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第四回 構造的な問題1:役員レベルの問題への対処策
第3回では、第2回で指摘した「役員レベル」の問題の対応策 処方箋1と処方箋2をご紹介いたしました。今回は、残り2つの処方箋をお示ししたいと思います。
処方箋3:企業変革に必要な年代別組織への移行
これは組織の閉塞感を打破する有効な打ち手になるのではないかと考えており、経営陣には真剣に考えてほしいと思っている施策です。定年の延長もあって、企業で働く時間が40年以上に及ぶのに対して、事業の寿命がどんどん短くなっていることから生じる矛盾を少しでも解決できないか、ということでもあります。
組織を商品別でも機能別でも地域別でもなく、年代別に括り直し、80年代からやっている事業はその事業を支えてきた現経営陣をはじめシニア層(45歳以上くらいの社員)が、新しい事業群は40代半ばの役員を選抜し彼らが、さらに新しい事業群は30代半ばの役員を選抜して彼らが全権限を持ち、事業運営に責任を持つ体制を作ると言うものです。事業ポートフォリオの入れ替えや投資など、重要な経営の意思決定は、年齢の違う人たちで構成される役員会で決められることになります。
ただし、この組織形態が機能するのは、主力である既存事業が事業のライフサイクル曲線の成熟期ないし衰退期にあり、これまでとは違うタイプの新規事業を立ち上げる必要性があって、新しい事業の立ち上げ、運営には、これまでとは違う「組織能力(Capabilities)」が求められるときに有効であると考えています。
ですので、どの会社にもお勧めできるというものではありませんが、これらの条件を満たしているケースは結構多いのではないか、という実感値があります。
たとえば、成熟期を超えて衰退期に入っている代表的な製品にコピー機があります。デジタル化がすすみ、新型コロナウィルスの影響で外出もできない中、pdfで資料がやりとりされるようになって、紙を印刷する機会は激減しました。これから市場が伸びることはないでしょう。
したがってコピー機を作っている企業にとってはコピー機に変わる新しい事業の開拓が必要です。ではそれをこれまでの経営体制=コピー機の開発、生産、販売で実績を上げてきた人たちが役員を占めている会社でできるのか?事業運営のすべてを高品質なコピー機を作り販売するために最適化してきた組織能力で、新しいことにチャレンジするのはとても難しいのではないかと想像します。
※組織能力とは、個々人の能力の総和(ベクトルが揃っているときに最大化する)+設備や施設、情報システムなど資産が発揮する能力の合計です。
年齢別組織の話をすると、「能力と年齢は関係ない。私は若い人たちと新しい事業を進めていける自信がある。単純に年齢で仕切りを作らないでほしい」という声が上がります。おっしゃることはもっともです。ですので、シニアメンバーの組織に所属することになった人で、どうしても自分は若い人たちの事業部門に移りたいという方がいれば、そちらの事業部門を担当する若手役員と面談して、自分はどのように貢献できるかアピールを行い、必要と認識してもらえれば移れる、という仕組みにしておけばよいかと思います。
研修という仕事をしている手前、何歳になっても知識・スキルの習得は可能です、人は成長できます、と申し上げてはいますが、知識・スキルは確かに習得可能である一方で、45歳を超えると、仕事への姿勢や行動特性(コンピテンシー)は開発するのに時間がかかります。
それに、そもそも新しいことを学んで自分をアップデートしたい人はどのくらい存在するのか、多く見積もっても20%もいないのではないかと感じています。
そうであるならば、慣れ親しんだことを「ジョブ(業務)」として与える、というのも選択肢ではないかと思います。ただし、事業が衰退しつつあって利益が出なくなっている状態ですから、高い給与を期待してもらうのは困ります。
全員が成熟期・衰退期の事業に関わっていたのでは会社としての存続は危ういので、一定の年齢以上の人で入社以降ずっとその事業をやってきた、という人にその事業は委ねてしまい、新しい事業はもっと若い人たちにやってもらおうということです。
年齢別組織は事業ポートフォリオの入れ替えをスムーズにする、というメリットの他、従業員のエンゲージメントにもよい効果をもたらすことが期待できます。
大企業でエンゲージメント調査をすると大抵の場合、「とても低い」という結果がでます。
それを改善すべくプロジェクトチームが作られ、エンゲージメント調査の結果を分析して対応策を導こうとしています。でも考えてみてください。働き方を変えたり、コミュニケーションをよくしたりすることで抜本的に解決できるのでしょうか?
先日渋谷の会社を訪問したときに、そこの社長はグループ企業を100社に増やすことを目標にしているという話を聞きました。新しいアイディアを提案し、そのアイディアがユニークで実現可能性が高ければ、採用され、起案者が経営に加われるのだそうです。
大企業に入って経営の中枢に携われるのはたいてい50歳を超えてからです。そのような大企業と、この渋谷のような会社と、若い人たちはどちらに魅力を感じるでしょうか?後者に惹かれる人が増えているというのが実感値です。若いうちから責任のあるやりがいを感じられる仕事ができる、という体制を作る方がエンゲージメントを上げられるのではないかと考えています。
「年代別組織」というアイディアはとても面白がられるのですが、残念ながら実施しましょうとおっしゃる方はでてきません。ただ、過去に一つだけ私が知る限り実際の実施事例があります。某証券会社の岡山支店では1990年代、営業組織を年齢別組織に変えていたという話を聞きました。年齢別組織に変えて何がわかったか、シニアはシニアでミドルはミドルで、若手は若手で、それぞれの階層にリーダーが生まれ、そのリーダーが成績をあげるために同年代の人の知恵を結集して営業戦略を作る動きが出てきたそうです。年齢が上だから、役職が上だからと言ってあぐらをかける状態を取り払った結果、その支店では活気があふれていたそうです。
最近「両利きの経営」が話題になっています。その具体的な実現方法の一つとして、年代別組織は有効ではないかと考えています。
処方箋4:スポンサー探しで企業文化を変革
処方箋1〜3は過激すぎる、我が社では実現不可能と言う場合にお勧めしたいのが、この方法です。「幹部研修」という場を使いながら経営陣の意識を変えるとともに企業文化を変えていこうというアプローチです。
多くの企業では、新しい事業を開発するための何らかの取り組みが行われていると思います。私たちも創業以来新規事業開発プロジェクトをいくつも支援してきました。しかしながら、アイディアが固まっていざ経営陣に提案すると、論理的な説明もないまま、「それはうちの強みが生かせない」とか「必然性がない」とか、挙げ句の果てには「うちらしくない」などと言って拒絶するという場面を幾度となく経験しました。
そこで、新しい事業アイディアを固めた起案者(起案チーム)は、投資を決定する役員会にかけるのではなく、その前に、そのアイディアを社内で通せそうな役員クラス、事業部長クラスのキーパーソンを探し、「スポンサーになってくれ」と頼んだ上で、そのスポンサーとともに役員会にかけることを業務フローとするという方法です。
そして一つルールを設けます。起案者(起案チーム)から提出されたアイディアに対して、相談を受けたスポンサー候補は必ずGo/No Goの判断を下すこととし、その判断の根拠を明確に示すことを義務付けます。そして実際にどのような理由でGoあるいはNo Goとしたかは、社内SNSなどで共有される仕組みを作ります。
何が狙いかというと、このようなことを制度化することで、社内の変革に前向きな人、後ろ向きな人を可視化することです。
こうすることで何か起こるか?スポンサーになってほしいという相談が来ない役員や事業部長は、内心穏やかではないはずです。彼らから、社内に「何かおもしろいアイディアがあったら私のところに持ってきなさい」というメッセージを発信し始めます。
経営には変革型リーダーと調整型リーダーはどちらも大事です。変革型ばかりでは会社はおかしくなります。しかしながら調整型ばかりでは、会社は成長しません。誰が変革型なのか明確にし、その人たちに事業の成長を牽引してもらう仕組みを作る必要があります。処方箋4はそのような動きを加速し、企業文化を変化させる効果も期待できます。