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未来を“待つ”から“創る”へ──ポリクライシス時代の新しいリーダー像

目次
グローバル危機が相次ぐ現代において、リーダーはこれまでにない困難に直面しています。複雑かつ相互に連関する課題が急速に変化する環境を形づくる中、「ポリクライシス」という新たな現実を理解し、それに対応できるリーダーシップ能力が強く求められています。
地政学的緊張、経済の不安定化、気候変動、社会的不平等といった複数のグローバルな緊急事態が交差する今、効果的なリーダーシップはもはや組織の枠を超え、私たちの未来を形づくる鍵となります。より良い世界を築くために、リーダーの役割はかつてないほど重要性を増しています。
今回は、ますます相互に結びつき、危機にさらされやすくなっている世界において、リーダーに求められる複雑な能力を理解することを目的としてCCLが実施した調査結果をご紹介します。これは、“ポリクライシス”下のリーダーシップに関する重要な知見を提供するものです。
ポリクライシスとは何か?
ポリクライシスとは、複数の危機が相互に作用し合い、それぞれの影響を増幅させながら複雑に絡み合う状況を指します。同時多発的な危機、フィードバックループ、予期せぬ相互作用、そして境界線の曖昧さが特徴です。
このような状況下では、リーダーは個別の問題を管理するだけでなく、絶えず変化する複雑な課題の関連を読み解き、組織を導く力が求められます。新型コロナウイルスのパンデミックは、ポリクライシスの典型例です。公衆衛生の危機として始まったこの事象は、瞬く間に経済の混乱、社会の分断、地政学的緊張へと波及しました。ポリクライシスがいかに領域を越えて広がり、リーダーにとって極めて複雑な状況を生み出すかを示す好例です。
こうした相互に関連する危機を理解することは、リーダーシップの再定義に不可欠です。それにより、現在の課題への対応だけでなく、複雑に絡み合う危機の構造を先回りして読み解き、グローバル規模の問題に取り組み、明確な定義や解決策が存在しない難題にも果敢に挑むことが可能になります。
ポリクライシス時代に求められるリーダーシップ
従来のリーダーシップの枠組みでは、ポリクライシスのような多面的かつ複雑な状況に十分に対応することができません。現代のリーダーには、以下のような能力が求められています。
- グローバルな危機の相互連関を認識する力
- 連鎖的な影響を予測する力
- 組織や国境を越えて協働する力
- 短期的な対応と長期的なレジリエンスの両立
- 緊迫した状況下での倫理的判断力
こうした課題に対応するため、CCLは複雑かつ構造的なチャレンジの文脈におけるリーダーシップ能力を検証する研究を行いました。本研究は、ポリクライシスの真っただ中におけるリーダーシップを対象とした初の試みであり、リーダーシップ論、グランドチャレンジ、ウィキッド・プロブレム(解決困難な問題)に関する既存文献を踏まえて設計されています。
グランドチャレンジとは、再生可能エネルギーの確保や世界的な食糧安全保障のように、長期的かつ多面的な取り組みを要する大規模な課題を指します。一方、ウィキッド・プロブレムは、気候変動や構造的な不平等のように、知識の不完全性や複雑な相互依存性ゆえに明確な定義や解決策が困難な問題です。これらはいずれもポリクライシスと密接に関連しています。
CCLの研究では、これらの概念を統合的に捉え、ポリクライシスを乗り越えるために不可欠な6つのリーダーシップ能力を特定しました。これらの能力は、予測可能な課題への先手対応を可能にすると同時に、予期せぬ事態への柔軟な適応力を高める枠組みとなります。今後の研究では、これらの能力の発揮を妨げる構造的な障壁についても検討を進めています。
ポリクライシスを乗り越えるための6つのリーダーシップ能力
複雑な問題解決力
複雑な問題に取り組むには、複数の能力を統合的に発揮する必要があります。中心となるのは「両利きの思考(ambidextrous thinking)」です。これは、対立する要素を「どちらか」ではなく「どちらも」尊重しながらバランスを取る思考法であり、ポリクライシス特有の相反する要求に対応するために不可欠です。
このアプローチを支えるのが、複雑性への感度とシステム思考です。問題を広い文脈で捉え、相互に関連する要因を認識することで、長期的な影響を見極め、変化する課題の地形を読み解き、構造的なパターンを探ることが可能になります。ポリクライシスが進行する中では、戦略的な方向性を維持しつつ、創造性・実験・柔軟性を活かした「適応的問題解決力」がますます重要になります。
協働と関係構築力
ポリクライシス下のリーダーシップには、多様なステークホルダーを共通の目的に向けて束ねる協働的なアプローチが求められます。異なる役割や専門性を持つ組織を結集し、複雑に絡み合う課題に取り組むには、巧みな調整力と、各ステークホルダーの強みや貢献可能性を深く理解する力が必要です。
この協働型リーダーシップの核となるのが、効果的なコミュニケーションです。リーダーは、相手に応じて伝え方を柔軟に変え、透明性のある対話を通じて信頼を築く必要があります。専門知の共有、領域横断的な学びの促進、そして特に見過ごされがちな視点からの助言を積極的に求める姿勢が、複雑な状況を乗り越える鍵となります。こうした協働を支える土台には、誠実さと信頼性があり、長期的なパートナーシップの維持に不可欠です。
変革型リーダーシップ
変革型リーダーシップは、2つの重要な要素から成り立っています。ひとつは「破壊的リーダーシップ」であり、これは不確実性の高いリスクを伴う大胆な意思決定を指します。もうひとつは「ビジョン主導の変革」で、人々を巻き込み、変革の勢いを持続させる力です。ポリクライシスの状況下では、現状を打破し、新たな道を切り拓くためにこのアプローチが不可欠です。
リーダーは、既存の常識を問い直し、計算されたリスクを取り、他者が変化を受け入れるよう鼓舞する必要があります。これは、広範な影響を及ぼす可能性のある困難な意思決定を伴うこともあります。未来に向けた説得力あるビジョンを描き、それを実現する粘り強さが求められます。変革型リーダーは、抵抗に直面しながらも、予期せぬ課題に柔軟に対応し、短期的な危機対応と長期的な目標の両立を図る力が必要です。
包摂性と倫理観(Inclusivity & Ethics)
ポリクライシスにおいては、包摂性と倫理観が極めて重要なリーダーシップ能力となります。これには、他者への敬意、共感、公平性、正義といった価値観が含まれ、心理的安全性を確保し、包摂的なマインドセットを育む基盤となります。これらの能力は、倫理に根ざしたリーダーシップを支え、すべての声を尊重する姿勢を体現します。
リーダーは、多様な視点が歓迎されるだけでなく、積極的に求められる環境をつくるべきです。特に周縁化された声に耳を傾け、共感を持って対話し、公平性と正義を優先する意思決定を行うことが求められます。心理的安全性は、率直な対話とイノベーションを促進し、複雑で多面的な課題への対応に不可欠です。包摂的なマインドセットは、チームやコミュニティに内在する多様な強みを認識し、それを活かすことで、より包括的かつ実効性のある解決策を導きます。
内面的能力
ポリクライシスの複雑性に立ち向かうリーダーにとって、内面的な能力は基盤となります。これには、レジリエンス(回復力・逆境に立ち向かう際のしなやかさ)、適応力、未来志向の思考が含まれます。レジリエンスは、困難や挫折の中でも冷静さと効果性を保つ力であり、適応力は急速に変化する状況に応じて戦略やアプローチを柔軟に切り替える力です。
未来志向の思考力は、リーダーが目先の危機を超えて、長期的な目標や新たな可能性へと組織を導く力を育みます。こうした内面的な強さは、混乱の中でも目的の明確さを保ち、周囲に安心感と信頼を与えるために不可欠です。
ポリクライシスのように予測困難で圧倒されがちな状況において、リーダーはこれらの内面的能力を継続的に磨き、進化させていく必要があります。それによって、変化に柔軟に対応しながらも、組織の方向性を見失うことなく、持続可能な未来への道筋を描くことが可能になります。
未来志向
未来志向は、ポリクライシスに対応するために不可欠な3つのリーダーシップ能力――未来思考、協働型コミュニティ・リーダーシップ、サステナビリティ――を包含しています。
未来思考とは、複数の危機が相互に影響し合う可能性を踏まえ、チームとともにシナリオ・プランニングを行い、連鎖的な影響に備える力です。協働型コミュニティ・リーダーシップは、多様なステークホルダー間で責任を共有し、集団的な意思決定を促進する構造を築くことを意味します。サステナビリティは、環境・社会・経済の複数領域にまたがる課題に同時に取り組みながら、レジリエンスと持続的成長を実現する実践を指します。これらの能力は、リーダーが未来を予測し、計画し、形づくる力を高め、ポリクライシスの中でも持続可能で包摂的な未来を築くための指針となります。
ポリクライシスを乗り越えるためのリーダー育成の重要性
こうした本質的なリーダーシップ能力を育むためには、組織のリーダー育成のアプローチそのものを進化させる必要があります。従来の断続的な研修モデルでは、ポリクライシスの複雑性に対応できるリーダーを十分に育成することは困難です。そこで、CCLは以下の4つの実践を推奨しています。
- 断続的な育成機会から継続的な学習へ
単発の研修イベントを超えて、日常業務に組み込まれた継続的かつ組織全体での学習文化を構築する。 - 実践を通じた学習の促進
リーダーが新たなスキルや知識を実際の課題に適用できる機会を提供し、実体験を通じて成長を加速させる。 - ウェルビーイングと包摂性の重視による組織レジリエンスの強化
従業員の心身の健康を支え、多様な視点を尊重する環境を育むことで、組織の適応力と持続力を高める。 - 垂直的な成長の統合
リーダーの認知能力や適応的な思考様式を高めることに重点を置き、複雑で不確実な環境を乗り越える力を養う。
これらの実践を組織全体に浸透させることで、ポリクライシスに対応できるリーダーを育成するための包括的な仕組みが構築されます。リーダーは、適応的なマインドセット、認知的能力、そして実践的なスキルを備え、予測困難な時代を力強く導く存在となるのです。
ポリクライシスに直面する中で、人間の可能性を拡張する
ポリクライシスは、これまでにない規模の困難をもたらします。しかし、その中には「人間にとって可能なこと」の定義を再構築する、かけがえのない機会も潜んでいます。これまで紹介してきた6つのリーダーシップ能力を育むことで、リーダーは現在の課題に対応するだけでなく、よりレジリエントで持続可能、かつ公平な未来を自らの手で形づくることが可能になります。
リーダー育成の変革は、まさに今、求められています。継続的な学習、実践を通じた成長、ウェルビーイングと包摂性の重視、そして垂直的な成長の統合を通じて、組織はポリクライシスに対応できるリーダーシップの基盤を築くことができます。これらの取り組みは、より大きなビジョン――人間の可能性を拡張し、世界の喫緊の課題に突破口を開く未来――につながります。
ポリクライシスの旅路は複雑かもしれません。しかし、適切なリーダーシップ能力と育成アプローチがあれば、その旅は人類の新たな可能性とグローバルな進歩へとつながる道となるのだとCCLは提唱しています。
弊社「株式会社インヴィニオ」は、20年以上積み重ねてきた実績と、CCLを含む世界中のアライアンスパートナーから得た最先端のノウハウを用いて、学びを知識や能力のレベルに留まらせるのではなく「実力」や「業績」へと昇華させることにコミットしています。
「ポリクライシスに直面するリーダーシップの課題を解決し、組織として成果につながるリーダーシップを実現したい」と思われる方は、まずはこちらから気軽にお問い合わせください。