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企業理念の作り方|必要性や具体例、注意点をプロが解説
目次
「企業理念を策定したいけど、何に気を付ければいいの?」
「理念とはそもそも何なの?」
「会社の理念を策定したいと言われたけど、まず何からすればいいの?」
こうした疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
企業を取り巻く外部環境や人材市場の流動性が高まる昨今、企業理念や、パーパス経営といったワードが注目されています。
そこで、本記事では「そもそも企業理念がなぜ必要なのか」「企業理念とは何か」「企業理念の作り方と注意点」「企業理念の具体例」「企業理念を作る際によくいただくご質問」などについて、ポイントを解説します。
企業理念を考える前提として:企業は何のために存在するのか?
企業は、自社の商品やサービスを通じて「世の中をよくする」ために存在します。この「世の中をよくする」を個社ごとでどう良くするのか、を表現したものが企業理念です。
なお、企業活動を継続する手段として、利益が必要になります。企業理念を実現するためには、企業活動を継続していく必要があり、企業活動を支える燃料として利益を生み出す必要があるのです。
マネジメントで有名なピーター・ドラッカー氏も著書で以下のようなことを述べています。
- 利益は目的ではないし、動機でもないという。利益とは、企業が事業を継続・発展させていくための条件である。明日さらに優れた事業を行なうためのコスト、それが利益である。利益がなければ、コストを賄うことも、リスクに備えることもできない。
- たとえ天使が社長になっても、利益には関心をもたざるをえない。
- 組織の目的は「存在すること」ではない。 組織は社会の機関である。したがって組織の外(≒社会)に貢献することが存在理由である。
参考:すでに起こった未来―変化を読む眼 P.F. ドラッカー (著)
企業理念の必要性:3つの理由
企業理念の必要性について、3つの理由で解説します。
1.メンバーの方向性を揃えるため
組織能力を向上させるためにも、組織を構成するメンバーがどこに向かって力を発揮すべきかを明確にする必要があります。仮に組織として進むべき方向性が示されていないと、組織としての力が最大限発揮されない可能性が高まります。つまり、下図のように個々人が別々の場所で穴を掘っている状況になりかねません。
組織能力の向上については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
企業理念の作り方|必要性や具体例、注意点をプロが解説
2.メンバーの動機付けを行うため
理念は組織の存在意義や目的、創りたい未来を示し、組織メンバーに仕事への情熱を呼び覚ますキッカケとなります。この考え方には、パナソニック(旧:松下電器)の創業者、松下幸之助のエピソードがあります。
松下はある宗教の信者から熱心な誘いを受け、教団の施設を訪れました。そこで無料奉仕に従事する信者たちのイキイキとした働きぶりに感銘を受けました。当時、一般的には商売は単なる利益追求であるという考え方が主流でしたが、宗教には人間を救うという大きな使命感がありました。
企業で務めている労働者と、宗教信者の働きぶりの違いから、松下は使命感がなければ、熱心な経営も意味をなさないと悟りました。そのため、組織において使命感を自覚し、方針を確立する重要性を強調するようになりました。経営を力強く進め、持続的な成功を収めるためには、使命感が不可欠であるとの結論に至ったのです。
参考:松下幸之助は「宗教」をみて「経営」を悟った ‐東洋経済オンライン
3.意思決定する際の軸になるため
意思決定とは、「ある目標を達成するために、複数の選択肢から最善のものを導きだそうとする行為」といえます。
ビジネスの世界では、意思決定を迫られる場面が度々発生しますが、どの意思決定オプションも論理的に整理するだけでは優劣をつけがたいことがあります。この時、企業理念があることで、どの選択肢を選ぶべきか決定する際の拠り所になり、自社として最善の選択が可能となるのです。
企業理念がないことによる弊害
企業理念がないことによる弊害について解説します。
動機付けがしにくい
この理由は、ハーズバーグの二要因理論を基に考えると理解しやすいです。いくら給与や、職場環境が良くても、なぜこの仕事に取り組んでいるのか?の意義が見出せないと、「ここで頑張ろう」「この会社で働きたい(もしくは、働き続けたい)」という動機付けにはなりません。
つまり、人材マネジメントの観点において、部下の動機付けや、人材の引き留め、採用時の人材の惹きつけが難しくなるリスクがあるのです。
思考が狭まる
企業理念がないと、利益偏重な文化や、自社よがりな施策が打ち立てられてしまう危険性があります。
スパコンの富岳の事例は、理念や目的を明確にすることの重要性を示す良い事例です。
富岳の前身である「京」は、世界最速のスーパーコンピュータとして開発されましたが、使いにくさが課題でした。そのため、産業振興の目的は達成されず、企業の利用や販売数が限られていました。
富岳は、京の反省から生まれ、計算速度だけでなく使いやすさや実用性を重視して開発されました。また、富岳は、企業や研究機関のニーズを踏まえて、さまざまな機能を搭載しています。
富岳は、計算速度だけでなく使いやすさや実用性を重視した理念や目的を明確にすることで、世界4冠を獲得し、産業振興の目的も達成することができました。この実績は「京」の時にも打ち立てられなかった偉業です。
参考:世界一を狙わなかったスパコン富岳が、結果として世界4冠に輝いた意外な理由 -「スパコンの戦艦大和」京への反省
ナンバーワンを目指さなくなったあとにナンバーワンになれた富岳。ナンバーワンという数値的な目標だと思考の幅が狭くなり、真の実力が発揮されない恐れがあります。目的をとらえ直すことで思考の幅が広がり、工夫の余地が生まれた結果、より良い成果を創出できた良い事例です。
また、ビジョンを示す重要性を理解するために、以下の内容も参考になります。
清掃員の仕事は、「オフィスを掃除すること」という単なる行為(=To Do)ではなく、「清潔で快適なオフィスを提供すること」という結果(=To Be)が求められています。
仕事には行為(=To Do)と結果(=To Be)の違いがあり、どちらを自分の仕事と定義しているかによって仕事に対する認識が変わってきます。
もし上司から「オフィスを掃除してくれ」と言われた場合、アクションに焦点が当たり、「一生懸命やれば報われるはずだ」と自分本位の甘い評価になりがちです。しかし、「オフィスがきれいに掃除された状態を提供すること」が期待されていると言われると、結果(=To Be)に目が向くようになります。
そうすると、結果に対する外部評価を意識するようになり、自己本位の思考を避けることができます。
自分の仕事がどんな成果を期待されているのかを理解することで、自分の役割や目標が明確になり、自己評価も客観的になるでしょう。
結果的に、単なる行為(=To Do)に満足することなく、結果(=To Be)にコミットできるようになるのです。
企業理念とは
企業理念とは、グローバルスタンダードの観点でいうとミッション、ビジョン、バリューの3点セット(MVV)で構成される企業の根幹をなす価値観のことです。なお、3つの要素が必ず揃っていなければならないということはなく、ミッションとバリューだけ掲げている企業なども存在します。また、近年においては、パーパスという項目を企業理念として掲げられる会社も増えてきています。
ここで、ミッション、ビジョン、パーパス、バリューそれぞれの定義について説明します。
ミッション
ミッションとは、社会・世界における組織の役割(=我々はどのような使命を担っているのか)です。
ミッションは、ビジョンを実現するために会社が社会に対して担うべき役割を明確化します。また、ミッションは、到達するものではなく、進むべき方向を示す北極星のようなものとも言えます。
■ミッションを作るために考えるべき問い
・ビジョンを実現するために「どのような役割」を果たすのか?
・自社はどのように社会へ貢献していくのか?
ビジョン
ビジョンとは、創りたい未来の姿(自社のあり方/社会・世界のあり方)です。
最終結果に到達するまでのプロセスではなく、最終結果そのものを表現します。なくしたいものではなく、つくりだしたいものに焦点を置くことが一般的です。
自社の在りたい姿だけをビジョンに掲げてしまうと、アウターブランディングとして魅力的なビジョンにならないため、どのような社会、世界を創りたいのかを示す必要があります。
■ビジョンを作るために考えるべき問い
・どの様な未来を作りたいのか?
・ミッションを果たした後の社会・世界はどうなっていてほしいのか?
パーパス
パーパスとは、社会・世界における組織の存在目的(=我々はなんのために存在するのか)です。ミッション+ビジョンのイメージと整理するとわかりやすいかもしれません。
自分たちは何のために存在するのか、何のために事業を行うのか(存在意義)を定義したものです。
自分たちが存在し活動することで、どのような社会課題を解決し、世の中にどんな良い影響をもたらせるのかを表したものといえるでしょう。。
社会に対する自社のミッションやビジョンを表現したものと捉えることができます。
■パーパスを作る際に考えるべき問い
・私たちの組織が存在する目的は何か?
また、ジェネレーションY(1980年代序盤~2000年までに生まれた世代)、ジェネレーションZ(2000年代以降に生まれた世代)と世代を追うごとに、社会における自分の存在意義を重視する人たちが増えているといわれています。
ある若手経営者から「ビジョンやミッションを作れと言われると、何かすごく立派なものにしなければいけないという堅苦しさを感じる。一方パーパスは、等身大で考えられるので気持ちが楽」というコメントを伺ったことがあります。パーパスを軸とした企業理念は、「見栄を張らず、自然体を良しとする」今日の若者の人生観とも通底するのかも知れません。
バリュー
バリューとは、ビジョン・ミッション・パーパスを実現するために会社が社員に期待する価値観・考え方です。
ミッションを果たす、ビジョンを実現するためにどう行動していくべきかを示す、ゆるやかなガイドラインです。
「自分達は何を基準にして、どのように行動していくのか」という問いに答えるものです。
このバリューという考え方がイマイチ理解できないというお声をいただくことがあるので、もう少し解説します。
バリューとは日本語では、価値観と訳されることがありますが、バリュー=行動原理として捉えると分かりやすいでしょう。
行動原理とは、人がどう行動するかに影響を与える基本的な信念や価値観、動機づけの原則です。これは、個人や組織が持つ「なぜ何かをするのか」といった根本的な考え方や信念のことを指します。より理解しやすいように、具体的な事例として「ヒーローの行動原理」を挙げて説明します。
あるヒーローが悪党に立ち向かう理由を考えてみましょう。そのヒーローが持つ行動原理は、「弱者を助けるために戦う」とか、「正義を守るために悪と戦う」といったものです。この行動原理がなければ、ヒーローは悪党と対峙することなどありません。
同様に、私たちが日常生活で行う行動も、何かしらの行動原理に基づいています。例えば、「友達を助けることが大切だ」と思っているなら、その価値観が行動原理になり、「苛められている友人がいれば、助ける」という行動が生まれるでしょう。
行動原理は、私たちがどのような人になりたいか、どのような社会で生きていきたいかを考え、それに基づいて行動するための指針となります。
■バリューを作るために考えるべき問い
・大切にしたい行動原理(価値観、考え方)は?
・大切にしたい行動は?
企業理念を作る際の注意点
企業理念を作る際の注意点は、以下の4つです。
インナーブランディング、アウターブランディングの両方を意識する
自社のステークホルダーは誰か?を考慮したうえで、企業理念を構築しなければ、自社よがりな理念になりかねません。社内からも社外からも「この会社を応援したい!」という内容になっているのかがポイントです。
「業界№1になる」「年商〇億円を実現させる」といった内容は、社内向けのスローガンとしては成立しますが、企業理念として掲げるにはふさわしくないといえます。社外からどうみられるのかが欠如しているといえます。
また、社外に目を向けすぎて抽象的で差し障りがない理念を打ち出すものの、理念を社内へ浸透させる際、「具体的にどう体現すればいいのか?」を戸惑うケースが散見されます。特にバリューを考える際は、具体的な事例と紐づけて社員へ語れるよう、文言や表現を検討する必要があります。
追い続ける価値のある理念を掲げる
掲げているミッション、ビジョン、パーパスは時間をかけてでも追う価値のあるものか検討する必要があります。一般的に、企業理念は、何度も変えるモノではないため、長期的に魅力的かつ、ブレることのない方向性である必要があります。
ストレッチな理念を掲げる
1968年にアメリカの心理学者ロックが提唱した「目標設定理論」では、人が納得している目標については、曖昧な目標よりは明確な目標のほうが、また難易度の低い目標よりは難易度の高い目標のほうが結果としてメンバーのパフォーマンスは高くなるとされています。
一方、あまりにも壮大すぎる理念を掲げてしまうと、自分の能力では全く通用しない、こんな理念は絵空事にしか過ぎない、とデモチベートされるリスクがあります。
網羅しようとせず、優先順位の高いものを示すようにする
この点に関しては、特にバリューを作る際に論点となることが多いです。あれもこれも要素として取り入れてしまうと、浸透の際に社員が覚えられないという事態が発生します。各社支援の経験上、3〜5つくらいにまとめると社員も比較的スムーズに覚えられるでしょう。
企業理念に関するよくあるご質問と支援実績に基づく回答
企業理念に関して、よくある質問と回答を以下に紹介します。
MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)と企業理念の違いは?
企業理念や、ミッション、ビジョン、バリューの説明については、色々な書籍や、ネット記事で定義されているものの、統一された定義がないのが実情です。
MVVを総合して企業理念と表現していることが多いです。また、「企業理念と経営理念はこう違う」という記事もありますが、厳密に切り分けて考える必要はありません。
ミッションが先か、ビジョンが先か?
どちらが先でも構わないですし、どちらが良い悪いということもありません。前述した通り、ミッションはwhat(ビジョンを実現するための役割)、ビジョン(創りたい世の中)はwhyとお伝えした通り、どちらに着目するかは企業によって異なります。
なお、歴史の長い企業ほど、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の順に並べられることが多いです。その理由は「歴史の長い企業ほど、ビジョンよりもミッションの方が、社員の意識統一を図りやすい」ためと推察されます。
歴史の長い企業の場合、事業領域や提供する製品&サービスの範囲が多岐に亘り、自分たちの目指す姿=ビジョンをシンプルかつ具体的に表現するのが難しいことが多いです。
例えば総合商社の場合、「ラーメンからミサイルまで」あらゆる商品を扱っています。ラーメン事業に限定すれば具体的なビジョンを描けるかも知れませんが、ラーメンからミサイルまで全事業を包含したビジョンを描くのは容易ではありません。そのため歴史ある企業のビジョンは、「より豊かな社会を実現する」といった、抽象的で具体性に乏しい表現になってしまうことが少なくありません。
ビジョンとミッションを混同してしまうのはどうすべきか?
厳密に分ける必要はありません。なぜなら、厳密でなくてもメンバーが目指すべき方向性について共通認識を持てていれば理念を構築する目的は達成しているといえるためです。なお、 実際に多くの会社ではビジョンとミッションが混同して使用されていることが多いです。
企業理念はどのタイミングで作るべき?
ベンチャー企業の場合、ビジネスが軌道に乗り、採用が加速するタイミングや、組織が2階層(経営層~メンバー)から、3階層(経営層~マネージャー~メンバー)の組織へ移行していくタイミングで明文化すると良いでしょう。
組織規模が小さい時には、経営層と現場でのコミュケーションが密に行われることが多く、理念が明文化されずとも、日々の仕事の中で共通の価値観や、組織が向かっている方向性が共有されることが多く、企業理念が明文化されなくても問題になりにくいといえます。
なお、大企業や、老舗の会社様から理念構築のご相談をいただくタイミングとしては、以下の様なケースが多いです。
- 創業〇周年(5周年、10周年など)のタイミング
- 創業社長が二代目社長に事業承継するタイミング
- 不祥事など忌々しき事態が生じたタイミング
さらに、企業理念の見直しは、以下のいずれかのタイミングに行われることが一般的です。
- 創業〇周年や、中期経営計画の見直し時
- 新社長の就任時
- 会社の業績が停滞(あるいは下降)し、組織の活性化が必要なとき
- 会社がグローバル化し、外国人社員が増えたとき
- M&Aにより他社がグループに加わったとき
- 持ち株会社(ホールディングス)化したとき
ただし、企業理念をあまり頻繁に見直すのは好ましくありません。企業理念は自社のアイデンティティそのものであり、時代や環境が変わってもブレない経営を行うための軸となるものだからです。企業理念を頻繁に見直し過ぎると、経営の軸としての重みがなくなり、社員が企業理念を尊重しなくなる原因にもなります。
コンプライアンスコードとバリューの違いは?
企業によってはバリューとは別にコンプライアンスコードを作成していることがあります。特に、製造業の場合、コンプライアンスコードを設けていることが多いです。
コンプライアンスコードとバリューの違いは、時間軸です。つまり、コンプライアンスコードは今すぐ体現する必要がある厳格なガイドラインなのに対し、バリューは今は体現できていなくても問題はないが、長期的にはできるようになろうという比較的緩やかなガイドラインです。
また、コンプライアンスコードは企業で不祥事を起こさないための行動指針であり、守りの行動指針として策定されています。一方、バリューはミッション、ビジョンを実現するための攻めの行動指針として策定されていることが多いです。
ビジョンやパーパスはどの組織単位で作るべきか?
共通の目的を追う組織単位ごとに策定することをお薦めします。これはチームビルディングの観点からそうした方が良いといえるためです。
チームとグループ、両方とも個人が集まった組織体を示す言葉として用いられますが、意味が異なります。グループは、同じ場所にいる人々の集まりであり、共通の目的や目標を持っている必要はありません。 一方、チームは、メンバー全員が共通の目的や目標に向けて協力し、相互に補完しあうメンバーから構成される組織の形態です。
このように、組織をチームとして機能させるためにも、ビジョンやパーパスは共通の目的を追う組織単位ごとに策定することがお薦めです。
ただし、全社で掲げている理念が浸透していない中で、各組織が独自にビジョンやパーパスを掲げるのは避けましょう。各組織が独自にビジョンやパーパスを掲げるのはあくまで、全社で掲げている理念と整合している前提で作られるべきだからです。全社で掲げている理念が浸透しない中、各組織が独自にビジョンやパーパスを掲げてしまうと、むしろ一体感を阻害しかねません。
企業理念の作り方|5ステップ
企業理念の作り方は、以下の5ステップです。
1.過去を振り返り、ここまで成長できた源泉(DNA)を特定する
このステップは、企業の歴史が約10年以上ある会社の場合に踏むべきステップです。10年以上活動を継続してきた企業は、既に独自のDNAを有していることが多いです。そのため、このDNAとは何かを理念構築メンバーですり合わせる必要があります。
過去のDNAを振り返るには、以下の様な手法がお薦めです。なお、過去を振り返る際には、できる限り当時のことを知っている社員にインタビューしながら整理すると、よりリアルな情報が聞け出せます。また、100年以上続く企業の場合は、社史などを読み解きながら整理することになります。
まずは、創業から今までどんな出来事があったのかを時系列で整理し年表を作成します。
例えば、以下の様な内容を記載することが多いです。
- いつ、どの様な商品をつくったか
- 各時代の売上や売上構成比はどうだったのか
- 組織体制が変わったタイミングなど
- いつ誰が社長だったのか
次に年表で作成された出来事の背景を読み解きましょう。
例えば、以下の様な観点で読み解くことが多いです。
- なぜこの商品が生まれたのか
- なぜこの売上構成だったのか
- なぜ組織体制が変わったのか
- なぜこのタイミングで社長が変わったのかなど
また、ステークホルダーインタビューも有効です。インタビューを通じて外部から見た自社のDNAを明らかにすることで、自分たちの考えがより確信めいた内容になります。また、自分たちでは気づかなかった強みに気付くケースもあります。
インタビュー内容例
- なぜ自分たちと取引を続けているのか?
- 自分たち(=理念を構築する企業)の強みは何だと感じているか?
- 自分たちにこれからも期待したい事、これから更に期待したいことは?
2.未来を見据える
未来を予測するためには、シナリオ分析や、4C分析(Customer:市場・顧客、Company:自社、Competitor:競合、Context:世の中の状況)などの手法を用いることが一般的です。
未来を予測し、これから世の中がどうなるのか?どんなことができる様になるのか?などの共通認識を理念構築チーム内で擦り合わせます。
この未来に対する認識が揃っていないまま議論を進めてしまうと、各論の話になった時に、議論がまとまらない恐れがあります。
3.これからの組織のあり方や、残すべきDNAを明らかにする
未来を予測したうえで、自分たちのミッション、ビジョン、パーパス、バリューを明らかにします。
具体的には以下を整理しましょう。
- これから自分達は何を目指すのか?
- どの様な未来を作っていきたいのか?
- どの様な役割を担うのか?
- どの様な目的を持って企業活動を続けて行くのか?
- どのような価値観を持っていくのか?
4.理念キーワードの選定
ミッション、ビジョン、バリューなどのフレームに合わせて、どのようなワードがキーになりそうか、理念構築チーム内でアイディアや意見を出し合います。
この際、ミッション、ビジョン、バリューの切り口ではなく「パーパス、バリューの枠組みで考えた方がしっくりくるね」「バリューよりスピリットと表現した方がしっくりくるね」など、整理するフレームは企業ごとにアレンジされることもあります。
キーワード例
【ビジョン系キーワード】
■自社の事業領域を表す言葉
例)モビリティ/トランスポーテーション、ロジスティックス/物流、インフォメーション/情報/デジタル、食/ファッション/生活、ヘルスケア/医療、安心/安全、etc.
■未来の理想的な状態を形容する言葉
例)遍く、全ての、最高の、最善の、究極の、常に、あらゆる、いつでも、どこでも、瞬時に、お手頃に、etc.
【ミッション系キーワード】
■自社の使命や存在意義を表す言葉
例)(社会を)支える、 (社会に)貢献する、 (命を)守る、(生活を)豊かにする、 (顧客を)大切にする、 (文化を)育む、etc.
■自社のポジション(位置づけ)を表す言葉
例)トップリーダー、リーディングカンパニー、オンリーワン、グローバル、独自の、先進的な、圧倒的な、etc.
【バリュー系キーワード】
■社員が共有すべき価値観を表す言葉
例)真摯、誠実、信頼、真心、思いやり、尊重、協力、チームワーク、自律、挑戦、革新、チャレンジ、イノベーション、多様性、ダイバーシティ、etc.
5.理念フレーズの選定
キーワードが整理できたら、キーワードをフレーズに昇華させていきます。
このフレーズへの落とし込み方は、文章力が求められるため、外部のコンサル会社の支援を得ながら整理する企業が多いです。
各フレーズの具体例は、次の項目で紹介します。
企業理念の具体例
企業理念の具体例として、ビジョン・ミッション・バリューのフレーズ例を紹介します。有名各社の想いが反映されたフレーズですので、ぜひ参考にしてください。
ビジョンフレーズの例
ビジョンフレーズの例は、以下の4つです。
- 「あらゆる情報を検索可能にする」(Google)
- 「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」(ユニクロ)
- 「ホスピタリティ・イノベーター」(星野リゾート)
- 「『究極の安全』と『サービス品質の改革』に向けて、挑戦を続ける」(JR東日本)
ミッションフレーズの例
ミッションフレーズの例は、以下の4つです。
- 「地球上で最もお客様を大切にする企業」(アマゾン)
- 「お客様を原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」(イオン)
- 「良品価値の探求」(良品計画)
- 「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」(キリンホールディングス)
バリューフレーズの例
バリューフレーズの例は、以下の4つです。
- 「知恵と改善」:常に現状に満足することなく、より高い付加価値を求めて知恵を絞り続ける(トヨタ)
- 「ソーシャルニーズの創造、絶えざるチャレンジ、人間性の尊重」(オムロン)
- 「やってみなはれ」(サントリー)
- 「すぐやる、かならずやる、できるまでやる」(日本電産)
企業理念は誰が作るのか
前提として、視野、視座が高いメンバーで策定する必要があります。前述した通り、企業理念は何度も作り直すものではなく、企業のあり方を示すものです。さらに、企業理念は戦略にも連動してくるため、経営者と同等な視野・視座を持つ方に作成いただく必要があります。もし経営者と同等な視野・視座を持っていない場合は、視野・視座を高くしてから理念構築を始めることが一般的です。
また企業理念作成の進め方には、「ボトムアップ型」と「トップダウン型」の2パターンがあります。以下を参考により適した方を選択しましょう。
ボトムアップ型 | トップダウン型 | |
---|---|---|
メリット | 浸透がスムーズ | 経営者の想いを反映させやすい |
デメリット | 経営者の意見を反映させにくい | 社内浸透時に工数と工夫が必要に |
向いている企業の特徴 | 実利を優先して事業を多角化してきた | ・創業者長が作る ・カリスマ的社長がトップにい |
企業理念と経営戦略の関係性
企業理念は万能薬ではなく、あくまで企業の在り方や、進むべき方向性を示すものです。そのため、理念を作っただけでは絵に描いた餅になってしまいます。
理念を絵に描いた餅で終わらせず実現させるためには、経営戦略の策定が不可欠なのです。
最後に|成果につながる理念構築
「目的を明確に定義しないまま、企業理念の策定や浸透を行おうとすること」は危険です。優秀な人材の採用が目的なのか、閉塞感の漂う組織の活性化が目的なのか、あるいはタコつぼ化した組織の壁を取り除くことが目的なのかなど、何を最終的に実現したいのかを明確にしてこそ、企業理念の策定および浸透に意義が生まれます。
少なくとも「〇〇周年だから」「社長に言われたから」といった理由のみで、企業理念の策定や浸透を行うのは是が非でも避けるべきです。
環境変化が激しい中、企業は今まで経験したことのないレベルでの変革を迫られています。変革を推進するためには、組織として新たに進むべき方向性を示すことが重要です。
組織として向かうべき方向性を示すことで、社員がどこに向かって力を発揮すべきかが明確になり、組織としての力を最大限発揮することができるようになります。
弊社「株式会社インヴィニオ」は組織開発のプロとして、経営理念を作ることに留まるのではなく「成果」へと昇華させることにコミットします。会社の成果として表れるように、理念の構築や、浸透をご支援いたします。
「成果につながる理念構築や、理念浸透を検討したい」とお考えの方は、まずはこちらから気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人
松井 麟太郎
株式会社インヴィニオ
コンサルタント