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顧客分析とは?手法とフレームを紹介
目次
「顧客分析って、どう行えばいいの?」
「どんなフレームワークを使えば、効果的な分析ができるのだろう?」
顧客分析について、こうした疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
顧客分析は、顧客が自社の製品やサービスを購入する理由を理解するために必要な分析手法です。顧客のニーズや行動を分析することで、効果的な事業戦略の立案に役立ちます。
この記事では、顧客分析の基本から、具体的な手順と有効なフレームワークまで詳しく紹介します。
顧客分析とは?
顧客分析とは、顧客を理解するための分析手法です。顧客のニーズ、行動、属性などを分析することで、顧客の購買行動や商品・サービスに対する満足度などを把握します。
顧客分析の重要性
事業戦略を立案する際には、「売れる、勝てる、儲かる、できる」の4つの観点が重要です。なかでも顧客分析は、「売れる」を分析するための重要な考え方です。
事業戦略についての詳細はこちらの記事でより詳しく解説しています。
顧客分析の手順3ステップと有効なフレームワーク
顧客分析の手順3ステップと各ステップで有用なフレームワークを紹介します。
ステップ1.ターゲット顧客を選定する
顧客分析の第一歩は、自社のターゲット顧客を明確にすることです。そのためには、まず市場をセグメンテーションし、ターゲット顧客を選定する必要があります。
以下では、ターゲット顧客の選定に有効なフレームワークや法則などを、順を追って紹介します。
セグメンテーション
セグメンテーションとは、市場をいくつかのグループに分けて、それぞれのグループに合った商品やサービスを提案する方法です。
例えば、学校のクラスの友達全員にプレゼントを渡すことになった場合、男女別や趣味別に分けて考えることができます。もちろん、一人ひとりの顔を思い浮かべて個別にプレゼントの内容を考えることもできますが、これでは手間と時間がかかります。そこで、クラスの友達を共通点を持つグループに分類してプレゼントを選ぶことで、効率的かつ効果的に喜んでもらえるプレゼントを選定できるのです。
これをビジネスに置き換えると、自社が参入している、もしくは参入を検討している市場をセグメントし、顧客層を複数のグループに分けます。顧客のニーズが多様化している現代において、企業は市場を単一の塊としてではなく、何らかの基準でいくつかに分割して考える必要があります。
そして、自社はどの層に向けて価値を提供していくのかを考えます。
なお、セグメントはこう分けるべきという絶対的な指標はないため、一般的に使用されているセグメント例を紹介します。
セグメンテーションの切り口例
分類例 B to B
- 企業規模(大企業、中小企業)
- 業種(製造業、サービス業、小売業など)
- 地域(国内、海外)
- 購買意思決定者の役職や部署(経営者、購買部門、技術部門など)
分類例 B to C
- 年齢層(10代、20代、30代など)
- 性別(男性、女性、その他)
- 居住地域(都市部、地方、海外)
- 収入層(低所得、中所得、高所得)
パレートの法則
既存事業の変革を検討する場合は、パレートの法則(80:20の法則)に基づいてセグメンテーションを行うことをおすすめします。
パレートの法則とは、「全体を構成する要素のなかで、2割によって成果(数値)が生み出される」という考え方です。これを顧客分析に活用すると、「売り上げの8割は全顧客の中の2割が占めている」「売り上げの8割は全体の中の2割の商品が占めている」という実体が見えることが多いです。8割というのは目安として、場合によっては7割等になることもあります。
成果の重要な役割を果たしている2割と8割の顧客を、どう分けるかのセグメントを見つけると、その次のターゲティングがしやすくなります。
なお、このパレートの法則を活用する際は以下の点にご注意ください。
パレートの法則の注意点
- パレートの法則は経験則に基づくものにする
パレートの法則は経験則であり、すべての事象が2:8に割り振られるわけではありません。この法則を参考にして仮説を立てたり、施策を立案することは有益ですが、無理に当てはめて考える必要はないと理解しておきましょう。 - ロングテールビジネスを理解する
ロングテールビジネスは、販売の貢献度は低いが、長期的に利益をもたらす商品やサービスのことです。短期的には大きな成果を生まないが、長期的に売上を維持するのに欠かせない要素を占めています。パレートの法則で貢献度が低いとしても、長期的には利益を生む可能性がある要素については、分析が必要です。 - 下位8割が不要とは限らない
全体の売上に貢献する要素を見極めるために、残り8割の顧客ニーズや動向も注意深く分析する必要があります。安易に切り捨てず、全体像を見据えた判断を行うことが重要です。
ターゲティング
セグメンテーションを行った後、細分化された市場のどれを勝負の対象とするのかを決める工程をターゲティングといいます。ターゲッティングの方法は以下の様なパターンがあります。
- 市場全体を対象とする(=セグメントしない)
- 市場を細分化し、その全てをターゲットとする(=ターゲットを絞らない)
- 細分化された市場から1つ、もしくは複数のセグメントを選択し、それをターゲットとする
大企業であれば、1や2が有効だと考えられます。一方、大企業と比べ経営資源が限られる多くの中小企業にとっては、すべての市場のニーズを満たすことは困難でしょう。従って、中小企業にとっては3が有効だと考えられます。
自社が有している資源を最も効果的・効率的に投入できる市場セグメントを特定し、そこを標的として事業戦略を立案していくことが重要です。
ただし、セグメンテーションとターゲティングは細かく分割すればするほど良いというものではありません。細分化すればするほど想定する顧客数は小さくなり、採算が取れなくなってしまうため、全体として良い結果にはつながりません。
そこで、そのセグメンテーションとターゲティングが有効かどうかを評価する指標をご紹介します。
セグメンテーション・ターゲティングの有用性を評価する指標 6R
6Rとは、以下の6つの言葉の頭文字から「6R」と呼ばれています。
ステップ2.ジョブ理論を用いてターゲット顧客を分析する
ステップ1で選定したターゲット顧客の詳細を把握します。この時に役立つ考え方がジョブ理論(Jobs-to-be-done)です。
ジョブ理論とは
ジョブ理論は、顧客が何かを買ったり使ったりする理由を理解するための考え方です。例えば、ハンバーガーを買う理由は「空腹を満たすため」や「手軽に食事を済ませるため」などです。
このように、顧客は何かを買うときに、特定の目標を達成しようとしています。ジョブ理論では、商品やサービスが顧客の目標をどのように手助けするかを考えるのに役立つ考え方です。つまり、顧客の「ジョブ」に焦点を当てることで、商品やサービスの需要を理解し、提供する価値を高められます。
■ジョブ理論の構成要素
考え方1:「ある特定の状況で人が成し遂げようとする進歩」
考え方2:顧客は「進歩」するために商品を「雇用」する
状況:物事が生じた特定の状況・背景
進歩:何かを成し遂げること
雇用:目的を達成するために商品やサービスを購入すること
■ジョブ理論の具体例
朝時間がないときに手早く美味しいものを食べたいので、マクドナルドに寄ってハンバーガーを購入
朝時間がないとき →状況
手早く美味しいものを食べたい →進歩
ハンバーガーを購入 →雇用
ジョブとニーズの違い
ジョブとニーズ は、どちらも顧客の行動を理解する上で重要な概念です。しかし、両者は混同されやすく、明確に区別できていないケースも多く見られるため注意しましょう。
ニーズ とは、欲しいものと現状とのギャップから生まれる 欠乏感です。具体的には、「美味しいものが食べたい」、「もっとお金が欲しい」、「時間を節約したい」といった欲求が挙げられます。
一方、ジョブ とは、特定の状況において達成しようとする進歩です。ニーズを解決するために、顧客が実行しようとする具体的な状況や目的を特定したうえでジョブを考えます。
例:
ニーズ:
「美味しいものが食べたい」
ジョブ:
「朝時間がないときに手早く美味しいものを食べたい」
「家族でゆっくりと楽しめる美味しい料理を食べたい」
「友達とワイワイ盛り上がれるような美味しい料理を食べたい」
以上のように、同じ ニーズ でも 状況 によってジョブは大きく異なります。
ジョブに焦点を当てる ことで、顧客が商品やサービスに求める 真の価値 を理解することができます。
ジョブ理論を踏まえて考えるべき問い
ジョブ理論を踏まえて、以下のような問いを考えてみましょう。
Q.顧客があなたの商品を雇用して片付けたいジョブは何か?
→例)朝時間がないときに手早く美味しいものを食べること
Q.顧客の片付けるべきジョブの理解から明らかになった真の競争相手は誰か?
→例)コンビニエンスストア、スーパーマーケット、デリバリーサービス
ジョブ理論に関する補足
先述したセグメンテーションは十人十色という考え方に基づき、市場をセグメンテーションし、どんな顧客がいるのか整理するために行うものです。一方、ジョブ理論は十人十色として分けた顧客を単一のカテゴリーに分類するのではなく、一人十色という考え方です。つまり、同じ人でも状況によって価値やニーズが変わるという考え方です。
そして、ジョブ理論で特定した顧客のジョブをより深く分析するための手法が、次のステップ3で紹介するVPCです。
ステップ3.VPCを用いて顧客価値を分析する
ステップ3では、「顧客にとっての価値とは何か」を分析します。この時に役立つ考え方がVPCです。
顧客価値とは、顧客が製品やサービスから得られるすべての価値を指します。これは、機能的な価値だけでなく、情緒的な価値や社会的価値も含みます。
VPC(バリュープロポジションキャンバス)とは
VPC(バリュープロポジションキャンバス)とは、顧客価値を視覚化するためのフレームワークです。顧客が製品やサービスに価値を見出す理由は、それが彼らにとって有益であるからです。企業が製品の性能を高めたとしても、顧客が価値を認識しなければ売れません。
VPCの具体例
例えば、比較的年収が高く、先進的な機能やデザインを重視する人をターゲットに、「汚れた部屋をキレイな状態にしたい」というジョブを想定して開発されたのがダイソンであると考えられます。
VPCで得られる顧客のインサイト例
VPCを用いて得られる顧客のインサイト(本音や動機)について、具体例を紹介します。
- ターゲット顧客層の想定と実態の差異(想定していたよりも広い/狭い)
- ターゲット顧客を言語化しづらい
- 未カバーの顧客ニーズ(ペイン・ゲイン)の存在
- 顧客が抱えているペイン・ゲインが複雑かつ多様である
- 顧客にとっての商品の価値が明確に伝わっていない
VPC作成の手順
VPCは、「誰に」「どんな価値を提供するのか」を明確化し、顧客ニーズと製品・サービスの価値を一致させるためのフレームワークです。VPC作成の手順は以下の通りです。
なお、記入する順番を記載していますが、実際には各手順を行ったり来たりするため、あくまでおよその流れ程度で捉えてください。
VPCを使用上する際の注意点
VPCを使用する際に注意すべき点は、下記2点です。
- 仮説検証を繰り返す
VPCは、一度作成したら終わりではありません。市場や顧客ニーズの変化に合わせて、仮説検証を繰り返しながら、常に最新の状態に作り直していく必要があります。
- 顧客の生の声を把握する
企業の考えを押し付けず、実際に価値提案を実行し、顧客の反応を検証する必要があります。そして、検証結果に基づいて、VPCを修正していくと、より説得力のあるVPCが出来上がります。インタビューやアンケートを実施しない場合、自社の経験や体験だけが先行してしまい企業側の一方的な想いだけのVPCが完成してしまいます。
ペインとゲインを考える際のヒント
ペインとゲインを考えるヒントを2つ紹介します。
ヒント1.価値の種類
価値を考える際、以下の視点から発想を広げることで、これまで気づかなかった価値に気づきやすくなります。
上記の価値を基に、さらにペインとゲインに分けると、以下のようになります。
ヒント2.カスタマージャーニー
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスと出会い、購入・利用に至るまでの道のりを顧客視点で可視化したものです。
カスタマージャーニーを辿ることで、顧客がどのような行動をとり、どのような感情を抱いているのかを理解することができます。
■カスタマージャーニーの作成イメージ
上記フォーマットへの記入例
ステップ4.ビジネスキャンパスモデルを用いて提供内容を検討する
上記で紹介したVPCを基に、具体的にどの様に価値提供していくのかをより詳細に設計するのに、ビジネスモデルキャンバス(BMC)を用いると、思考を整理しやすくなるためお勧めです。
ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは
ビジネスモデルキャンバスは、スイスの起業家アレックス・オスターワルダー氏によって開発された、ビジネスモデルを視覚的に表現するためのフレームワークです。以下のように1枚のキャンバスに9つの要素を書き込むことで、ビジネス全体を俯瞰的に理解することができます。
ビジネスモデルキャンバスの要素をわかりやすく説明すると以下の通りです。
ビジネスモデルキャンバス(BMC)の9要素
- 顧客セグメント:ターゲットとなる顧客
- 価値提案:顧客に提供する価値
- チャネル:顧客に価値を届ける手段
- 顧客との関係:顧客との接点
- 収益の流れ:どのように収益を上げるか
- 主要なリソース:事業運営に必要な資源
- 主要な活動:価値提供のために必要な活動
- 主要なパートナー:事業運営に必要なパートナー
- コスト構造:事業運営に必要なコスト
なお、ビジネスモデルキャンバスを使用する際、前述したVPCで整理した提供価値と、顧客プロファイルを以下のように埋め込むとより整理しやすくなります。
まとめ
顧客分析は、顧客のニーズや行動を理解し、事業戦略の基盤となる重要なプロセスです。本記事では、顧客分析の基本的な手法やフレームワークについて紹介しました。
セグメンテーションやジョブ理論、VPCなどの手法を活用することで、より効果的な事業戦略や製品開発が可能になります。
かつてないスピードで変化する昨今の環境下において、企業は従来の延長線上では生き残ることは困難といわざるを得ません。単なる改善ではなく、根本的な戦略の見直しと実行が求められています。本記事で紹介したプロセスに沿って思考を深めることで、効果的な戦略立案の一助になれれば幸いです。
弊社「株式会社インヴィニオ」は、単なる知識や能力の習得にとどまらず、組織の実力強化にコミットする組織開発のプロフェッショナルです。
人材育成、組織変革、リーダーシップ開発など、多角的なアプローチを通じて、組織が成果を生み出す能力を引き上げ、引き出し、業績向上につなげていくことを重視しています。
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この記事を書いた人
松井 麟太郎
株式会社インヴィニオ
コンサルタント