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経営者が喜ぶ研修企画の極意 ~第1回 成果と行動の関係性を理解する ーセミナーレポートー

経営者が喜ぶ研修企画の極意 ~第1回 成果と行動の関係性を理解する ーセミナーレポートー

話の前提・・・経営者は業績向上を求めている

上場企業の場合、株主からは、5年で売上1.5倍、利益2倍くらいのスピードで成長することが求められます。なぜならそれがグローバルスタンダードだからです。
ですから、経営者が人財の育成に投資を行うのは成果をあげる=業績を上げるためであるという前提に立って話をします。

ちなみに5年で利益2倍にするなんて無理だと皆さんは思われるかもしれませんが、決して不可能な話ではありません。
例えばある会社の売上が100として、原価が60で粗利が40残るとします。そのうち人件費等々販管費で35引かれて、営業利益が5の会社があるとしましょう。(営業利益率が5%という会社は結構多いです。)ここで単価を3%上げる努力をすると売上が100から103に伸びます。原価を3%削る努力をすると58.2になり、粗利は44.8に増えます。
販管費を3%削減できれば、35が33.95となり、営業利益は10.85になります。5の2倍以上です。3%ずつ改善の努力をするだけで利益は2倍になるのです。「利益を2倍にしろ」と言われると、「2倍も働くなんて無理。ありえない」と思われるかも知れませんが、3%ずつの努力で業績は大幅に改善するのです。このような感覚を研修企画担当者にも持っていただきたいと考えます。

研修の企画のポイントは自社の業績がどのように生み出されるのか、「パフォーマンスモデル」を理解すること

研修の究極的な目的が、成果を出す=業績をあげるということだとすると、研修企画者の方が必ず押さえておかなければいけないのは、自社の業績がどのように生み出されるのか、「パフォーマンスモデル」を理解することです。

パフォーマンスモデルについてもう少し説明します。

いちばん上に書いてある「X」、これが「業績」だと思ってください。業績Xを生み出すためにはいろいろな変数が影響を及ぼしている、AとかBとかCとかいろいろな要素が絡んでいます。
例えば、コミュニケーションの善し悪しみたいなことも結果に影響してくるかもしれませんし、一人一人の社員の知識やスキルというものが結果に影響を及ぼすかもしれない。いろいろな要素が絡みあって結果というものが生み出されます。
研修を企画するにあたって非常に重要なのは、どの変数をいじると結果がぐっと上がるのか、ここを見極めることが非常に重要になります。
右側に難しい数式が書いてありますが、∂X/∂A、∂X/∂B。要するに、AをちょっといじったときにXがどれくらい動くか、BをちょっといじったときにどれくらいXが動くか、これは偏微分係数と言いますが、いちばんXを動かす変数が何であるかを探し出すことが重要です。

ケーススタディー:パフォーマンスモデルの例

私は20年くらいリーダー育成に関わってきました。製造業のお客様が多いので、これから示すのはメーカー様の事例です。これが全ての企業にあてはまるかどうかはわかりません。商社や飲食業などは違うモデルで動いているのではないかと思います。

ざっくり言えば、会社の中には、方向性・方針を決める人、戦略を作る人、戦術に落とし込んで実行する人の3階層があります。
方針を作る人は政治、経済、社会、技術、環境、規制の動向を予測し、自社にとってどのような機会が生まれるか、どういう脅威が発生するのかを予測して、ゴールや目標を決めます。
そして各本部、部、室などに対して、方針にそって成果を上げるよう要求します。
例えば、製薬会社であれば、今までは糖尿病や高血圧など生活習慣病の薬を作ってきました。
しかしそこでは、画期的な新薬を生み出すのは困難となり、競争も激しい。これからは癌領域が伸びそうだ、ビジネスチャンスがありそうだ、ということになると、「癌領域で世界ナンバーワンの会社になろう」という目標が立てられます。
そして研究開発部門に対しては、癌に効果のある薬を開発せよということが要求として降りてきます。あるいはそれがうまく開発できたとすると、グローバルで承認されるように動けとか、自分たちの会社だけで売るのでは不十分ならば、ほかの製薬会社と提携せよ、などの成果要求が生まれてきます。本部、部、室は経営から降りてきた成果要求を実行するために、実現にむけた戦略をたてて、現場のマネージャーに実行を求めます。
現場のマネージャーたちは与えられた成果要求に応えるために、成果を細かく分解して、この部分はあの人にやってもらおう、この部分はこの人にやってもらおうという形で仕事を振り分けて目標達成に向けて動機付けを行います。うまくいっているかどうかフィードバックなども行い、ある程度一定期間が終わると「今年は頑張れたね」とか「ここを改善していかないとね」みたいな形でフィードバックを行い、PDCAサイクルあるいはOODAサイクルを回していきます。

「Results」「Outcome」「Output」の違いとつながり

日本語の成果に該当する英語は3つあります。「Results」(リザルト)という言葉と「Outcome」(アウトカム)という言葉と、「Output」(アウトプット)です。
リザルトというのは、事業上出すべき成果、売上が上がったとか新しい製品が作れたとか、ビジネス上意味のある「結果」です。結果は複数の成果が重なり合って生まれます。
そして一つ一つの成果はインプットとアウトプットの連鎖で起こります。

抽象的な話ですので具体的な事例でお示しします。
弊社の場合、人材開発や組織開発を請け負っているわけですが、社長である私は営業部門に受注を上げるよう要求します。「受注」という結果(リザルト)は3つくらいの成果(アウトカム)を重ねる必要があります。
一つ目は、お客様のニーズを捉えていて、これは是非実施したいと思える提案、心を動かせるような提案が作れないと駄目です。もちろん提案書がただあるだけでは受注につながりません。二つ目として、上手に説明したり、価格の交渉したり、説明力や交渉力の高い営業マンが育っていないと受注には至りません。受注してもクオリティーの悪い研修では取引が長続きしませんので、三つ目として、約束された品質で「納品」がしっかり行われる状態が作られていなければなりません。
一つ目の「ニーズを捉えた提案書」ですが、お客様の現状や目指していることについて、情報を収集する、その情報を分析して課題を抽出する、その課題を解決するためのアイディアを出す、そのアイディアを提案書という形にまとめあげる、などの一連の行動があってはじめて作り上げられます。これらの行動は、コンンピテンシーなどと呼ばれています。成果(アウトカム)を上げるのに必要な行動です。
研修の企画をしようと思うと、結果を出すためにはどのような成果が必要か、その成果を上げるためには、どのような行動が求められるのか、結果につながる行動を特定し、その行動を開発することが極めて重要で、そうでなければ無駄な研修である、と言われても反論ができません。

結論を申し上げると、経営者を喜ばせるのであれば、業績を生み出す行動を開発することが重要であるということ、人材開発とは行動開発である、ということです。

効果的な行動開発のために行動の発生源、促進、抑制される要素を知る

行動が何によって引き起こされるのか、これは行動心理学の領域です。行動に影響を及ぼすものは大きく分けると4つくらいあります。
1番目は知識、スキル、経験、これが行動に影響を及ぼします。例えば私は医学の知識が一切ありませんので、道端でおばあさんが急に倒れても救命行動は取れません。せいぜいやれるのは電話をかけて救急車を呼ぶくらいです。知識、スキルが行動に不可欠なのはお分かり頂けると思います。
2番目がマインドセットです。どんなに知識、スキルがあっても、「今日はやる気が起きないなあ」という日もあるわけで、そんな日は行動を起こしません。
3番目、ここが重要になりますけど、行動の根源にあるのが動機とか性格特性と言われるもの、これが行動に大きな影響を及ぼします。いずれも個人の内部要素です。

一方で、アメリカにATD(Association for talent development)という研究組織があるのですが、その中にパフォーマンス・マネージメントを研究する部会があり、そこでは組織行動に影響を及ぼす外部要因として1 から6の要素を挙げています。
1番目が知識・スキルを学べる環境、それから物的資源です。例えばリモートワークをしようと思っても、パソコン、スマホがないとできませんので何らかの道具は必要です。あとよく出てくるのが組織の壁みたいなことで、組織がうまく作られていないと壁があって動けないみたいなことが起こります。それから評価制度や報酬、インセンティブも行動を促進したり抑制したりします。

「マインドセット」を変えることが結果を出す組織への鍵になる

研修を企画する立場としては、①知識・スキル・経験(表層的)、②マインドセット、③動機・性格特性(深層的)、どこを刺激するかということになると思うのですが、動機や性格特性は20歳くらいまでに固まると言われていますので、研修で変えるのは困難です。研修企画者ができるのは、知識・スキルを高めるのか、マインドセットを変化させるのか、の二つです。知識・スキルは、何歳になっても学べますが、変化が激しい中では陳腐化しやすく、世の中が変わるとなんら価値を持たなくなることも珍しくありません。
インヴィニオは、マインドセットに刺激を与えることで行動を大きく変えたいと考えており、そのためのやり方を独自に編み出したり、外部から仕入れたりしてきました。

組織文化がマインドセットに影響する

マインドセットに大きく影響するのものとして見落としてはいけないのが組織文化です。例えば、出る杭は打たれるような組織文化があると、「うちの会社で目立ったことをすると良いことないよね」というような認知が行われ、「言いたいこと、やりたいことはあるけれど、やめておくか」という行動を取ることになります。
ですから、組織文化は行動に影響を及ぼす重要な要素で、業績を上げるような行動の開発をしようと思うと、実は研修の企画をするだけでは不十分で、組織文化の変革なども視野に入れていただく必要性があります。ここが難しいところです。
組織文化は目に見えませんが、可視化するツールはあります。そのようなツールを使って見てみると、当社にはこのような組織文化があるな、ここは強みかも知れないが、ここは明らかに弱いな、というようなことが見えてきますので、それを矯正するためのワークショップなどを企画することが可能となります。

行動変容のためには3つのステップが必要

もう1つ効果的に行動を開発する上で研修企画者が知っておかなければいけないのは、行動の変容には3つのステップが必要だということです。
自分ができていないことに気づいておらず、行動もできていない「無意識無能」の状態から脱して、「有意識無能」の状態になるのが第一ステップ。「自分はいけている」と思い込んでいる人に、「そうではないですよ。あなたはいけていませんよ」という「気づき」を与えることがポイントです。有意識無能の状態の人に対して、どう行動したらよいか具体的な行動イメージをもってもらい、行動を起こすことによって得られるメリットもイメージしてもらって、実際に行動を起こして「有意識有能」の状態になってもらうのが第二ステップです。その行動が1回で終わらないようにするには「習慣化」が必要で、定期的なコーチング、1on1などを通じて、繰り返し行動を続けてもらい、意識しなくても行動できている「無意識有能」の状態になるのが第三ステップです。
1日の研修メニューを考えるときには、無意識無能の状態から有意識無能、有意識有能の状態までもっていくインストラクチャルデザインが重要ですし、長期プログラムであれば、行動変容を徐々に促す全体としてのインストラクショナルデザインが重要になると思います。

さらに、行動開発を確実なものにするためには、研修の企画だけでは不十分で、評価基準を見直すとか、Way、Valueを策定するなど、会社として求める行動を意識し続けさせることも重要で、総合的に取り組む必要性があるということです。

まとめ 人財開発は行動開発

第1回目のまとめです。

・ 「成果」を上げるには「行動」が必要であり、「人財を開発する」というのは、結局のところ、「行動を開発する」ことである
・ 行動の中には業績につながる行動とつながらない行動がある
・ また、詳しくは述べませんでしたが、開発しやすい行動と開発困難な行動がある
・ 行動を生み出すのは、①知識・スキル ②マインドセット ③動機・性格特性などだが、研修で変化させられるのは①と②(インヴィニオは②を変える研究をしてきました)
・ 研修企画者は、業績を上げるためにはどの行動を開発することが有効か、どのように開発するのが効果的かの2つを明確にできる必要がある
・ 行動は組織文化や評価基準などにも影響を受けるので、行動開発のためには、研修の企画だけでなく、パフォーマンスモデル全体を視野に入れた総合的な施策の企画も必要である