leadership-insight
リーダーシップインサイト

- ホーム
- リーダーシップインサイト
- 人が育つ組織は強い──メンタリングを文化にする実践のすすめ
人が育つ組織は強い──メンタリングを文化にする実践のすすめ

目次
「以前、メンタリングを試したことはあるんですが、うまくいきませんでした。まあ、人は自然と自分のメンターを見つけるものですしね。私が本当に知りたいのは、どうやってリーダーシップ候補を育てていくかということなんです。」
これは、多くの人事部門の上層部からよく聞かれる言葉です。しかし、実際には、メンタリングは優秀な人材をつなぎとめ、次世代のリーダーを育てるうえで非常に有効な方法なのです。
成果を出している多くの組織では、メンタリングをリーダーに求められる重要なスキルと位置づけています。そして、真剣にメンタリングに取り組み、それをうまく実践しているリーダーは、組織に大きな好影響を与えています。
メンタリングが形式的なものか、非公式な関係かにかかわらず、職場でのメンタリングには、メンター、メンティー(指導を受ける側)、そしてそれを支援する組織、すべてにとってメリットがあります。優れたメンターは、メンティーのリーダーシップ能力を伸ばすだけでなく、自身のスキルも高めていきます。メンティーのキャリアの目標と、組織のビジョンをうまく結びつけ、組織に深みと忠誠心を育てます。さらに、自分の知識や専門性を組織に還元することにもつながるのです。
ここでは、組織内メンタリングに関するCCLによる調査結果や知見、そして効果的なメンタリングプログラムを構築するための具体的な提言をご紹介します。
まず、職場におけるメンタリングとは?
CCLが作成したガイドブック『成功するメンタリングの7つの鍵』では、メンタリングを「意図的に築かれる、成長を目的とした関係」と定義しています。これは、より経験と知識を持つ人が、まだ経験の浅い人の職業的・個人的な成長を支援し、導いていく関係です。
一般的に、メンターはメンティーよりも長くその組織や業界で働いており、より高い地位や権限を持っていることが多いです。このような経験や立場の組み合わせによって、メンターはメンティーに対して大きな影響力を持つことができます。(「一般的に」と言っているのは、近年では“リバース・メンタリング”と呼ばれる、若手が年上の社員を指導する形もあり、それも非常に効果的である場合があるからです。)
職場におけるメンタリングは、個人が学び、成長しようとする意欲を高め、さまざまな学習の機会に触れるきっかけを与え、さらにその成長を支える土台にもなります。多くの場合、このような関係はメンティーだけでなく、メンターにとっても成長の機会となる、相互に発展的な関係となるのです。
組織におけるメンタリングは、誰にとってメリットがあるのか?
実は、メンタリング・プログラムから最も大きな恩恵を受けるのは「組織」そのものです。職場でのメンタリングは、優秀な人材の採用や定着に役立ち、成長の機会を求める社員のエンゲージメント(組織への愛着や貢献意欲)を高めます。その結果、離職率は下がり、人材育成のスピードが加速します。
多くの場合、メンターは組織の方向性や力学をよく理解しており、それをメンティーに伝えることができます。これにより、メンティーの行動や目標を組織全体の目的とよりよく一致させることができ、組織のパフォーマンス向上にもつながるのです。
そしてもちろん、メンタリングを受けるメンティーにも多くのメリットがあります。たとえば、リーダーシップのチャンスを得やすくなったり、キャリアの選択肢が広がったり、報酬や評価が向上したりします。また、新しい環境への適応力が高まり、専門性や自信、職業的アイデンティティが深まり、仕事への満足度も上がります。さらに、組織内での受け入れられ方が良くなったり、職場でのストレスや役割の衝突も軽減される傾向にあります。
加えて、メンターと関わることで、その信頼性や影響力の一部を享受できるという利点もあります。
そして忘れてはならないのが、メンター自身にも大きなメリットがあるという点です。多くの研究によると、メンターとして活動している人は、そうでない人に比べて仕事への満足度が高く、組織への帰属意識や貢献意欲も強い傾向があります。
また、部下から「優れたメンター」と評価されたリーダーは、上司からのパフォーマンス評価も高かったという調査結果もあります。
職場でのメンタリングは、新人リーダーにもベテランリーダーにも効果がある
新たにリーダーとなる人たちは、それまでの「自分一人で成果を出す立場」から「他者をマネジメントする立場」へと移行する過程で、多くの支援を必要とします。
この移行期はもともと難しいものですが、近年では、社会やビジネスの不確実性が増し、変化が激しくなっているため、ますますその負担が大きくなっています。
こうした状況の中で、メンタリング・プログラムは、新たなリーダーが直面する壁を和らげたり、捉え方を変えたりする助けとなります。特に、コーチングやメンタリングを通じた支援は、新人リーダーの育成に非常に効果的です。
一方で、より経験のある社員にとっても、メンタリングは「マネージャーになる準備」として有効な機会になります。多くの管理職に共通する課題のひとつは、「部下を育て、導くスキル」が不十分であることです。社員の成長を支援することはマネージャーにとって欠かせない役割ですが、十分にその力を発揮できていない人も少なくありません。
しかし、職場でメンターとして活動することによって、マネージャー自身もパフォーマンスを高め、重要なマネジメントスキルを身につけ、仕事への満足度を高めることができます。
実際、CCLのホワイトペーパーでも触れている通り、他者を支援し、育てるメンターの役割を担っている人たちは:
- 周囲から「効果的なリーダー」と評価されやすく、
- 組織へのコミットメント(貢献意欲)が強く、
- 仕事やプライベートの両面で充実感を得ており、
- 人脈が広がり、職場での情報やチャンスにも素早くアクセスできる、
という傾向があります。
要するに――優れたリーダーは、メンタリングを受けるべきです。そして、優れたリーダーは、メンタリングをするべきでもあるのです。
組織における効果的なメンタリング・プログラムの構築 —人事リーダーへの提言—
あらゆる優れたリーダーには、自分を支援し、信頼し、必要なときには声を上げて擁護してくれる人々との信頼関係(ネットワーク)が欠かせません。メンタリング(およびスポンサーシップ)・プログラムは、こうしたネットワークを構築し、組織内に強固なリーダーシップ・パイプラインを作るための重要なステップになり得ます。
たとえ正式なメンタリング制度がまだ整っていなくても、タレントマネジメント(人材管理)の観点から、次のような取り組みを行うことで、優秀な人材を惹きつけ、組織に定着させることが可能です。
- リーダーシップ開発やオンボーディング(入社後の立ち上げ支援)のプロセスに、メンタリングやスポンサーシップの要素を組み込む
- ハイポテンシャル(将来の幹部候補)人材と、特定のメンターやスポンサーを正式にマッチングするプログラムを設計する
- 社内文化として、「人材の育成や支援を行うことが当たり前である」という期待を明確にする
組織で正式なメンタリング・プログラムを成功させるカギは、役割と責任を明確に定めること、そしてコーチングやメンタリングの取り組みにおける目的を明確に設定することです。
その実現に向けて、次にご紹介する提言を参考にしてみてください。
- 組織が進化するきっかけとなる問いを投げかけましょう。
思い込みや従来の前提をそのまま受け入れるのではなく、「他の可能性はないか?」という視点で問い直すことが大切です。たとえば、人材を選ぶときにこう考えてみてください:
「この役職の前任者はこういうタイプだったけれど、今の組織が本当に必要としている能力は何だろう? 見落としている要素はないだろうか?」
こうした問いかけは、異なるスキルやスタイルを受け入れる風土を育み、より多様で包摂的なリーダーシップの実践へとつながります。 - リーダーがメンタリングやスポンサーシップにしっかり取り組めるよう、コーチング力と対話力を強化する。
上級管理職であっても、「他のリーダーをどう支援すればよいか」「成長につながる会話をどう進めるべきか」が明確でない場合があります。
特に、メンティーやスポンサー対象者とどのような会話をすべきかを理解していないケースも少なくありません。
もし、上級リーダーに対して「若手のハイポテンシャル人材を支援する役割を担ってほしい」という期待があるなら、その期待は明確かつ具体的に伝えることが不可欠です。
たとえば、タレントマネジメント、後継者計画、または人事評価のプロセスにその内容を組み込むことが有効です。また、リーダーが予期せぬ状況にも柔軟に対応できるように、必要な知識やツール、リーダーシップ研修、継続的なサポートを提供しましょう。
具体的には、自己認識、傾聴力、そしてコーチングに対する自信を高めるような「対話スキル向上プログラム」などを活用するのもひとつの方法です。
職場におけるメンタリングを考えるにあたって、最後に伝えたいこと
組織におけるメンタリングの形には、さまざまなスタイルがあります。
人事部や組織主導で、明確な構造・モニタリング体制・組織目標との整合性を持たせた正式なプログラムとして運用する方法もあれば、関係当事者が主体となって、必要に応じて人事が軽くサポートするようなより自由度の高い非公式な形もあります。
どのようなスタイルを採用するにせよ、成功するメンタリング・プログラムには、丁寧で戦略的な設計が欠かせないという点は共通しています。
今回ご紹介した内容や提言を活用して、自組織に合ったメンタリングの仕組みを整えてみてください。きっと、社員のエンゲージメントの向上、離職率の低下、そして組織全体のパフォーマンス向上という、目に見える成果につながるはずです。
弊社「株式会社インヴィニオ」では、20年以上積み重ねてきた確かな実績と、CCLを含む世界中のアライアンスパートナーから得た最先端のノウハウを用いて、学びを知識や能力のレベルに留まらせるのではなく「実力」へと昇華させることにコミットしています。
人材の「育成」に留まらず事業上の成果として表れるように、個人や組織が保有する「成果を生み出す能力」を引き上げ、引き出し、顕在化し、より良い組織文化を構築していくためのサポートを提供しています。
自組織でもメンタリング文化を醸成したいとお考えの場合は、ぜひこちらからお気軽にお問い合わせください。