Leadership Insight

変化への適応と“トランジッションマネジメント”

LEADERSHIP INSIGHT / CCL | 2022/04/26

変化の中でリーダーが焦点をあてるべきもの:トランジション

皆さんの組織は変化にあふれていると感じていますか?リーダーとして直面するニーズの変化に応えるのに苦労していませんか?もしそうであれば、それは皆さんだけではありません。絶え間ない変化が当たり前になりつつあります。リーダーはそれに適応し、また部下も適応できるように手助けするしかありません。

リストラ、M&A、財務問題などの組織での出来事に直面すれば、そのたびにリーダーは自分の仕事を見直し、自分の部下も変化に適応するようにリードしなくてはなりません。また、結果を出さなければならないというプレッシャーや、相反する要求を満たさなければならないというプレッシャーが激しさを増していきます。さらに、経済、業界および市場の動向、グローバル化、政治的・社会的関心、急速な技術革新などの外部要因によって、リーダーシップはより複雑で困難な任務になっていきます。

しかし、誰もが耳にしたことがあるように、「変化は人生で唯一不変のものである」と言われています。そして、個人的にも仕事上でも、レジリエンスを発揮するためには、私たちは変化に正面から向き合い、その先にたどり着かなければなりません。

効果的なリーダーは、変化や転機で成功を収めるには、単に変化に対応するだけでは不十分であり、目標は「何とかなる」ことではないと理解しているはずです。このようなリーダーは、変化が起きていることを受け入れ、未知のものに対処するための戦略を磨き、新しい状況や課題に合わせて行動を変えていくものです。

変化とトランジションの違いは何か?

変化を管理するためには、まず、「変化」と「トランジション(移行)」の違いを理解しておきましょう。

  • 変化とは、組織や個人に影響を与える状況や出来事と定義されます。新しい上司の就任、在宅勤務への移行、方針の変更など、変化によってこれまでのやり方から今のやり方にトランジション(移行)する必要性が産まれます。変化に対応するためには、柔軟性が必要です
  • トランジション(移行)とは、新しい状況に適応するための内的な心理プロセスです。トランジションは、すぐに進むこともあれば、ゆっくりと進むこともあります。古いものから新しいものへとうまく移行していくプロセスを指します。ここでは、トランジションにおける3つのステージを乗り越えるためのヒントをご紹介します。

トランジションの3つのステージを乗り越えるためのヒント

変化の管理(チェンジマネジメント)の第一人者であるウィリアム・ブリッジズ氏は、トランジションには、「終わり」「中立圏」「始まり」の3つの段階があると述べています。

トランジションのステージ1:これまでの終わりを受け入れる

過去に終わりを告げましょう。過去の終焉に敬意を表し、悲しい場合もそれを受け入れるようにしましょう。過去を完全に終結するために、以下の3点を試してみてください。

  • 変化が起きたことを自分自身や他の人に対して認めましょう。模範となって変化を導くには、正直さと信頼性が必要です。
  • すべての関連情報源から積極的に情報を得ましょう。自己判断だけではなく、変化の本質を知ることが重要です。
  • 何が失われ、何が得られたのかを記録しましょう。今までと違うことが正しいとか間違っているということはなく、ただ今までとは違うだけなのです。

トランジションのステージ2:中立圏を過ごす

この時期は、転換期の中でも最も居心地が悪いかもしれません。明確な終わりがありながら、明確な始まりがないという混乱の時期です。しかし、この時期は、明確な結論が得られ、新たなスタートを切ることができる時期でもあります。中立圏を乗り越えるために、以下の4点を試してみてください。

  • 不確実性は、終わりと新たな始まりの間の不可欠な段階であることを認識しましょう。すべてを知ることや、完璧であることを望んではいけません。
  • 不確実性を乗り越えるために、短期的な目標を設定しましょう。新たなスタートに向けて前進する際には、その目標を達成するために必要な事を把握し、前進するための機会を見極めましょう。
  • 終わりを振り返って、自分が何を持っていたかを確認しましょう。始まりに目を向け、それが生み出す可能性に期待しましょう。
  • 自分の価値観につなげましょう。不安や混乱を感じたとき、自分の価値観が方向性を示してくれます。

トランジションのステージ3:新たなスタートを切る

中立圏で明確になったことに基づき、変化した環境での仕事にチャレンジしてみましょう。この段階は、新たなスタートと考えてください。以下の3点を試して、新しいスタートを踏み出しましょう。

  • 新しい人との出会いにすぐに飛び込みましょう。慣れてきたら、関係者にも新たなスタートの場を与えてあげましょう。
  • 新しい問題に取り組むための戦略を立てましょう。新たな問題に直面したときは、変化の理由を再度確認し、その理由を「新たに始める理由」として認識しましょう。
  • 自分の成功を示す方法を見つけましょう。小さな成功を認めていきましょう。

人はさまざまな方法で組織の変化を経験し、トランジションのプロセスも人それぞれです。リーダーである皆さんは、自分自身を取り巻く不確かさや変化への抵抗感に対処しなければなりません。終わり、中立圏、そして新たな始まりを経験するプロセスが、自分の仕事や周囲の人々に影響を与えることを認識しましょう。

変化とトランジションの人間的要素をリードする

急激な変化と絶え間ないトランジションにより、組織内にはより大きな感情の流れが生まれています。

不確かな状況は、リーダーや、リーダーの決定によって影響を受ける人々の、行動・感情面でのあらゆる反応を引き起こす可能性があります。絶え間なく続く組織の変化に直面すると、リーダーの立場にある人は変化に疲れてしまうかもしれません。

トランジションが複雑であったり激しくなったりするのは変化によるものです。つまり、変化が頻繁であったり、劇的であればあるほど、トランジションのプロセスも複雑になっていきます。しかし、組織やリーダーは、往々にして、変化における人間的な要素を見落としたり、見過ごしたりしています。

CCLから出版されている『Leading With Authenticity in the Times of Transition(転換期における真のリーダーとは)』で述べているように、多くのマネジャーは、ビジョンの策定、組織の再編成、リストラなど、変化をリードする際に起こる構造的な出来事を熟知しているものです。彼らは、変化を導入する際に起こり得る問題に対処するために、報酬や評価、教育を受けているため、このような問題についてより経験があります。

しかし、それだけではなく、体制や業務の変化によってストレスやプレッシャーが生じるため、組織内の人々に何が起こっているのか、注意して見守る必要があります。

調査によると、変革への取り組みの75%はうまくいっていないようです。なぜでしょうか?それは、変革を成功させるためには、リーダーは、変革をリードする構造的な要素と、トランジションする際の人間的な感情の動きの両方に効果的に対処しなければならないからです。

どちらか一方のスキルが過剰に発揮されると、リーダーは信頼を損ない、組織文化が不安定になってしまいます。経営者やマネジャーは、忠実で、生産性が高く、熱心な従業員ではなく、不安や恐れ、疑念を抱く従業員を抱えることになってしまうのです。さらに、従業員から十分な賛同を得られなければ、新しい目標に向けての進捗が遅れ、プロセスが弱体化してしまいます。

リーダーが変革を管理する上での「人」の要素を無視したり、軽視したりすると、せっかくの優れた戦略や変革への取り組みが停滞したり、失敗したりします。

CCLの調査によると、トランジション期を乗り越えるには、人々が嘆き、手放し、希望を築き、学ぶプロセスを導くことが必要です。多くの意味で、リーダーにとっての大きな課題は、変化における長期的で人間的な要素(回復、再生、再コミットメント)を管理することです。これらは、成功するチェンジリーダーになるために必要なことです。

変化を乗り越える際の人間的要素をしっかりと意識することで、皆さんと皆さんの組織は、より変化に対応し、変化を難なく乗り越えることができるようになるでしょう。