Leadership Insight

第二回:戦略人事はウチにはまだ早い、は本当か? HRBPが持つべき4つの視点

LEADERSHIP INSIGHT | 2020/07/15

前回のブログでは戦略人事の提唱者であるデイブ・ウルリッチのフレームワークを改めて御紹介し、さらにPPTIというシンプルですが、何気に使えるフレームワークを御紹介しました。たった一つのツールでも今日から使ってみることで、昨日とは違った風景が見えたり、違う会話ができるようになるということはよくあることです。このブログではできる限りシンプルに、HRBPやアラインメント・リーダー®を目指す皆さんのサポートをさせて頂ければと思います。

HRBPが持つべき4つの視点

さて、今回のブログのタイトルですが、「HRBPが持つべき4つの視点」です。

なぜこんなテーマで今回のブログを書こうかと思ったかというと、「戦略人事と言っても、事業部長や経営陣と何を話していいのかわからない」というお声をよく聞くからです。
HRBPという名称には「Business Partner」が含まれていますので、当然、ビジネスに対する理解が求められます。しかしながら、ビジネスのことは現場の社員が一番知っている、だからビジネスに対する理解と言われても・・・というのが人事側の(悲痛にも似た)声ですね。これはとてもよくわかります。たしかにビジネスを理解するには現場の経験も必要でしょうし、現場の社員以上にビジネスに関する洞察を生み出すのは非常に高いハードルかもしれません。
ですので、今回のブログでは「こんな4つの視点を持っていれば、ビジネスの話ができるきっかけになりますよ」というものを御紹介していきたいと思います。

この図では横軸に過去・現在・未来という時間軸を取ります。皆さんは図の中央、現在にいるとお考え下さい。そしてもう一つの軸、縦軸はパフォーマンスです。営業成績でも、本社のバックオフィス部門の仕事でも構いません。期初に立てている目標に対して上は超高業績(期待をはるかに上回る業績)、真ん中は業績達成、下は超低業績です。この2軸をつかって4つの象限を作りますが、紙面の関係で今回は左下、つまりは時間軸で言えば過去から現在まで、業績で言えば業績未達のケースとしましょう。過去から現在までのお話ですので、既に事実は確定していて、「問題あり」とされるケースです。営業の方の数字が未達であったり、やるべきバックオフィス部門の仕事の遅延やミスが多かったりと、目標に到達していないケースがこれに該当します。

Zone-1:HRBPとしての問題解決方法

ここで皆さんがHRBPとして呼ばれ、業績を達成するためのアドバイスを求められたとするのが今回のケースです。相談内容はいろいろなバリエーションがあると思いますが、この「問題が既に顕在化」してから相談を持ち掛けられるというケースはよくあるのではないでしょうか?いわゆる「問題解決」のケースです。問題解決のケースなので、問題解決のステップである問題の所在の把握から始まり根本原因の特定、解決策の立案、実行とモニタリングという手順を踏めばよいことになりますが、HRBPはビジネスパートナーであることを期待される一方、HRのプロフェッショナル、つまり人と組織の観点から戦略実行・業績向上に寄与することのできる人、という期待もされますので、なんらかそれっぽいことを言わなくては・・・というご経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか?

そこで前回、御紹介したPPTIを引っ張り出して、HRのプロフェッショナルっぽい感じにしていこうと思います。
まずPPTIの復習です。

Process:そのニーズを満たすための業務プロセスは整備されているか、十分に効率的か?
People:そのニーズを満たすための人財像は明らかになっているか、現在のキーパーソンは?
Tools & Technologies:そのニーズを満たすために現場の社員が使えるツールやテクノロジー(例:データ分析ツール等)は何か?
Information:そのニーズを満たすために必要となる情報は何か?

たんなるHRではなくHRBPですので、物事を広く、いろいろな観点から見ることが重要です。ここに今回は皆さんもよくご存知かと思われる立教大学の教育学者で企業内人財育成でも高名な中原淳教授の「支援・関わり方」の情報を入れていきましょう。

PPTIに支援方法を組み合わせる

人の成長を支援するためには3つの関わり方があるというのが中原先生の提唱されていることで、「業務支援(仕事のやり方を教えるOJT的なもの)」、「精神支援(つらいときや困難に直面した際に励ましてくれること)」、そして成長に最も関係すると言われる「内省支援(自分の考え、行動を振り返り、強化、修正のためのサポートをしてくれること)」があります。
PPTIを横に取り、縦軸に業務支援、精神支援、内省支援を取ります。


この3つの支援をHRBPがやるのは非常に大変ですし、現実的ではありません。例えば、現場の詳細を知らないHRBPが業務支援をすることはできませんし、HRBPがある日突然現れて、「つらいかもしれないけど、頑張ってよ」と言ったところで、「お前に何がわかるんだよ」となりかねません。
ですので、支援の仕方ごとにPPTIが異なり、業績が目標に届いていない従業員を多面的に支援し、パフォーマンス向上、そしてエンゲージメント、エンプロイー・エクスペリエンスにつなげていくという方法をとるのが「戦略人事」ということができます。

ここでは精神支援を取り上げましょう。
この精神支援をHRBPがやることももちろんあります。しかし、先述の通り、従業員一人一人の性格や置かれている状況、現場の業務プロセスの細部に至るまで一人のHRBPが把握するのは不可能です。
ですので、精神支援を行える人、ここでは同僚というPeopleの特定から始め、どのようなプロセスで実施するのが良いか、ピア・コーチングのような仕組みや実践事例がなければ、そのプロセスを作り、どのようなことをやるのか、上司の協力も得た上で導入していきます。さらにコーチングをする同僚が使えるツールはあるか、いまであればオンラインでもコミュニケーションが取れるようなテクノロジーがあるかどうかも確認します。会社によってはピア・コーチングのための「コーチングガイド」を整備しているところもあります。PPTIの最後のI=必要なInformationは該当しないケースもよくあります。その場合は無理やり「こんな情報があったらよいのでは?」ということを検討するのではなく、空欄で大丈夫です。要するにニーズに対して、PPTIを最大限活用し、ニーズに応えられれば良いので、Iがなくてもその他のPPTだけでニーズが満たされるのであれば、それでOKです。

こんな感じで、PPTIというニーズに応えてパフォーマンスを上げるための基本のフレームワークと、HRプロフェッショナルとしては基本的な知識である「業務支援・精神支援・内省支援」の考え方の2つを組み合わせるだけでも「戦略人事の初めの第一歩」を踏み出して頂くことはできるのです。

今回はもっとも簡単なケースを取り上げましたが、次回以降はZone-2、3、4を順番に取り上げていきますので、是非お付き合いください。

もちろん、組織内でおきる事例は個別具体的、ケースバイケースですので、弊社ではHRBPスキルアップトレーニングと同時にBPフォローアップカウンセリングのサービスも提供しています。詳しくは、info@invenio.jpよりお問い合わせください。)