーが、共に目標を達成し、お互いを大切にしながら、自分自身も大切にする文化を創造する機会を得ることができるはずです。